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覚めた夢の続き  作者: 神無
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取引の謎

訳も分からず走り出したのは村へと続く下り道。掟とかではなく、翠が行ってはならぬの言った顔が忘れられず、気にはなったが方向転換をし、トボトボと山を登ろうとした時だった。



消え入りそうな優しい女性の声が、巳弥の耳にすうッと入ってきた。反射的に後ろを向く。その時まるで時間が止まったかのようにただ目を見開き立ち尽くした。




「雪乃、ちゃん……?」




――――この森に入った人間の命の保証はない。



自分の頭の奥に、乙鬼と取引をしたときの言葉が何度も何度も響いてきた。



「あぁ…っは、はやく…「外」に……!!」



他の妖怪に、――乙鬼に、見つかる前に。



かつての友人が、まさか森に入ってくるなんていったい何があったのか。なんて事情を聞く暇もなければ、頭がついて行かずにただ、震え上がる全身を何とか動かし、雪乃の手を取り村への下り道を走った。



いったい、何故。



確かに村の人は、「森の妖怪は乙鬼の命により、村を襲えなくなった」という事実は知らないため、いつ襲ってきてもおかしくないと未だ思っているに違いない。それでも何故、雪乃が森に入ってきたのか。それも、あんなに登ってきてあと少しで乙鬼の家だった。会ってしまっていたら、確実に殺されていた。人間が入ったら殺される。




「待って、巳弥…!話を聞いて!」


腕を無理やり引きながら走る巳弥を逆にひっぱり返し雪乃は巳弥の動きを止めた。大きな声を出したことで、周りの妖怪が気づいてはいやしないかを気にしたためである。



「話は…!ここを出てからにして!!」


声を抑えて鋭く発す巳弥の目には焦りが浮かんで見えた。しかし、それでも巳弥の引っ張る力に逆らって動こうとしない雪乃に、仕方なくあたりを見回した。


そして妖怪が万一来ても大丈夫なように、まだあまり葉が散っていない木を見つけ枝に足をかけて雪乃に登らせた。


時間はかかったが何とか登れたのを確認すると、すっかり慣れている巳弥はするりと木に登り、葉に隠れるように身を隠した。



「ここなら、まだ何とか……。」


雪乃の匂いがわからないように巳弥は自分の羽織を彼女に被せてあたりの匂いをごまかした。会合で多くの妖怪が死んだのが今は幸いして、雪乃という人間の匂いを消しているのか、普通なら瞬時に現れてもいいはずの妖怪は一匹も出て来なかった。


周りの妖怪は巳弥がいるとしか思わない。巳弥でさえ必ず安全とは言えないので注意しなければならなかった。


あたりに気を向けながら、雪乃に森へ入った理由を聞いた。




「巳弥が、森へ行ってしまってから村が襲われることはなくなったの。村の人たちは、巳弥のおかげだと感謝してた。やっと平和が来たって。」



静かに話始める雪乃は、徐々に涙声になり話していく。


「でも、また奴らが……。」



しゃべり終えることなく泣き崩れる雪乃。その様子を巳弥は唖然とした表情でつぶやいた。



「え、?―――そんなはず」


ない――――。



だって乙鬼は、私が森から出ないかぎりは村を襲わないといった。そして逆に森に入ったものの命は保証しないともその時言った。



約束を守っているのに乙鬼が破るわけもないので、乙鬼に不満を抱くものの仕業だろうか。



「村ではないわ。でも、里が襲われる事件があって…女子供以外は殺されるか、里を追い出された。その追い出された男の人たちがこの村に逃げてきたの。」



「里?」


それって、こ…心当たりある…。ありまくる。


 それもかなり記憶に新しい。乙鬼の少年に化けた姿見たさに里に行ったら捕まって、となり山に共に連れて行かれた時のものだ。


 ガキンチョがいたからさみしくはなかったが、自分自身我を忘れてしまったこともあり、あまり何があったかは覚えていない。



 おそらく乙鬼が解決してくれたんだろうけど、いったいそれがどうしたのか。




「追い出された里の人は、2~3日村に滞在した。村も里も仲良くなったけど、村の人たちは、束の間の平和だったのだと怯えていた。それで、」



「それで?」



「巳弥が森に行ったことで、本当に平和になったわ。でもまた新しい娘がいるのではないかと。その、つまりは…」



「――――生贄?」



ポツリと地面を見ながら、呟いた巳弥の言葉に静かに雪乃はうなずいた。


なんてことだ。そんなものを信じる時代なのか。乙鬼を、山神様だとでも思っているのか。いくら若い娘がいないからといって、幸せをつかんだばかりのこの子を、村に連れ戻し贄にするなんて。



「雪乃ちゃん、すぐにここから出るの。森の長と私は取引をした。私がここから出なければ、村は襲われない。里が襲われたのは、乙鬼を憎む者の掟を破る妖怪達の仕業であって里の人たちは巻き込まれただけなの。その妖怪はもう死んだ。」



「え?ちょっと待って。あの冷徹と言われる乙鬼がそんな取引?森から巳弥が出なければ……って、なんでそんな取引持ちかけるの?私はずっと、巳弥はうまく長を騙せているのかとばかり」



「ううん、一瞬で人間だとバレたよ。でもかなり気まぐれに取引を持ち出してきて、生かされた気がする…。」


「気分屋という話は本当なのね。」


この話はおいといて…と話を戻す。

「この森は乙鬼が支配してる。そこには掟が存在する。私との取引で新しい掟ができた。森から出て人に危害を加えた妖怪は掟破りとして殺される。村を襲わない代わりに、私もここからは出てはいけない。」



「……そんな」


「あ、でも助けようとしなくていいよ、結構気に入ってるの。此処の生活。」



「……そう、そうなの。なら良かった。ミツさん、ずっと心配してたよ。だから、巳弥が元気そうにしてるなら、よかった。あの人もきっと喜ぶわ。」



「懐かしいな~ミツさん会いたいな。」



「……。」



雪乃に大切なことは伝えたし、あとは森を出るだけだ。巳弥は話しながらもあたりを警戒しながら、暗くなって何も見えなくなって来ても気配や物音を聞き逃さないように頭をフル回転させた。

まだ森まで少し歩く。その間に遭遇しないように、草木に隠れながらゆっくり進んでいった。



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