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覚めた夢の続き  作者: 神無
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救援

 乙鬼に復讐したいという蝙蝠コウモリ達の企みは5年くらいではおさまらなかった。しかし仲間でも人間でも束になってかかろうと容赦なく始末する彼の力を恐れた。そのため女の妖怪が群れたところで敵うはずもなかった。それでも恨みは消えることなく年月が経ち、突然の掟が出された。「この森に住むことになった人間の娘に手を出さないこと、森から出て人を襲わないこと、ただし森に入ってきた人間は好きにしてよい」という掟。

 

 なんでも、その人間の娘は乙鬼が生かしたのだとか。人間が嫌いで邪魔するものは妖怪でも関係なく始末するような長が人の子を生かしたと。蝙蝠達は乙鬼の唯一の弱みを見つけた。しかし突如決められた掟によりその女を殺して乙鬼に復讐することは不可能だった。もちろん掟を破れば死が待っている。そんなことを考え日々が過ぎていく。


 しかし、突然千世によりその人間の娘、巳弥は蝙蝠達の所へやってきた。そして、千世は乙鬼の森へと一旦帰っていった。蝙蝠達は絶好のチャンスと考え、巳弥に手をかけたが失敗した。


 千世が戻ってきたのだ。あれほど復讐を願った人物、乙鬼を連れて。千世は巳弥を見つめる飛鼠ヒソの瞳の奥に宿った憎しみに気付いた。さすがに5人相手に1人で巳弥を守れないと判断した千世は、森に戻ると言って乙鬼に救援を求めていた。間一髪のところで巳弥は彼に助けられたらしい。しかし、蝙蝠達は悲鳴すらあげる暇もなく息絶えていた。全員首を一斬りでかろうじて胴体とつながっている状態だ。地面は血に濡れていた。



「乙鬼……なんで、皆殺すなんて……。」


「ついさっきまで殺されかけた奴の言うセリフとは思えんな。こいつらは掟を破った。こうなることは分かっていたはずだ。」


 くだらない。とでも言いたげな顔をして巳弥の方へと歩みより腹部の傷を確認する。乙鬼がそこに手をかざした途端、温かい光が腹部の傷を一瞬にして癒した。痛みが突然消えたことにより、ほっとした巳弥は乙鬼の胸に倒れこんだ。


「巳弥は気絶したのでしょうか。……乙鬼様、勝手に巳弥を連れ出していなければこんなことには……申し訳ありません。」

「千世、こいつら死骸の始末はお前に任せる。」


「はい。」


 乙鬼が背を向け飛び去ったのを確認すると、死体の方へ向き直った。まだ生暖かいであろう血の臭いに人食いの妖怪や虫が群がっていた。死体となった彼女たちの処理は人食いの妖怪が跡形もなく食べてしまう。森の中に充満した血の臭いも雨が洗い流すだろう。死体が処理されて、やがては痕跡のみになったのを確認してから、巳弥の様子は明日見に行くことにし、ひとまず千世は自分の住処に帰っていった。


 巳弥が目を覚ましたのは、翌朝のこと。千世からもらったコトリが元気そうに飛び回り、横たわる巳弥の胸元に降りてくる。しばらくじっと見つめてきたかと思うと、再び飛びまわり、壊れて閉まらない板戸の隙間から飛んで行ってしまった。散歩の猫じゃあるまいし、出て行った鳥は再び此処に返ってくるのかと思うと心配になる。しかしコトリはもしかしたら千世に報告にでも行ったのかもしれない。

 傷跡もないので楽に起き上がろうとするが、なぜか身体が動かなかった。動かないというか自分の体が重たくて起き上がれないと言ったほうが正しいか。乙鬼が妖術で治してくれたから痛みはないが、完治とはいかないようだ。

 おとなしく横になっていると、ボロボロの板戸にさらに亀裂が入り激しい音と共に壊された。木屑がぱらぱらと降ってくるのを手で庇いながら咳き込むと、いつものように葵が食料を持って現れた。


「あ?目覚めたのか。昨日は大変だったみてーだな。蝙蝠の奴らにやられたんだろ。あいつらの中でも飛鼠(ヒソ)は吸血の蝙蝠だ。血大量に持ってかれたみてーだから、しばらく動けねえよ。」


「あ、なるほど。それでか……。」


「あ、けど問題が1つ残ってたらしいぜ。お前が目覚めたらやるってよ。てわけで目覚めたこと報告に行ってくるぜ」


 いったい何をするのかと疑問に思い、立ち上がって歩きだそうとした葵の足をつかむ。あまりよくない事なのか言うか言うまいか困ったように頭を掻く。すると、横たわる私を見て何を思ったかあっさり教えてくれることになった。


「お前にかみついた時、飛鼠は吸血だけでなく自分自身の血をお前の傷口から体内に入れた。つまり、お前はこのままだと妖怪になる。蝙蝠にな」


「え、……ええ!?てかなんで教えてくれる気になったの?」

「それはお前、どうせ動けねえし逃げれないだろ。」


「そ、その手があったか……!!」

「いや、そこまで企んではいねえよ。」


 葵を掴んでいた足に全力で巻きついて慌てる巳弥に、ため息をついてしゃがみこみ頭を撫でてやる。蝙蝠、蝙蝠と呪文のように繰り返し呟き葵の足に巻きつく巳弥の手をどかして乙鬼を呼びに行こうと歩きだした。


「こ、ここ蝙蝠なんて嫌だー!どうせなら千世さんみたいな美しい鳥がいい。」

「妖怪になることには問題ないのかよお前は。」


「どうやって治すの?」

「乙鬼様の妖力でできた針でその腹部ぶッ刺すだけだ。て、おい逃げるな。」


重たい身体は動かずとも手は動かせるので地面に這いずりながら、ありがたいことに葵が戸を壊してくれたおかげで開ける必要もない。外へズルズルと出ようとする巳弥の両足を掴んで葵は引き戻す。それが何度か繰り返されてしばらくすると、「おや、楽しそうだね、新しい遊びかい?」


「「翠!!」」

 突然の出現に葵と巳弥は声を合わせた。背中からちらちら見え隠れする尻尾が柔らかそうに揺れていた。にっこりと笑いながら壊された板戸を不思議がることもなく踏みながら中に入ってくる。乙鬼から話を聞いたらしく見舞いにきてくれたらしい。そして、針でぶッ刺されるということに助けを求めたが翠は楽しそうに「それは面白そうだ。僕も見物させてくれ。」と言われ、巳弥の最後の希望は切り捨てられた。

 それでも諦めずに逃げ出そうと這う彼女を葵が引きずり戻すという動作が再び始まり、翠はその様子を壁にもたれて楽しそうに見ていた。するとまた頭上で声がした。「お前ら、……何をやっている。」と言いながら呆れた顔をした乙鬼が現れた。



「ふおおぉお!!出た……!!」


「出た、言うな阿呆め。……乙鬼様、報告に行けず申し訳ありません。こいつに例の件を話してしまい、逃げ出そうとするので捕まえておきました。」


「そうか。」


「せっかく治してもらったのにまた痛い思いするんでしょ!嫌だね!注射ならまだしも……。」


「注射だ。」

「乙鬼それほんと!?ならやる!!」



 葵と翠に見守られながら巳弥は乙鬼に治療してもらうことになった。が、どんな針かを見せてもらい、すぐに巳弥は暴れだすことになる。


「離ーせー!!それは注射って言わないよ凶器ッて言うんだよ!!そもそも注射なんて知らないじゃん!!麻酔もなしに刺すとか……!そんなの殺人道具としか言わない!」


「安心しろ、すぐに治してやる。……それにさほど痛くはない。」


 暴れて叫びまくる巳弥の言葉を軽く聞き流して押し倒す。厄介なことに足も動くようになったのか抵抗で上にかぶさる乙鬼をげしげしと蹴りまくる。しかしそんな攻撃に怯むことなく巳弥の腹部の着物を引き裂き、巳弥の肌が露わになる。


「わっ…やめッ!セクハラー!変態!!」


「……。」


多少の抵抗はまだしも巳弥の足は暴れまくっているためうまく刺すことができそうにない。そう思った乙鬼は巳弥の両足に割って入り込んだ。残る邪魔な手を片手で押さえる。思いのほか暴れられたことに苦戦しやっとのことで封じれたのでほっと一息ついた時、ふいに翠が声を発したことにより、巳弥の叫びも静まった。


「なあ、乙鬼。その体勢はちょっと…ね。楽しいのは分かるけど…早く終わらせてくれないか。葵には刺激が強すぎて倒れちゃってるよ……。鼻血出てるし。」


「……すぐ終わらせる。」


 自分の体勢に今気がついたのか、突然巳弥の顔も赤くなる。そんな翠のおかげで叫び声もなくなりおとなしくなった巳弥の腹部に赤く光る鋭く長い針を刺した。ギュッと目を瞑り歯を食いしばり痛みに耐える表情をするが、予想していた痛みが来ないので、刺された場所を見ると、針は刺さっておらず治療は完了していた。


「あ、あれ?何も痛くなかったんだけど……」


「針といっても、乙鬼の妖力だからね。身体は通り抜けるから痛みなんてないんだよ。」


 にこにこと笑いながら説明してくれる翠に、何故知ってて早く言ってくれなかったのかと責めた。


「言ってくれれば抵抗なんてしなかったのに。乙鬼も言ってくれれば素直に治療してもらったのに……。」

「君が抵抗してくれないと彼がつまらないと思ってね。」


「は!?誰が!?乙鬼が!?」


 何を想像していたのか、鼻から血が出て顔を赤くして倒れている葵を乙鬼は乱暴に持ち上げると外に放り投げた。困ったように笑いながら葵の所へ駆けつける翠。壊れた板戸をいつもは葵が元に戻すが、珍しく乙鬼が元に戻す。そして皆どこかへ行ってしまったようでとたんに1人になった巳弥は、すっかり完治したので再び寝ることにした。


 翠達はというと、気絶している葵をおぶって乙鬼と共に森を歩いていた。翠の肩に鼻血をつけてぐっすりと眠っている葵の姿をげんなりと隣で見る乙鬼に気付いたのか、困った子だね、と笑いながら背負い直す。


「葵はまだまだ若いからな」

「ガキだな。」


「……そんなこと言って、君も興奮してたんじゃないのか?僕等がいなかったら、あのまま治療そっちのけで襲ってたんじゃないかとヒヤヒヤするね。」


「ほざくな。」



 翠と葵を見送り巳弥の元に戻った時、すっかり元気になって騒いでいるだろうと想像したが、ぱたりと倒れていた。はしゃぎすぎで転んで頭でも打って倒れたのかと思ったが、獣のうなり声が巳弥の腹から聞こえてきたのを確認すると盛大なため息をついた。

 そういえば、夕飯になるものを毎日持ってくる葵はわけあって今日は翠と帰ってしまった。仕方なく外に出て魚を数匹捕まえて焼くと、巳弥は匂いに反応したのか板戸を突き破って外に飛び出してきた。もはやあの中に出入りするものは板戸も満足に開けられない奴の集まりと化してしまったらしい。女とは思えないヨダレを垂らしながらまだ焼けていない魚を取って食べ始める姿は、妖怪のようだった。


「……おまえ、ちゃんと完治したんだよな。」


「ん?」


「……いや、元からそんなだったか」


「……嫌味!?」


朝が来て葵が食料を持って来てくれるが、妙によそよそしい態度に、鬱陶しがった乙鬼に吹っ飛ばされる日々が2・3日続いた。

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