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覚めた夢の続き  作者: 神無
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どうか、安らかに

 



 嗚呼、この少年は、100年前いた人間の少女を思い描いていたんだ。私に会いたがっていたわけでも、人と話したかったわけでもない。ただ1人の子との約束を果たそうとしていたんだ。



「どうしよう、」


 目が見えないとはいえ、勘違いさせたままでいいのかな。というかこの時代100年生きてる確率少なくない?どこにいるかも分からないし。乙鬼が簡単に森から出て良いって許可くれるとは思えないし…。仮に許可もらってもそう簡単に見つけ出せるわけない。


 今更、別人だよーなんて言ったら相当落ちこむよね。うん。でも騙すことになるし正直いつまでこのままでいけるかどうか……。



 ぶんぶんと首を横に振ってどうすればいいのか頭をフル回転させたが良案は浮かんでこなかった。乙鬼に相談するにも、少年の話題は出すと何故か機嫌を損ねるようで話題にすら出せない。


もうすぐ葵が朝ごはんを持って来てくれるころなので大人しく待っていると、いつものように戸を派手に破壊して登場した。




「おーいどうしたアホ面して。寝てないのか?」


「ねえ葵、ちょっと少年のことで相談が。」



 すると葵は、食料を床に置くと、屋根の上や、乙鬼がいつも寝床としている木に誰もいないか一通り確認してから破壊された戸を丁寧に閉めてから入った。乙鬼にそこまで聞かれてはまずいのか。と一番に聞いてみたかったがまた今度にしよう。




「この前話した目の見えない少年なんだけどね、あの子100年前の友人を私だと勘違いしてるみたいなの。話がかみ合わないところとかが多々あってやっと気づいたんだけど……。このまま騙しててもいいのかな。今更本当のこと言えないし……。」


「今更っつってもまだ2回しか会ってねえじゃねえか。本当のこと言っちまってもいいんじゃねえか?」



「うーん、でもあんな幸せそうな顔みると、罪悪感というか何というか……。」


「ま、今日は会うのやめとけ。言わないにしても今のお前じゃ相手が違和感を感じるだろ。」


「それは無理。今日行くって約束しちゃったし。」

「……約束だ?ったく。なら覚悟決めてさっさと会いに行って来い。早く帰って来いよ。」


 本当の事を言う。あの時の少女ではないとあの子が先に気付いたらきっとショックは大きいはずだ。人間は100年も経ったらもう少女のままではないのだと、あの少年は知らない。


だから気付かないのだ。これだけの時間が経てば、声や人の匂いもきっと深く覚えてはいない。でもこれからも気づかれないという保証はないから真実を言おう。


 そんな決心がついたのは空がすっかり暗くなった頃。今日中に会いに行けば、約束を破ったことにはならないはずだ。


葵がそろそろ迎えにくる時間だ。まさか今の今まで悩んで行ってなかったとは思うまい。桜の木を足早に通過して森の奥へと走った。


「この辺だよね……?」


 この2日間、少年は此処に立って待っていた。手を、木の幹になぞるように触れながらずっと。きっといつも立っているに違いない。それなのに今日は居なかった。約束を破ったと思われてしまったのか。



 周辺を捜すと、木にもたれて座り込んでいる少年の後ろ姿が見えた。良かった。ちゃんと待っててくれた。


「ごめん、待った…?今日は、その…話さなきゃいけないことがあるの。」




「……おねえちゃん?来てくれたんだ。」



 遅かったね、っと力なく笑う少年の姿を正面からみて、思わず立ちつくしてしまった。昨日今日でいったい何があったのか。此処には獣や狂暴な妖はいないと言っていたのに。襲われたのかと少年の着物を、はだけさせて怪我をしていないか確認する。


「……!!!」


 そしてさらに目を疑った。少年の身体は黒い痣だらけだった。まるで腐敗していってしまっているような。


悪臭がするわけでもないがそれは首元まで及んでいる。病にでもかかってしまったのかと弱り切った少年にいったいどうしたのかと聞くが、薄く笑いながら黙ったままだった。





    ―――――― 君、昨日は顔首にそんな痣あったっけ?なんか黒くなってるけど……


  ―――――― 僕だって、もう時間がないんだ。


昨日何気なく言っていたひとことがよみがえる。



「……時間が、ない。ってもしかしてこれのことなの?」


「君を待っている間なら、この病の進行をなんとか病気を抑えられると思って。正直100年も抑えてられるとは思わなかったけどね、」


「なんで、なんでもっと早く言ってくれなかったの……!!!!」


 いや、少年が私に言ってくれたところでどうにか出来ただろうか。病院もないのに。合っても治してくれるほどの技量がるとは思えない。なんせそう易々と森から出られない。乙鬼に言ったら治してくれただろうか。



 木に力なく寄りかかっている少年を自分のほうに抱き寄せた。すると少年は、悲しそうに笑った。

 この子は、こんなにも軽かったのか。とくにやせ細っているわけでもないのに、予想していた半分くらいの重さしかなかった。


昨日とはうってかわって弱りきっている。静かに私の頬に触れながら、見つめていた。自分の眉間の辺りを見ている少年の視線に瞳を合わせた。今、初めて目が合った瞬間だった。


 突然合わさる少年の瞳の奥から記憶の断片が流れ込んできた。






「ええ、私の方が大きいわよ!」

「じゃあ、おねえちゃんこの木に沿って立って。」


 どうやって出会ったかは分からないが、すでに仲良く森で遊んでいた。少年は木に沿って立っている少女の頭のてっぺんがある所の木に印をつけた。


同じように少年も頭のところを、木に印をつけて身長がどちらが高いか勝負をしていた。少女のほうが少し高いことが木につけた印で分かり、彼はがっかりしていた。


しかしたいして差はなかった。このころはまだ、しっかり少女と目を合わせていたし、視力に以上はなさそうだった。




 少年と変わらないくらいの年頃の少女。実際は少年のほうが長生きしているのだろうけれど。すこし、もやがかかって見える断片的な記憶。


場面がすぐに切り替わる映像のよう。追いかけっこやかくれんぼ。森の中に居る時や、村で花を育てているところ。少年は妖怪だとは気付かれていないみたいだった。少女は村娘。妖怪が襲ってくる時は森の中に避難している。


しっかり妖である少年の着物を着て、人間の匂いを隠している。場面が何度も変わっていく。季節も、春夏秋冬何度もまわってくる。しかし、笑ってばかりの幸せな日常に影がさしたようだった。





「ねえ、私……病気になったみたい。もう長くないんだって。」


 ポツリと呟いた少女の言葉に、少年の顔から笑顔が消える。続きがとても気になるのにその場面はとんでしまった。そして何日経ったのか。やせ細ってしまった少女に少年は何かを思いついたようだ。




「その病、僕がもらうよ。」

「え?ダメよ、…絶対だめ。」


 人の病くらいなら、僕なら抑えていられるかもしれないからと、少女の額に自分のをコツンとつけた。青白かった少女の顔はみるみると良くなっていった。少年もとくに異常はないようで元気よく遊ぶ日がまたやってきた。



「ねぇ、そういえば名前聞いてなかったね。名前はあるの?」


「名前?いや、知らないんだ。とくに困ることもないし」


「え?名前は必要だよ。なら、私が付けてあげようか!そうだなー何にしようかな。君、軽そうですぐ風に飛ばされそうだから、ソウなんてどう?風が吹くさわやかな感じ。」


「颯…良い名前。名前の由来がなんか気にくわないけど。おねえちゃんの名前は?」


「私は(かえで)よ!」


 そう言って楓と名乗った少女が綺麗にほほ笑んだところで場面は変わった。




「ごめん、今妖怪が村を襲ってきてさ。それが、颯と同じ人の姿をした妖怪が森から降りてきたみたいで…。だから、しばらく村から出れないし、颯も森から出ない方がいい。村の人たちすごい警戒してるからあなたも危ないの。」


「そんな、じゃあいつになったら会えそう?」



 シュンと寂しそうな顔をした少年に安心させるように笑いかけ、「心配しなくてもすぐ会える。だから森で待ってて、落ち着いたらすぐに会いに行く」と言い頭を撫でた。



そこで別れた2人が、再び共になることはなかった。何度も春がやってきて、冬になっても、少年は1人だった。そして、彼はよく木の根っこにつまずくようになった。ぶつかるようにもなった。きっと楓からもらった病気が進行し始めたのかもしれない。その病は少年の視力を完全に奪っていった。





 長い長い年月が過ぎ、彼の記憶は終わった。結局、あれ以来楓が森にやってくることはなかった。現在、仮に生きていても100歳を超えている。そして巳弥は数カ月村にいたがそこまで最年長のおばあさんはいなかった。だからもう…。



 私が現われなかったら、この子は病をまだ抑えていられたかもしれない。待っているという約束を果たすまで。しかしその約束が私を楓と勘違いしたことによって果たしたと思っている。


完全に動き出した病は無理やり抑えていただけあって急速に進んでいる。もう止められない。おそらくもうもたないと思った。







「……ずっとずっと待ってたんだ。絶対、来てくれるって」


「……うん。」


「村の人は、皆元気そう?……もう村に行っても、いいの?」

「うん。また行こう。皆、君を待ってたよ。」


「本当…?良かった、。じゃあさ、明日…行きたいな。連れて行ってくれる…?」

「もちろん。美味しいもの沢山買ってあげる。」



 泣いていると気付かれないように、少年の顔に涙がこぼれないように、静かに涙を流した。できるだけ、声が震えないように。見えていないだろうけれど、満面の笑みを浮かべながら。


「楽しみだなー…。また一緒に、おねえちゃんと、村を…歩けるんだね…。」


「うん。もう真っ暗だし、少し寝ようか。大丈夫、君が眠るまでずっと、こうしててあげるから。」


ゆっくりやさしく壊れそうな物を扱うように大切に。少年の頭を自分の膝の上に乗せて、寝られる体勢にしてあげた。



「うん……早く、起きるよ、少しでも長く遊びたいからさ…。」

「早起きしなきゃね…。」


「そうだね、……楓おねえちゃん。」




「おやすみ。………颯。」


 スースーという寝息が除所に弱くなり、やがて少年は動かなくなった。楓との再会を果たし少年は逝ってしまった。幸せそうに眠っているようだった。



 流れる涙は、ぽたぽたと少年の頬へと落ちる。彼もまた泣いているように見えた。


 少年が息をしなくなっても、その場から動かなかった。正座で足がしびれてもそのまま寝顔を見降ろしていた。うとうとしてきたころ、灯りがともるように瞼が明るくなった。陽が昇ったのかと目を薄くあけると、太陽の来光と共に少年がキラキラと陽に照らされて光始めた。


「……?」


 光と同化するかのように、全身が光りに包まれた。少年に触れようとするが、すり抜けてしまう。


「透けてるの…?」




 やがて、空に輝く太陽の所へと消えてしまった。あまりに突然の出来事にさきほどまで彼がいた膝を触ってみるが何もない。消えてしまったのか。


 痺れた足を揉みほぐしながら立ち上がり、いつも少年が立っていた木のところに行った。いつも木とにらめっこしているのかと思っていた。しかし、その場所に立ってみて分かった。


 遠い遠い日に、楓と颯が背比べをしていた木だった。しっかりと石で彫った印び後が残っていた。彫った後が消えないように時々石でまた彫っていたのかもしれない。そっとその印に触れる。何年も信じて待っていた少年の思いがこの印に込められている感覚だった。


 静かな森の空気にフウッと深呼吸をする。さわやかな、風だ。また此処に来よう。今度祭りがあったら、おいしいものを買って帰ってあげよう。




 それにしても、もう朝になったのに、葵は迎えに来ない。乙鬼にも報告してるに違いない。きっと目一杯怒られると思うとあまり帰る気がしなくなった。もうしばらく此処でひと眠りしようと寝心地のよさそうな木を見回していると…


「……!え…ッ!?」


あんぐりと口をあけながら、目を疑った。というか全然気がつかなかったほうがおかしいのかもしれないが。


「……乙鬼?」


 いつからいたのか分からないが、枝の上で、幹に背を預けて眼を閉じでいた。眼を閉じてるといっても、立ってても閉じてることだってあるので眠っているかは分からない。ただ、自分の場所を知りながら帰らせず遠くから見ていたことを思うと、初めからいたのかもしれない。


 冷酷で心がないと言われている彼が気を遣ったのをみると、胸の奥がくすぐったくなった。依然として眼を閉じたままの体勢を維持している彼の木によじ登る。


「よいしょ…っと、ッうわ!」



 つるりと手が滑って地面に落ちそうになった時に、パシッと腕を掴まれそのまま重力に逆らうように木の枝に上がった。もちろん掴んだのは乙鬼。


「やっぱり起きてた。初めからいたの?」


「……。」


「帰ろうか。」


 にこりと言うとそのまま抱き寄せられ、木から飛び降りた。そのまま木々の間を飛び越えてあっという間に家に帰ってきた。




 次の日、目が覚めると、扉の前に綺麗な花が雑に置かれていた。花弁が数枚地面に散乱している。花の名にはあまり詳しくないので分からないが、とても綺麗な花だった。その数本の花を拾い上げて眺めていると、タイミングよく葵がやってきた。


「ん?花?どうしたんだその花。森には生えてないぞ」


「え?そうなの?誰が置いてくれたんだろう。というか、その沢山のリンゴはどうしたの?今日の朝ごはんはリンゴなの?」


「あ、朝飯はこっちだ、魚。そんでこのリンゴは、乙鬼様からだ。お前に渡せって。」


「私に?なんでだろ。」



   ―――― 本当…?良かった、。じゃあさ、明日…行きたいな。連れて行ってくれる…?

 

 ―――― もちろん。美味しいもの沢山買ってあげる。


「あ…。」


美味しいものか。


クスリと笑うと、葵が何がおかしいんだと呟いていたが見事スルーしてしまった。嬉しくて胸に温かいものが溢れていた。きっと森の外でお供えの花も摘んできてくれたのかもしれない。


「乙鬼、リンゴ好きなんだね。ガキンチョみたい」


「は……!?」


 ポツリと呟いた巳弥の言葉に何故か過剰に反応した葵。歩きだす私を呆然と見送っていた。リンゴをぎゅっと抱きしめて、一本の木の下にそのリンゴと花を置いて手をあわせた。2人がまた巡り合えることを願って―――。



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