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覚めた夢の続き  作者: 神無
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追跡

 あっという間に秋が終わり、静寂たる冬がやってきた。控えめな陽の光が心地く、大きな欠伸をしながら腕で身体を包み込むようにしながら部屋の中に戻った。この時代にはもちろん暖房など便利なものはない。出来るだけ沢山着込んでいたのでこれといって寒い思いをしているわけではないが、問題はこの何度も吹っ飛ばされている板戸だ。バキバキになってしまって穴もあいている。戸の役目をかろうじて果たしているくらいなので、冷たい風を遮ることもなく入り込んでくる冷気に時折、背筋をぶるりと震わせる。

 

「というか……なんで外と中の温度差こんなに激しいの?もしかして此処、暖房ある?」


 戸を開けると寒い風が中に吹きこんでくる。しかし部屋の中はわりと温かい。これはいったい何故なのかと思いながら、布団代わりに使っていた布を拾い上げてたたもうとする。すると見覚えのない着物その布の下にまぎれていた。


 寝る前はこの布切れしかかけて寝ないので、これだけでは薄いと思った誰かがかけてくれたのかもしれない。それにしてもなぜ着物をかけてくれるのだろう。しかもサイズが子供用。しかしおかげで温かく眠れたがいったい誰が……


「起きたか。」


「乙鬼?朝早くからどうしたの」


 すると彼の目線は巳弥の膝にある小さな着物。黙ってそれを取ると何も言わずスタスタと行ってしまった。


「え?朝から無視?」


「……。しばらく森を離れる。いつ戻ってくるかは分からない。」


せいぜい大人しくしていろ。と言いながらパタンと壊れた戸を閉める。


「あ、珍しく戸壊さなかった…ハッ!もしかして凍えてる私に気を使ったとか…!?」

「それはねえ。」


 突然背後から声がした。入ってきたのは乙鬼だけではなかったらしく葵も朝早くから現れた。


「いや、入ってきたのは乙鬼だけだったし、もしかして…覗き?はぁ、葵くん。君もまだまだ若いのねぇー」


「お前はババァか。起きてまで寝言を言うな」



 それにしても乙鬼は何故子供用の着物を持ってどこへ行くきなのか。知ってそうだったので葵に聞いてみると、彼はごろんと横になりながら話し始めた。


「お前は行ったことがあるかは知らねえが、此処から少し離れた里に行かれた。そこは孤榮の里というらしいが、村の奴らと同じく人はあまり住んでいない所だ。そこに妖怪達が襲おうとしているという話しを耳にした。」


 この森の妖怪は掟により森から外に出て人を襲ってはならないという決まりがある。他の森の妖怪ならほかっておくらしいが、万一この森の妖怪が人を襲おうとしてるなら、掟破りとして死罪なのだとか。そこで長が直々に調査に出掛けたということだ。



「うん。着物関係ないじゃん」


「あー忘れてたな。


 お前に夜中その着物をかけておいたのは、人間の匂いをつけていたんだ。乙鬼様が里へ着く前に、妖怪達が匂いに反応して逃げちまうだろ。しばらく様子を見るには人間に化けるのが一番だ。だからお前の匂いをつけたってわけだ。分かったか?」



「ええ、てことはその着物着るんだよね、乙鬼化けれるの?子供に?」



「ん?あぁ。」



「な、な…何てことなの!!!」


 突然横たわる葵に乗っかり目をきらきらと輝かせる巳弥に一抹の不安を覚えた。とても嫌な予感しかしなかった。


「あ…あの乙鬼が!?きゅるんと可愛い男の子になるの!?ぷぷッ!こうしちゃ居られないわ!乙鬼が!私を!待ってい、痛ああああ!」



「落ち着け。」

「ひどい…!女の子殴るなんて…それでも人間なの!?」


「……人間に見えるのか?」


「あ、そか。あんた妖怪か。」




 しかし、そそくさと遠足気分で旅に出る支度をして戸を開けて出ていこうとする彼女の首根っこを掴んで引き戻す。不満を露わにしながらそっぽを向いてしまう巳弥だが此処で諦めるとは思えない。


里の場所を知っているか知らないかは、分からないがきっと千世か、翠辺りに聞くに違いない。となれば目を離すわけにはいかなかった。


「そもそもお前も森の外出許可貰わないと出れないだろ。」


「あ、そうだ。どうしよう」


 それでも出ようとしているのか必死に考えている。他の妖怪達のように殺されることはないだろうが、そのトバッチリを受けるのは他でもない葵自身。此処から離れずに見張っていようと思ったが、きっと昼ごはんがほしいと騒ぎ立てるのは時間の問題なので、葵自身どうしようか悩んでいた。


 張り詰めた空気がパチンと弾けるように巳弥が突然何かを思いついた。やはり何かろくでもないものを思いついたのかと、じっとりと巳弥を見つめる。


「バレないように私も化ければいいんじゃん。さっすが私!!ってわけで葵、服脱いで。」

「アホか!!俺の匂いだってすぐに分かるっての!」


「じゃあ、誰か知り合いの着物借りてきてくれない?」


「お前……妖怪に化けたところで危険度増すだけだぞ……というかむしろ乙鬼様に妖怪もろとも一緒に殺されるぞ。里の住民に化けたほうが安全だ。つまり、そのまま行けってわけだ。」

「え?行っていいの?え…?じゃ、行ってきます!!!」


「あぁ?…あ…しまった…。」


 待てっと慌てて呼び止めるが既にいなかった。里の方角とは全くの逆方向で走って行ってしまったので、どうせ案内しろと戻ってくるだろうと想定し、ずっと待っていたが巳弥はいっこうに戻ってこなかった。



 そのころ巳弥は、当然里の場所はわからず勢いで適当に走ってきてしまい迷子になっていた。どこまで来たのか、そこで立ち止まり辺りを見回している時、足元にスルスルと巻きつくものを感じ、驚いて足を上げると見覚えのある白い蛇が足首にしゅるりと巻きついていた。


「あ、朱里の白蛇だ。久しぶりーっ。て、言葉分かるのかな。」


「お前は……。」


 また迷子か、とため息をつかれ言い返す言葉もなく黙り込む。ついでに里はどこにあるかを聞くと、珍しく朱里は目を見開いた。


「里だと?今あそこの状況を知っているのか?乙鬼様に任せればいい。やめておけ」


 それでも無理に頼みこむと、「死んでもしらんぞ」という言葉とともに白蛇をかしてくれた。前にも白蛇が帰り道を案内してくれたので道に迷うことなく帰れたので、この白蛇の方向感覚は信頼に値する。蛇を手に巻きつけるとすぐに手をその方向にひっぱり始める。


「じゃあしばらく借りるね!生きて帰ってくるよ」

「仮にお前が死んでも、蛇は自力で戻れるから心配するな。」


「えっ、そこ……?」


 別に無事を祈っていてほしかったわけではないので気にせず、歩きだした。全ては、乙鬼が化けた可愛いであろう男の子を見るための好奇心にすぎなかった。しかし「その男の子」がいるとは夢にも思わない。

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