真
全力ダッシュでガキンチョのところに駆けつける。それに気づいたガキンチョはギョッとしてそのまま私に抱きしめられた。ものすごく苦しそうだったが、あまりに嬉しくてしばらく抱き着いていた。
「…やっと、笑ったか。」
抱きしめられながら、苦しそうな顔をしていたガキンチョはふいに優しげな表情になりそう呟いていた。
会ったばかりで「やっと」とはなんだとふと思ったが、とくに気にはしなかった。
『え?…あ、そうだ!喧嘩してたんだった!ごめんねガキンチョ…それが、…話すと長いんだけど、ちょっと状況が変わっちゃって…』
「話せ」
一瞬で真剣な顔になり、何があったのかを聞いてくるガキンチョに不思議に思いながら、昨日あった出来事を話すことにした。
「なるほどな、それでお前が…」
『え?』
妙に納得するガキンチョに首をかしげたが、続きを催促してくるので話し続ける。
「だから、ガキンチョにはもう会えないの。妖怪の長が、私が森から出なければ村の人は殺さないって言ってくれた。森に入ってこないかぎり人間も殺さないって。」
「そうか、なら雪乃とかいう女の代わりにお前が森に入った。つまり未来は変わるんじゃないのか。おまえが長を裏切り、逃げなければな。そのうち、たまには森を出してくれるだろう」
『やけに自身満々に言うのね…。よし、またガキンチョに会いに来れるように頑張るね!えっとじゃあ…祭りの日!お祭りがある日は何としてもお願いして外出許可もらう!だめだったらごめん。でも待っててね。」
「…ああ。」
そろそろ帰らなければならない。陽が暮れる前に帰る約束だし、暗くなっては道が分からない。狼に少しだけ森の入り口で待っててもらうように頼み込んだからだ。
『ねえ、最後にさ。ガキンチョの名前教えてよ。』
ずっと気になっていたことを聞いてみた。本人は言いたくないのか、ガキンチョでいい。と言ったが、そろそろ教えてくれてもいいのではないかと思って聞いてみた。しかし、ガキンチョは眉間にしわを寄せながら「どうせ信じない」と言う。どういう意味か分からず、余計気になった私はしつこく粘る。そのしつこさに諦めたのか、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「乙鬼」
『はい?』
もう一度聞くと、彼は再びはっきりと言った。
「そっかそっか。妖怪の長と同じ名前で恥ずかしいとか?うーん、恐れ多かったのね!わかった!これからも、あんたはガキンチョよ!ねっ!」
「……ほらな…」
呆れたようにため息をつくガキンチョに気付くことなく、また会おうと爽やかに言いながら、私は森の中へと帰って行った。
『狼~!お待たせ!…あれどしたの?』
「おい…お前…何話してきたんだ……?」
一部始終を見ていたのか、やけに引き攣った顔でそんなことを聞いてくる狼に、お友達とお別れをしてきたことを話した。
「おいおい…あれが誰か分かって会ってるんだろうな…」
あの少年に興味を持ったのかと思い、その子は妖怪の長と同じ名前なの、珍しいよね。と簡単にガキンチョを紹介してあげると、狼はさらに驚いていた。
「お前……それだけ分かってて……気づいてないのか?」
顔をさらに歪ませて私の方を見る。いったい何のことなのかと首をかしげると、盛大なため息をつかれた。
『ああ……あの人も、大変だな…。ま、だからこいつが殺されずに済んだのか…』
「ちょっとー、早く家まで連れてってよー!」
すでに先を歩いて手招きをする私に狼の呟きは届かない。初っ端から逆方向に歩いてしまうと、正しい道に戻して狼は家に送ってくれた
何が面白かったかは知らないが、これを気に狼は毎日のように絡みに来るようになった。




