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覚めた夢の続き  作者: 神無
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知人


決して出会ってはいけない妖怪、そう思っていたのにいきなりその時はやってくる。


村の入り口で、暴れまわる退治屋と逃げ回る人々。上級の妖怪が出ても動揺はしないだろうと思われたガキンチョも何故か驚いているようだった。


動けない私を見て、蛇には立ち向かったくせにあの妖怪は駄目なのか?と無表情で聞くガキンチョの言葉も今は何も言い返せなかった。


『あの妖怪は、私がこの時代に飛ばされる前、森で初めてみた妖怪。あの妖怪に私、殺されそうになったの。でもその瞬間此処に飛ばされたみたいで助かったんだけど…。」


「あいつが…?」




銀の髪。夕日の光が彼の髪を照らしているため、金色に見えたが狐の耳と尻尾を見てすぐに分かった。


未来でみた時のように殺気立ってなく、雰囲気はまったく違って静かな雰囲気だった。大きな武器をぶんぶん振り回す退治屋の攻撃を軽々と避けて、絶えずそこから動かない。いったい何をしに来たのだろうと思っていると、私達を見つけた村長が涙を流しながらこちらに来た。何があったかすぐに問い詰めた。




「あの退治屋が、妖怪など怖くもないと笑いながら森の中に入っていったんじゃ…それだけでなく、たまたま森の奥から村に近いところまで降りてきていた上級妖怪の「妖狐」に攻撃を仕掛け、そのままこの村まで走って逃げてくる始末じゃ。

当然、追いかけてきた妖狐のお出まし。退治どころか、我々を巻き込むとは…。」


そこまで聞いてガキンチョは「なるほどな。どおりで…」っとボソリと呟いていた。




「な…なんなんだてめえは…!!!」


「なんで人間の姿なんだよ…!妖怪って獣じゃねぇのかよ…っ気味悪いっつの!!」


「逃げようぜ…こんな村、やってらんねぇよ…!」



三人の攻撃は妖狐にひと掠りもせず、体力が尽きてついに倒れこんでしまった。その様子を冷たい目で見る妖狐が初めて口を開いた。



「もう終わりか。それで退治屋とは…。君たちはこの辺りの人間ってわけじゃなさそうだね。聞かなかったのかい…この森に立ち入るなと。知らなかったなら哀れだな。私に喧嘩を売るくらいだ。覚悟はできてるんだろう」



スッと弧を描いて笑う妖狐は、左手を刀に変えると、すっかり怯えきって命乞いをし逃げ出そうとする三人組の首を一瞬にして刎ねてしまった。その一瞬の出来事に周りが息をのんだ。もはや、泣き叫ぶ者はいない。



未来でのことがあって、彼に何をされるか分からず近づくことができない。しかし、この時代で彼に会ったことはない。未来で自分の命を狙っていても、ここは「過去」でしかない。今はまだ私のことは知らないはずだ。


気になるのは、この「過去」の時代に、私が彼を怒らせる何かをするのだろう。数百年たっても彼は顔も年齢もそのままで生きている。そして私を探している。だったら、この時代で彼に関わらなければいい。幸い彼に気付かれてはいない。ガキンチョと一緒に一旦此処を離れよう。


ガキンチョに耳打ちしようとしたとき、何を思ったかガキンチョは歩きだした。それも妖狐に向かって。

誰もが立ち止まって動かない中で1人歩くという行為は当然すぐに妖狐の目がガキンチョを捉えた。


その後ろで立っている私の存在も当然見るに違いない。しかし今はガキンチョが危ないのですぐに追いかけた。妖狐の視線を感じながら、おそるおそる妖狐の姿を確認する。妖狐のガキンチョを見る目は、先ほどの退治屋達に対する冷たい目でなく、きょとんとしていた。


妖狐を纏う冷たい空気が今はまったくなく、普通の人の子のような目をしてガキンチョをじっと見つめる。この違和感の正体が知りたくて前を歩くガキンチョの顔を横から覗くと、こちらはこちらでダルそうな顔をしていた。



『ガキンチョ?もしかして知り合いなの?ともだち?』


妖狐は怖いが、なんとなくそう聞いてしまっていた。露骨に嫌そうにこちらを振り返るガキンチョ。妖狐は、こちらに視線を変えた。




「がきんちょ?」


私の顔を見ながら、ふいに妖狐はそう口にしていた。その瞬間ガキンチョはさらに嫌そうな顔になった。いったい何なんだ。疑問だらけでわけが分からなくなったとき、妖狐は「がきんちょ」がおもしろかったのかクスクス笑っていた。笑い方といい、顔の形や体格といい、まるで女性のよう。



「おや…君は、みやじゃないか?」


『!?』


彼はもうすでに私を知っていたらしい。なら、もしかしたら未来のように殺しにかかるだろうか、武器もなにもなく丸腰でどうにもならないが、すぐに構えた。その警戒した私の姿に再び笑いながら、「忘れてしまったのかい」といいながら笑顔だった。




未来で会った彼を、忘れるはずがない。しかし、何故彼は私のことをしっているのだろう。

「森で会ったじゃないか。この村の人か知らないが、君ともう一人、すでに息絶えた男がいたかな。死体を食う妖怪に襲われていた君を助けてあげただろ?」



『え…?……!もしかして…翠…?』




ちょうどこの時代に飛ばされた直後のこと。まさか数百年前に飛ばされたなんて思ってもいなかった私は、森の出口で既に息絶えた男を見つけた。そこでその死体を食べ始めた奇妙な妖怪に襲われそうになったところ、だれかが助けてくれた。


だんだん思い出してきた。妖怪の腕を切り落として私を助けてくれた「誰か」は姿をみせなかった。ただ、名前をきいたら「(すい)」と名乗ってくれた。翠とは彼のことだったのか。


つまり、未来で自分を殺そうとした妖怪も、この時代に来た直後助けてくれた妖怪も、同一人物というわけだ。


「巳弥、君の言葉に興味が湧いて降りてきたけど、この退治屋といい…人間は面白いね。」


にっこりと煌びやかにほほ笑んでいるけど、言葉は嫌みにしか聞こえなかった。


「おい、おまえ…こいつと知り合いなのか…?」

今度はガキンチョが驚いた表情で聞く番だった。私は曖昧に頷き、後で説明すると言った。


すると、翠はなぜかガキンチョを見て意味深ににっこりと笑った。



「この三人の後始末は君たちにまかせるよ。どうやら村の住人とは関係ないみたいだし。このまま帰ることにするよ。


それじゃ巳弥、がきちょん。またね」


そのまま森の中へと優雅に歩いて行き、やがて見えなくなった。


『いや、「がきちょん」て何!ガキンチョでしょ!』



「いちいち反応するな」


その後村長は退治屋など雇ったりせず、そのまま静かに暮らした方がいいと決めたそうだ。放置されていた三人の無惨な死体は、村から少し離れたところで埋葬された。



そして再びこの村に、しばしの平穏が訪れる。





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