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覚めた夢の続き  作者: 神無
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住処

村へ着くと、ミツさんが外に出て待っていた。ミツさんが私の名を叫ぶと、村中の皆が出て来た。

すぐに村人が私を囲み、血だらけでボロボロになった服を見て言葉をなくしていた。


『あ、皆さん…ただいま帰りました…はは』


一斉に皆が話はじめ、何を言っているのか全くわからなかった。とりあえずミツさんにお湯を用意してもらい体を流して新しい長着をもらった。蛇の妖怪はきっとそのまま森へ帰ったのだと思ったが、眠らせた狼はどうしたのかとミツさんに聞いたら、目を覚ました狼たちは何かに呼ばれたようにそのまま森へ帰っていったそうだ。五人もの死者は出たものの、あんな無謀なことをしたから仕方ないと村人たちは言った。


その夜は、お見舞いに雪乃ちゃんが来てくれた。ミツさんと三人で夜ご飯を食べながら楽しくお話しした。


「巳弥、…ありがとう。村を…救ってくれて。皆、感謝してる。無事でよかった。」


あまり話さない雪乃ちゃんがそういってくれたことが嬉しかった。



雪乃ちゃんとミツさんの話によると、上級妖怪が村へ降りてきたという事態の深刻さに一層警戒を強めたらしく、夜も出歩き禁止令が出された。その中でわざわざこっそり私の見舞いに来てくれた雪乃ちゃんに勢いよく飛びついた。村長にバレると面倒だからと、朝まで雪乃ちゃんは此処に泊まっていくことになった。


朝になると、雪乃ちゃんは自分の家に帰って行った。私はそのまま支度を終えいつものように都へと歩く。




『ガキンチョー!!待ったー?』


「遅い。」



そのままガキンチョを抱き上げてスリスリと頬を摺り寄せた。いつもグーで殴るガキンチョも、すっかりおとなしくされるがままになっていた。しかし、顔は露骨に嫌そうだった。じゃあなんで殴ってこないんだ。



「そういえば、お前は一昨日どこにいた?なぜ蛇の妖怪に会った?この人通りの多い都に低級は出ても上級妖怪が襲いに来ることはここ数十年はないはずだ。そんな恐ろしい妖怪共が姿を見せるのは、少し離れた場所にある村くらいだ。」



どうやら、ガキンチョは私の家が村だということを知らないらしい。


『……その村ってそんなに危ないの?』



「ああ。この辺りじゃ有名だ。森の低級妖怪共の住処が近く、時々人の子を襲って楽しんでいるのだろう。あの村人共は低級の獣の妖怪だけでなく、人の姿をした上級の妖怪まで詳しいらしい。それだけ頻繁に出没しているということだ。」



たしかに、ミツさん達は、蛇の妖怪が出たとき、あの妖怪が「蛇」の妖だと知っていた。見るからに人とは違う雰囲気に妖怪だということは分かっても、蛇だとはわかるはずもない。妖怪の長が、「乙鬼」という名前だということや、その者の特徴まで見たという人もいる。きっと他の妖怪のことも詳しいはずだ。ずっと村に住んでいる人にとって、慣れてはいるだろうが怖いことに変わりはない。それでも、生まれてからずっと住む村を捨てるわけにもいかない。だから皆はあの村から離れないのだろう。




『…そっか。』


「それで、お前は一昨日どこにいた?」


『…村。』


大きなため息をついたガキンチョに、自分の住んでいるところはその村だと言った。



「離れろ」


『なんで?』


聞き返した私にさらにガキンチョは目を見開いて信じられないといった表情をした。私だって彼の言いたいことは分かっている。それでも、もうあそこは私の家。ミツさんや雪乃ちゃんという友人が出来た。離れるつもりはない。だいたいあそこを出て、家のない私はどこに行けというのか。


「あの村は全滅する。お前の言うその伝説があろうとなかろうと、お前が今大切だと思っている人間全て、お前は守れないだろう。ならば、悲しむ前に早々に別の場所に住むのがお前のためだ。」


『伝説がある限り、滅んだりしない。私が村にいる限り、ミツさんや雪乃ちゃんは私が守るもの。もちろん全ての人を守ることは出来ないのはよく分かってる。』


小さい男の子でも、実際は何年も生きている妖怪というだけはある。この時代や危機に瀕している村の現状もよくわかっている。この子はいつも正しい。けれど、私がそれを聞き入れることが出来るかどうかは別だ。


「理解できない。死ぬと分かっていながら逃げない人間達も、お前も。」



『ふっ理屈じゃないのよ』

ちょっとかっこいいセリフをかっこつけて言ってみた。実際自分にもよく分からないけどまあいいや。


「おまえの親代わりになっている女も大変だろうな。」

無感情に呟くガキンチョに私は「あはは」と笑った。


『村は貧しいけど、それでも皆楽しく暮らしてるの。雪乃ちゃんは昨日お見舞いに来てくれたし。泊まっていってくれたからずっと話してたんだ~』


目をキラキラさせながら、仲良くなった雪乃ちゃんの話をするが、全く興味なさそうでむしろダルそうだった。


『聞け!!チビッ子!!』


「興味ない。それより、お前。弓矢の練習はしているのか?」



あっさりと話を変えられてしまったが、とりあえずガキンチョの質問に答えることにする。


「そう!聞いてよ。一昨日の蛇の妖怪を動けなく出来たのは、矢が命中したからなの!ガキンチョのおかげで見事命中!!おめでとう私!!頑張ったかいがあったわ~!」


「思い上がるな。…だが、上級妖怪に矢ごときで立ち向かったのか?それに、蛇には毒だろうと動きを止めることはできないはずだ。」



そこで未来から持ってきたしびれ薬の話をした。ガキンチョはこういう話には興味を示すようで、真面目に話を聞いていた。


「しびれ薬…その程度で効果があるとは。あの忌々しい波紋の祓い屋ならともかく、それほど人間も進化していくのだな。」



しみじみと一人でなにやら呟いているガキンチョの顔をじーっと見つめる。出会ってから、ニヤける顔と驚く顔と無表情しか見せたためしがない。子供なんだから素直に笑えよなと思って、ガキンチョをくすぐってみたら、グーで殴られた。こいつはやっぱり妖怪だ。女の子をふつうに殴れるのだから。でもそれもすっかり慣れてしまった。万一妖怪でも、チビッ子だから、たいして殴られても痛くはない。




「虫けらのお前が村に住んでいると分かれば長く遊んでる暇はない。これからは、もっと早く帰れ。夕方前には村に着くようにな。そして、分かってると思うが夜は外を出歩くな。」


『ええ?そんなことしたら、ガキンチョと全然話せないじゃん。それに夜は私の修行の時間だからだめー!弓の練習毎日してるんだもん』


「阿呆か貴様は。よほど死にたいのか!」




怒られてしまった。


ポカンとガキンチョを見ると、ハッとしたようにガキンチョは我にかえり咳払いをしていた。怒ったガキンチョは初めてだ。それほど心配してくれていたのかと少し嬉しくなった。

そろそろ陽が暮れるのを確認すると、ガキンチョは早く帰れと言った。素直に返事をして、いつものようにガキンチョに見送られ村へと帰る。かと思いきや、村の付近まで着いてきてくれらしい。



『が…ガキンチョ…!なんてジェントルマンなの!!チビッ子のくせにかっこいいじゃない!畜生!』


「何語だ。日本語を話せ。」



1人で帰ると長い道のりも、ガキンチョが村の近くまで送ってくれたためものすごく速く着いたような気がした。せっかくなのでミツさんや雪乃ちゃんに相談したかったが、村に入りたくないようだったので、そのままガキンチョと別れた。



帰ってすぐにミツさんにガキンチョが途中まで送ってくれたことを話すと、今度紹介してほしい言った。その夜私は、ガキンチョを引きずってでも村に連れてこようとひそかに計画していた。


むろん、それは無駄な計画となった。



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