散歩
雪女というよりそれと同時に出現する真似妖怪を退治し一件落着。そしてそのまま帰ってきたが、雪が降り積もっていた形跡はなく、地面は真っ白から、枯葉の絨毯に元通り。それでも凍える寒さはたいして変わらなかった。
「……!乙鬼様、例の妖怪は始末出来たんですか。」
「……ああ。あとは任せる。」
あとは任せる。と言いいつものように木々を飛び越えて姿を消した乙鬼に渡されたものはもちろん巳弥。
戸の前でお腹をおさえて立ち尽くしたまま、じーっとこちらをみる彼女。
一瞬寒さで腹痛でも起こしたのかと思いきや、唸り声のような奇妙な音が腹から聞こえたので、準備していた食料を渡した。
「葵、ささささむい。」
「ん、なら中に入ってろ。」
焼き魚を両手に持ったまま戸をあけて中に入ったのを確認すると、自分の役目も終わりということで退散することにした。
そして、辺りに誰もいなくなり、部屋の中に1人巳弥がごろごろと寝そべっている時。静かに戸が開けられる音がした。
普段は扉が飛んでくるか、外に飛ばされるか。戸の扱いをする客人は珍しい。巳弥は、重い瞼をうっすらと開けて訪問者を確認した。
「翠…?久しぶり。今、乙鬼いないよー。」
「ああ、それなら問題ない。巳弥に会いにきたからね。」
「え私?」
暇してると思ってね。といいながら戸をガタガタと開けるが、どこかでつっかえているのか顔半分くらいしか開けられないらしく、何度もガタガタといわせていた。
「この戸、もう変え時じゃないかい。」
「私もそう思う。」
何度も試したが壊したほうが早いということで、軽々と戸を外に投げ飛ばしてしまった。
葵また修理よろしくーっとどこか遠くにいる葵に心の中で伝えておいた。
「散歩でもしないかい。森でも降りてね」
「え?あー…ダメダメ。森出たら、乙鬼に村滅ぼされちゃうし、殺されるし…約束したし。」
「うん。大丈夫、その乙鬼からの命だから。せっかくだから君もつれて行っていいか許可もらったよ。」
「ええ?嘘!?あんなに森から出たら殺すとか!村を滅ぼすとか!脅してきたのに!都の祭りの時に許可もらうのだってお願いするだけでも一苦労なのに。」
「うーん。何でそんなに彼が君を傍に置くのかは僕が聞きたいね。でも、今回はそうも行かない。今日は妖達の会合があるからね。」
「会合?集まりみたいなやつ?」
「そう。そこには乙鬼に恨みを持った奴や、争いをしにくる者もいる。とにかく普段動かない妖怪が、今日はぞろぞろと辺りに現れる。どこにいても危険だから、今日は巳弥を「外」に出せとの命だ。」
「へえ。葵とか、ガキンチョも行くんだよね。ガキンチョ小さいのに大丈夫かな…。」
「ガチョキンは全然大丈夫。葵もね」
「その自信はどこから…。てか、ガチョキンじゃなくてガキンチョ。」
とりあえず早々に支度をすると、翠は、巳弥を担いで速やかに森の出口まで到着した。もちろん森を出れば人間の道。翠のような妖がでればすぐにでも騒ぎになる。
銀の髪と瞳は漆黒になり服装も貧相なものを着て狐の尻尾や耳を消した。
「お、おおお…!これでどこからみても……結局ただのイケメン。」
「?これで人間に見えるかい」
「え、うん。まあ目立つことには変わりなさそう」
私の周りの上級妖怪たちは皆なんでこうも美形なのか。
本当の姿は強すぎるために人の身体を器にして力を抑えているとはいうものの、わざわざ無駄に秀麗な顔や恰好である必要ない。
むしろ自分の目の保養にはなるが、間隔がおかしくなりそうだった。
案の定、都に着き久しぶりの道を歩く。森を出たのが二回目である翠は、物珍しそうにあたりを見回すが、その挙動不審な行動がかえって巳弥をびくびくさせた。妖怪だとバレやしないかと。
しかし、都の女性は、そんな翠に頬を染めてじろじろと見ている。
「はあ…モテモテだね~こっちまで視線が痛いんだけど。」
溜め息をつきながら、ふと周囲をぐるりと見てみると、巳弥自身が人々と目が合っていることに気が付いた。釣り合わないとでも言いたいのかと、ギロッと不機嫌な顔をむけると、肩を震わせて走り去って行く。
「?」
別に睨んだわけじゃないのに?もしかして私目つき悪い?あれ、翠を見てる人もいるけど、大半は主に私を見てない?え、もしかして私もモテてるんじゃ!!
「うーん。巳弥、君…すっかり有名みたいだね。おそらく…里で暴れまくったからかな。」
「はい?」
なんだ。モテてるんじゃないのか。
里での妖怪出現の騒動は、村に妖怪がすっかり現れなくなった分すぐに広まった。周囲の視線からして都でも知らない人はそうそういないに違いない。
でも、その場にいたわけでもないのに何故自分の顔が分かるのだろう。噂は広まってもどんな人物かなんてわかるはずない。
「あ。わかった」
じーっと巳弥を凝視しながら考えこんでいた翠が、閃きポンッと手を叩いた。
「枯葉と土まるけだからだよ。」
「……。ああ!」
普通、枯葉や木くずなど数枚ならまだしも、あたかも体中が葉が引っ掛かって、土で汚れてしまっている。翠に連れてきてもらうときのスピードで汚れたのかと思ったが、「会うたびにそんな感じだからすっかり違和感なかったよ。」と満面の笑顔で言われてしまって何とも言えなくなってしまった。
これはいかにも森で暮らしていますと言っているようなものだった。寒いために水浴びも一苦労。臭いは大丈夫だが、今になって後悔した。
「ど、どうしよう翠。やっぱり森に帰ったほうがいいのでは。」
「やめたほうがいい。でも此処もまずいから、着物に付いた者払い落としてすぐに此処を離れよう。」
「ぎょ、御意!」




