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覚めた夢の続き  作者: 神無
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世話係

乙鬼様の命で、何故かいつのまにか巳弥とかいう人間の娘の世話係のようになってしまっている。水を汲んだり食糧を持って行き、方向感覚がまるでない方向音痴女の道案内から送り迎いをしてやらねばならない納得のいかない毎日。



しかし、乙鬼様が命じているから仕方なくやっている。むしろあの乙鬼様が俺を頼ってくれているのだ。従うしかあるまい。しかし、乙鬼様は、女のため食糧をご自分で狩っている。それもまとめて俺に任せればいいのに魚や肉を捕って来ては俺に届けるように命じる。だが、何故だかはだいたいわかる。俺は草やその辺に生えている茸や虫という人間が好まないようなものを持ってくるからだろう。


今度からはちゃんと肉でも持って行ってやるか。乙鬼様の手を煩わせるわけにはいかない。俺がやらねば。



なぜあの巳弥が、森中の妖怪達が恐れる森長の乙鬼様に大切にされているのか。話は簡単だ。


巳弥が森に来る前から、ガキンチョという一人の小さな友人を作っていた。その「ガキンチョ」こそこの森の長の「乙鬼様」だ。



あいつは、ガキンチョの本当の名は「乙鬼」だということを知っていながら疑うことはない。しかもそのガキンチョが妖怪だということは承知の上で仲良くしているらしい。


俺には、服装も雰囲気も匂いも何もかもがそのままで、ただ小さくなっているだけにしか見えない。人間には分からないものなのか。なぜ乙鬼様が「人」の姿を二つも持っているのかというと、妖狐の翠の妖術によって子供に化けているにすぎない。翠はどんな人にも物にも化けることができるから羨ましい。




俺も翠に子供にしてもらって人間の世に潜ってみようかと考えたが、気づかないのは巳弥くらいだと瞬時に理解し諦めた。あそこまで馬鹿な奴はいない。乙鬼様も苦労するな、と半ば同情しながらもどこか楽しんでいる自分がいた。



巳弥も乙鬼様に心を開いているしむしろ開きすぎでおかしい。普通の人間はあの殺気と威圧感に耐えられない。森の長は人間に容赦がない。巳弥が現れるまでは。乙鬼様は知らないだろうが、森中は混乱状態であの恐ろしい乙鬼様が人間を殺さなかったことに不満を抱いていた。




人間に騙されているのではないのかと。


最初は思ったが、巳弥に会ってそれはないと分かった。ただ、あいつが「ガキンチョ」と知り合っていなかったら運命は全く違っただろう。そう思うと今のこの状況がなかなか面白いことに気が付いた。だから俺は毎日不満も言わずに乙鬼様のために巳弥の世話係をしてやっている。



今日も朝から、元は乙鬼様の住処である家に行った。あいつはどうせいびきをかいて大の字で爆睡しているに違いない。板戸を吹っ飛ばして中に入り巳弥の名を呼んだ。



「……いねえのか?」



寝坊助のあいつがまさかこんなにも早起きをしたのか。珍しい、今日は人間が一人死ぬかもしれねえ


いや、やっぱりそんなはずがねえ。どうせ肉が半焼けで腹をこわして飛び起きて外に行ったんだ。きっとそうに違いねえ



1人で納得してとりあえず中に食糧を置いて外であいつの帰りを、方向音痴なのに大丈夫なのかと若干心配しながら待っていると、家の正面に立つ大きな木がガサガサと揺れていた。巳弥が住処に住むようになってから、乙鬼様が寝る場所になった木だ。乙鬼様は今日は遠く離れた湯がある山奥へ行ったはずでは。とガサガサ揺れている木を下から覗き込んだ。そして愕然とした。


「え、お前何やってんだ……?」



「あ、葵!!おはよう。今日は乙鬼いないんでしょ、だからいつもここで寝てる乙鬼の寝心地はどんなもんかと、うわっ」



乙鬼様が普段寝ている木はどんなものかと寝心地を試してみたいと言うこいつは、木の幹にまるで蝉のように張り付いていた。根本的におかしかった。それでは寝れるわけもなく、着物に枝が引っかかってそのまま降りれなくなったらしくずっと張り付いていたらしい。


開いた口が塞がらなかった。乙鬼様は幹に背をあずけて、枝に足をのせて眠る。こいつのは張り付いている。そして降りれない。このまま帰ってしまおうかと思ったが、怪我をされたら怒られるのは俺だ。手を伸ばして掴まるように言うが、巳弥は特に降りれないことを焦ることなく楽しんでいた。




「これじゃ、コアラみたいだな。うーん、乙鬼ってどんな風に寝てたっけ。ていうかそもそも私木登りできないわ」



ならするなよ。俺が必ず受け止めると信じていたのか、恐れることなく勢いよく木から落ちてくるそいつを抱き留める。乙鬼様に報告しなければ。

地面に足を付けた途端、走って家の中に戻るそいつを見ているとすぐに外に出てきた。金色の小さな鳥を両手に包むように持っていた。



「みてみて。コトリかわいいでしょ。すっかり元気になって飛べるようになったんだ。あとは鳥の妖怪さんに返すだけなの」


「鳥の妖怪、千世に会ったのか?」

「あの天使さん、チセさんて言うんだ。」


綺麗な金の羽をした小鳥の頭をなでながら、可愛がっていた。いつの間に千世に会ったのか。そもそも人間が恐れ、人間を嫌う何人もの上級妖怪と打ち解けていることに驚いた。


あまりに可愛がっていたので名前でも付けたのか聞いてみたが、間違いだった。この小鳥に名前は付けていたらしいが、センスの欠片もなかった。


「コトリっていうんだ」

「……小鳥?それで名のつもりか」


「小鳥じゃなくて、コトリ。」

「……。」


センスがある・ない以前の問題だった。こいつは馬鹿だという事を忘れていた俺も馬鹿だ。名を付けられたとも思っていないコトリは、巳弥に懐いているようで周りを飛び回っていた。


鳥が懐いてるならいいか、と適当に考えたとき俺が吹っ飛ばしたために板戸がなく、中が丸見えになっているため地面をするすると這ってくるものを見て再び唖然とした。



白蛇が室内から出てきたからだ。この白蛇は乙鬼様と並ぶくらいの冷徹さを持つ「朱里」の毒蛇だ。なんでこんな危険な生き物が中から出てきたのか。すぐにその白蛇を捕まえようとしたところ、それよりも早く巳弥は白蛇を手に巻きつけた。


「あああ……もう出ないでよ白蛇さん。朱里に殺されるじゃん。ちゃんと主人のもとに帰すから逃げないでよね」


「お、おい……。それ毒蛇だぞ」


「知ってる」

「噛まれたら即死だと思えよな……。」


人間を見つけたらすぐ噛み付くはずの白蛇。それをしないのは、この白蛇の主人である朱里がそう命じたからなのだと分かった。まさかあいつまで巳弥に心を開くとは思わなかった。


しかし、右手にコトリ、左手首に白蛇。この二匹同士は仲が悪いようで睨み合っていた。そんなことに気づくはずもなく巳弥はその二匹を近寄らせて仲良くさせようとしていた。そのネーミングセンスのない鳥が死ぬぞ。


「この二人仲良しだなあ。見つめ合っちゃって、青春してるなー」

「いや、死ぬぞ」


「葵、私は恋のキューピットになるよ。もっとこの2匹が仲良くなるために後は何をすればいいかな」

「とりあえずその2匹を引き離せ」


「この白蛇さん、きっとオスだよ。この可愛らしくて仕方ないメスのコトリを今にも襲おうとしてるもん……。積極的だね」

「食い殺そうとな。」



「見てよ葵、2匹とも眼光がすごい。見つめ合いが激しいよ…!!なんか暑苦しいくらいの眼差し…」

「睨み合いな」


「コトリなんて毛が逆立ってる…!!興奮してるんだね」

「ああ。激しく威嚇してるな。」


威嚇し合って戦闘態勢に入ってるといってもいいくらいなのにもかかわらず、うっとりと二人の状況を見ている場違いな女をずるずる引きずって家の中に戻した。即座にコトリと、白蛇を引き離して「此処」にいては危険だと2匹に言っておいた。


この、頭のネジが豪快に緩んでいる女が住む「此処に」




千世はなかなか合わないため、よく会う朱里のほうに早めに巳弥に預けている白蛇を引き取るように伝えておこうと決心した。


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