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覚めた夢の続き  作者: 神無
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退治屋

風にゆられてサワサワと揺れる草葉に露が白く見えるようになった。穀物も実り始める頃だろう。そんな秋も本格的になったこの時期に、村長が皆を集めた。次は何の禁止令が出されるんだと若干乗り気なく皆と話を聞いた。



「皆もお分かりのように、此処は危険。そこで遠くからはるばる退治屋に来ていただいた。しかし夜中までいて下さるわけではない。今まで通り警戒心を持って生活するのじゃ。」



村長の言葉に、村全員に活気が戻ってきた。穀物を育てなければならない時に外に出れないことや、家の中に籠りきりとなるとストレスもたまるしやる気もなくなるだろう。退治屋がどれほどの力量かは分からないが、居てくれるだけで村人達は安心して暮らせる。


私も毎日の習慣であるガキンチョのいる都に会いに行きやすい。離れている間に村人が襲われていたら…という心配は消えないが、気休めにはなる。



来てくれた退治屋は3人。ゴツゴツして頑丈そうな身体で、鎧を着ている。どでかい刀や短刀、弓が無数に装備されて武器に困ることはなさそうだ。


しかし、いかにも性悪そうな三人組。まるで自分の力を過信しているようで、なんとなく心配になってきた。


「大丈夫かなあ…なんか盗賊みたい」


「巳弥、聞こえてしまうわ。静かに。」


声がした方をみると、困ったような顔で雪乃ちゃんがこちらを向いていた。幸い口に出てしまった言葉は雪乃ちゃんにしか聞こえていないようだ。


「でも、巳弥の言うことも一理あるわね。でかくて武器もたくさんあればいいってもんじゃないわ。自分の力量を見誤ってる人が一番危ないもの。」


ね?っと笑顔で言ってくる雪乃ちゃんは、私と同じようなことを囁いた。


しかし雪乃ちゃんの言葉は、三人組の退治屋の耳に入ってしまったようで、こちらにドシドシ近づいてきた。


「嬢ちゃん達、ちと言い過ぎだぜ?」


私の発言も聞かれていたらしい。これは困った。


「なめられたもんだな」


げらげらと笑う退治屋達。怖がってないだろうかと雪乃ちゃんの顔をちらりと見たが、むしろ無表情だった。あれ



「あら、ごめんなさい。でも頼りにはしてます。」


ふふっと口を袖で隠しながらクスクス笑う雪乃ちゃん。もっとおしとやかだったはずなのにいったいどうしたものか。


「おいおい、退治屋だぞ俺らは!殺るのは妖怪だけだと思ったら大間違いだぞ餓鬼共が!!」


「俺たちは元は盗賊なんだぞ!」



退治屋がついに怒鳴って巳弥と雪乃を脅す。それが効いたのか二人は目を真ん丸くして見開いて固まっていた。その二人を見て退治屋は恐れ入ったか、とでも言うように愉快に笑っていた。


「巳弥。」


「うん。」


見たまま予想通りすぎて不安になってきた。きっと自分達が強いと過信しているのもきっと間違いない。分かりやすすぎた。きっと雪乃ちゃんも同じ不安を抱えていることだろう。


しかし、村の人達は嬉しそうだったので、余計な心配をさせるわけにはいかない。ひとまず様子見といこう。


「そろそろ都に行く時間なんだよね。ガキンチョにまた遅いって言われちゃう。」


「あら、なら早く行かないと。」


「うん!退治屋さんのこと注意して見てて!」


雪乃ちゃんに別れを言って急いで支度し、速足で都に向かった。




都へ着くと、いつものようにガキンチョとおしゃべりを楽しむ。今朝の退治屋の話をしたが、その退治屋達をガキンチョは鼻で笑っていた。いろいろ冷めているガキンチョに「見た目が盗賊だという事が当たっていた」という笑い話をしたが、見事スルーされてしまった。ガキンチョは揺るぎなく冷めていた。


「おまえのところの村長も愚かな奴だな。」


『そう?まあ、いないよりはマシだよ。』



「遠くからはるばる来た退治屋…か。遠くに住んでいる奴らは「妖怪」とは無縁の奴等なのではないか?仮に百万歩譲ったとしよう。妖怪を倒せたとしても、低級の妖怪だな。それかもっとも最弱な「死体を食べる妖怪」…その程度だ。お前が会った蛇の妖怪のような人型の上級妖怪が出たら、逆に村は大混乱。滅ぶだろうな…」


哀れだ、と失笑するガキンチョに少々呆れるが、最もな意見かもしれない。今村がどうなっているのか余計に心配になってきてしまった。


『うーーん。ねぇ、ガキンチョ…なんかやっぱり、嫌な予感してきた。来たばっかりでなんだけど、戻ってもいいかな…村長に相談する。』


とくに文句も言わずに、ガキンチョが先に歩き出した。方向は村の方。どうやら村まで付いて来てくれるようだ。どんどん先を歩いていくガキンチョに遅れないようについていく。気にしすぎかもしれないが、妖怪の恐ろしさもしらずに退治屋とは名ばかりな盗賊の三人が戦えるはずもない。事が起きる前に村長に警告したほうがいい。



二人で速足で歩いていると、村がだんだん近くなった。普段は「ここまでだ」といって都へ戻ってしまうガキンチョも、一度は立ち止まったが、眉をひそめてそのまま歩いていく。何かを感じたのだろうか。耳を澄ますと男の怒鳴り声、武器の刃先が地面を擦れる音、悲鳴が聞こえた。すぐに走り村の様子を見た。



ガキンチョの言った通り、村は荒れて人々は逃げ回り雇ったという退治屋は武器をぶんぶん振り回していた。騒ぎの原因となる妖怪の姿はすぐに目についた。

低級の獣の妖怪でも、ガキンチョの言っていた死体を食らう妖怪でもない。妖怪でないただの獣でもなかった。


ヒュッと息がつまる、呼吸も忘れ、立っていることも出来ずにそのまま私は腰から崩れ落ちた。


『あ…あっ…!!』


この時代に飛ばされる前に私を殺そうとした妖怪が変わらぬ姿でそこに立っていた。

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