着飾り
外で小鳥が朝を知らせる。陽の光を浴びようと外に出て伸びをする。すでにミツさんは起きていた。彼女はいつも規則正しい生活をしている。学校もない働かなくていいというニートまっしぐらの生活をしている私にとっては基本毎日ぐったり生活だった。めずらしく早起きが出来たことに自分を褒めながら快晴の空を見上げる。清々しい秋の空に小鳥が気持ちよさそうに飛んでいた。
家の中に入って朝の支度をしようとしたとき、こちらに向かってくる人がいた。どちらかというと貧しいこの村に「その人」だけ世界が違って見えた。綺麗に着飾って淡く上品な古典柄。圧倒的な風格を演出する着物を着て、こちらに向かってくる。それに加え、お化粧もしているせいか一瞬誰か分からなかった。「巳弥」と名前を呼びながら此処へ来る同い年くらいの女性は一人しかいない。
「雪乃ちゃん!?何その格好…!!綺麗…っ」
あまりにも雪乃ちゃんが、この村に溶け込んでおらず別世界の雰囲気だったので、一瞬妖怪かと思ってしまったのは内緒だ。なんせ妖怪はそれでなくても上等な着物や袴を着ているのだから。
「巳弥、わたしここから遠いところにいる人なんだけど、今日その人とお見合いがあるの。」
すこし照れくさそうに言う雪乃ちゃんはとても可憐で見惚れてしまった。妖怪のことばかりで毎日怯えるよりも、たまにはこういうことがあってもいいなと巳弥は思った。華やかな雪乃ちゃんを見れてミツさんも喜んでいた。しかしこれからいつもの待ち合わせがあるので、見合いの話はまた明日聞くことにした。
何を思ったのか、ミツさんが若かりし頃着ていた綺麗な着物をくれた。髪飾りや紅を買ってきな、と言ってくれたのでお言葉に甘えて今日はガキンチョにお買いものに付き合ってもらうことにした。
「髪飾りと紅?なんでそんなものがほしいんだ?」
「うーん。なんとなく!雪乃ちゃんがね、すっごい綺麗な格好してたの。お見合いするみたいなの。ミツさんが、私にもそういう時期が来た時のために買っておきなって!」
そんなことしても、私未来に帰っちゃうのにね、と笑う私をただ黙ってガキンチョはじっと見つめてくる。なななんだろう。
「よし。俺が選んでやろう。」
何でそんなに上から目線なの、と言いたい気持ちを抑えて髪飾りを選んでもらうことにした。やはり、仲の良い人に選んでもらうのは嬉しいものだ。店に置いてあるものは綺麗なものばかりだが、これといって一番というものはないが手に取ってまじまじと見てみる。
ガキンチョはただ一点をみつめそれを手に取っていた。ガキンチョ好みのを見つけたようだ。どんなものか覗きこんでみると、透き通る淡いピンクの桜の花の簪だった。
「似合うんじゃないか。なんとなくな」
『そうなの?じゃあ、これにする。』
案外早く決まったようで、店の人に渡してお金を払った。これは普段でも使えるから、今度付けてみようと決めた。
そんな感じで、紅もガキンチョが選んでくれた。ちゃんと似合うか考えてくれているのかは若分からないけれど。店を見て回るといろいろスイッチが入ったので、おしゃれを極めたくなってしまった。ガキンチョも懲りずに付き合ってくれたので、荷物が結構ある。だからといってガキンチョが荷物を持つのを手伝ってくれることはなかった。やはりケチだった。
だが、夕方は毎日村まで見送ってくれる。ミツさんに会わせてあげたいなあと思いながらも、ガキンチョは村人と関わる気はないといってそのまま帰ってしまう。
買ってきたものをミツさんに見せると、たくさん買ったんだねといいながら笑っていた。ガキンチョが選んでくれた簪を髪にさしてみた。自分では似合ってるのか分からないが、ガキンチョはいい趣味している。とミツさんが関心していた。今度ガキンチョにも見せてやろう。
明日の朝は早起きして、今日の見合いの話を雪乃ちゃんから聞く予定だ。早く明日になれと思いながらご飯を食べていると、家のドアがノックされた。スッと立ち上がり、おそるおそる家のドアを開けた。そこに立っていたのは、朝とはうって変わって元気のない雪乃ちゃんの姿があった。話があるそうで今日は泊まっていくと言い出した。ミツさんと私で彼女の話を聞くことになったが、暗い表情は相変わらず変化ない。雪乃ちゃんはそのまま静かに話だした。
「お見合いに行ったのだけれど、これ以上にない良い縁談だからって彼の家に嫁ぐことになったわ。それは喜ばしいことなのだけど、私はこの村にはいられなくなる。」
彼女には父と、弟がいる。数か月前母親を妖怪に殺されてしまったため三人で暮らす彼女だが、彼女がこの縁談を受けることにして遠くへ行ったら、二人は残される。それが気がかりで仕方ないのだろう。妖怪も何もない場所で幸せに暮らしていたとしても、村はこんなにも危ない。万一二人の身に何かあったら生きてはいけない。そんな迷いが今の彼女にはある。
二人も引越せばいいじゃないか、と言ったら、亡くなった母をこの村に一人残して行けない。と雪乃ちゃんの父と弟は言ったらしい。だからあの二人はこの村に残る。
「でも、このお見合いは出来れば断りたくないけど、2人とも離れたくない。だからね、巳弥。わたし、賭けに出ようと思う。」
『え…?賭けって?』
途端に真剣な表情で私を見つめる雪乃の目には迷いがなかった。いったい何をするつもりなのだろうと、次の言葉を待った。
「私、森に行って妖怪の長に会いに行く。無駄なあがきかもしれないけど、それでも行かなかったら村は妖怪に襲われ続けるわ。あなたや、ミツさん。私の家族も…村の人を守るために私は行く。」
今までには見たことのない覚悟の目に圧倒されて、私は何も言えなかった。止めても絶対行くと分かったからだ。生きて戻れるはずがない、と叫んだがそれも覚悟の上だと悲しそうに彼女は笑った。
雪乃を止める手はないかと必死に考えたところ、何か不可解な感情がざわめいた。
――この状況を、私は知っている。
こんな吃驚発言をしたのはきっと雪野ちゃんが初めてだろうに。
でも、とても大切なことを思い出した。
バタっと勢いよく立ち上がり2人を驚かせてしまったが、それどころではなかった。
『ねぇじいちゃん、どうして女の子は森に入っちゃいけないの?』
「その村娘は、村の安寧のために森に入って、その命と引き換えに村を救おうとしていた。しかしその娘は妖怪となり、その村を滅ぼしてしまった、という話だ。つまり、娘が森に行ってしまうと、妖怪の長に魂を食われ、自身も妖怪となり故郷を滅ぼすという古くからの言い伝えだな。」
「ねえ!!巳弥?巳弥…!大丈夫…?」
いつの間にか汗まで流していたらしい。雪乃の声で我に返り「心配ないよ」というが、動揺は隠せない。
雪乃ちゃんのいう事が本当なら、五百年の伝説を作ったのは――――
彼女に違いない。




