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覚めた夢の続き  作者: 神無
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まだ陽が昇っていない薄暗さが残る早朝、普段は私だけでなく村人はまだ寝ている時間なのだが、外の騒々しさに目を覚ます。ミツさんもカッと目を開いてすぐに外に飛び出した。これはよろしくない事態が起きているに違いないと、此処の人達は知っている。私自身、ここ数か月で慣れてきてしまった。



妖怪が村を再び襲ってきたようだ。ドアの隙間から外の様子を観察する。今まで鍛錬を重ねてきた武器を手に持ち、騒がしい外を覗くと、獣が数匹暴れていた。狼のようだが、普通じゃない妖気を放っていた。


しかし、外で逃げ回っている人や、攻撃耐性に入って構えている人、腰を抜かして震えている人の目線をたどってみると、暴れる狼を見ていない。彼らが怯えている目線の先には、人の姿形をしている妖怪だった。つまり、上級の妖怪が来てしまったということだ。


『どうみても人間じゃないよね…。なんか髪の毛の色変だし…。」




やはり一見人間に見えても、よく見れば全然違う。短い髪は少々クセがあり、真珠色で綺麗な色をしていた。瞳は翡翠色。白の羽織に黒の袴姿で立っている。ほぼ真っ白な肌が、人間とは違うのだと物語っている。




まさか人の形をした妖怪が、こんな村に降りてくるなんて。と誰もが思っただろう。そして人と変わらぬ姿をした妖はとても危険。村の人達がこの時代に来たばかりだった自分にずっと言い聞かせていたことだ。これらの上級妖怪に会ったときは戦うな。逃げろと。


しかし自分達の家を襲われているわけだから、逃げる場所などない。それで村人は逃げ回ることしかできない。


ここ数年は上級妖怪が襲いに来たことはなかったらしく、その人の姿をした妖が出た日は必ず死者が出るという。


すぐに家の中に戻ってきたミツさんは、あの妖怪について教えてくれた。


「あいつは、蛇の妖怪だ。奴自身も危険だが、奴の放つ蛇は毒をもっている。噛まれてはならん。」



「毒…。そうだ…!!」


何かをひらめいたように、学校鞄の中を漁ると、巾着袋を取りだした。中に入っている缶の蓋をあけると、その中身を矢の先端に塗りつける。


「巳弥…?何を塗ってるんだい?」



『しびれ薬ってやつです。もともと私のおじいちゃんが不審者用にくれたんですけど、まさかこんな所で役に立つなんて!吹き矢もあるから、万一の時は眠らせれるし…。ミツさんは、ここに居てください。私が村の人達を助けます。』


すぐに引き留められたが、そのままスタスタとドアの隙間から吹き矢を吹いて、村人の周りで威嚇する狼共を眠らせた。


パタパタと突然倒れる狼に驚いたのは村人だけでなく、今まで全く動かなかった蛇の妖怪も驚いていた。

すると、先ほどまで森の入口の方にいた蛇の妖怪は、腰を抜かしたおじいさんの所に瞬間移動していた。



「ひッ!!!?」


「あの狼共を殺ったのは…貴様か。」



音も立てずに十メートル少々の距離を瞬間移動して静かに言葉を発した彼は、おじいさんの首を片手で持ち上げた。おじいさんは周りに助けを求めるが、周りは大混乱で、どうすることも出来ずに立ち尽くす。

誰もがもうだめだ、と顔を背けた時、私は勢いよくドアを開き声高に叫んだ。


『…私よ!!』


敢えて大きな声で叫んだ。予想通り蛇の妖怪は、おじいさんから手を離し、ゆっくりと私のほうを見た。蒼白な顔色に虚ろな瞳の奥にはきっと怒りが押し込められていることだろう。


ミツさんの家から飛び出ると、妖怪がまた瞬間移動する前に一気に矢を放った。


その矢は日ごろの練習のおかげか見事妖怪に命中した。というより、矢の一本を受けたところで痛くもかゆくもないと予想してか、全く避ける気がなかった様子である。確かに矢の一つくらいでは妖怪が倒せるはずもないが、その矢には未来から持ってきた「しびれ薬」が塗ってある。余裕の表情だった妖怪は、自分の意志とは関係なく崩れ落ちる膝に驚いていた。そして矢が打たれた傷口を信じられない、という表情で見ている。その間に私は走っておじいさんの所に向かった。


『おじいさん!!こっちへ!!怪我はありませんか…?』


「だ、大丈夫じゃ…ありがとう、巳弥…。」



おじいさんを周りの村人にまかせて、蛇の妖怪を見る。矢が刺さったところから血が出ているが、妖怪だからすぐに塞がってしまうだろう。しかし「しびれ薬」は効いているようで倒れ込んでいた。それでも鋭い蛇の目は、私を捉えて離さない。


念のため吹き矢で眠らせようと考えた途端、若い男、五・六人が刀や槍を持って倒れ込んでいる妖怪の所へ走って行った。いくら動けないとはいえ油断はできないのに、男たちは構わず妖怪を殺そうと攻撃を始めた。


男たちによって数か所を刺された蛇の妖怪は、どれだけの攻撃を受けようと私だけを見ていた。蛇に睨まれた蛙だ。そもそも麻痺しているから、どれだけ刺してもあの妖怪は痛みを感じないだろう。彼らの攻撃が致命傷になりえるのかすら分からない。


刺しても満足しない男たちはそのまま倒れている蛇の妖怪を蹴り始めた。それを見ていられなくなった巳弥は男たちの元へ駆け寄る。



『やめてください…!!無抵抗になった妖怪にそんな…!』

この蛇の妖怪は、まだ人間を殺してはいない。私が狼に吹矢を使ったことを怒ったのか、殺気を出したのはそれからだった。どうして森から出てきたのかは分からないけど、もしかしたら狼に付いてきただけなのかもしれないし。まあ来た事自体が問題なんだけど。


「おい嬢ちゃん。そんな甘いこと言ってたら此処じゃ生きていけねえぞ。ただでさえ危険なんだ。殺れる時に殺る。こいつら妖怪だっていつもそうだった。」


そういいながら蹴り続ける。彼の言うことは正しい。ただ、こんなことをさせるために妖怪を麻痺させたわけではないと頭にきた私は男達を押しのけて倒れている蛇の妖怪に刺さる槍や刀を抜いた。そしてその血だらけの背中に被さるようにして男達から庇った。



「おい?血迷ったか!妖怪を庇うなんざ聞いたことがねえ!!離れろ!!」


馬鹿な真似はよせ、と怒鳴る村の男達だけでなく、ずっと睨んでいた蛇もさすがに驚いていた。

自分でも何をしているのか分からないが、この上級妖怪が人間に殺されたとなると、報復にまた新たな上級妖怪が来るに違いない。そう叫んだが男達はもう聞いてはくれなかった。



「お嬢ちゃん。お前、妖怪を庇うってことは、お前も仲間なんだな?そうだろう!?」


「ああ、きっとそうに違いねえ。一緒にまとめて殺っちまうか?」


男達はお互いに顔を見合わせ、蛇の妖怪共々思いっきり蹴られてしまい、私は蛇の背中から転がり隣に倒れこんだ。


『うう…っやめて!!!!』


蹴られながらも蛇の背中に再び被さろうとした時、突然辺りがしんと静まり返る。男達の攻撃が止んだ?何事だろうと顔を上げた瞬間、男たちのそれぞれの足首に白い蛇が巻き付いて噛みついていた。


――――――奴が放つ蛇には毒がある。噛まれてはならん。


ミツさんが言っていた言葉を思い出す。

動けなくても、袖の中に潜ませていた蛇を放ったのだと理解する。

悲鳴をあげながら男達は倒れこみ、やがて動かなくなってしまった。



『……っ』


私が止めたばかりに死んでしまったのだろうか。しかし、人間の力ではどうあってもこの妖怪は倒せなかったと思う。現に袖の中からいつでも蛇を出すことが出来たのだから。


男達の足元に巻き付いた無数の蛇を見ながら立ち上がった。私には攻撃をして来ないようなので、それを信じて既に息絶えてしまった男達を村人のところに引きずっていき、彼らの事を頼んだ。


一部始終を離れたところで見ていた村の人々は、何が何だか分からないといったように唖然と見つめていた。何十人もの村人がいながら、茫然と立ち尽くしているため、私の歩く足音だけが聞こえた。


そのまま蛇の妖怪の所へ戻り、今だ彼女の動作を黙って見つめる妖怪の袖口を紐で縛った。これで先ほどの白蛇は出せないはず。


『このしびれ薬は三日は動けなくできるの。でも、妖怪のあんたなら一日で動けるようになるんじゃない?あ、狼達なら大丈夫。眠ってるだけだから。』



もう襲って来ないでね、と言っておく。此処にずっと置いて放置したいところだが、動けるようになったこの妖怪が何をするか分からない。村の人もすっかり怯えきって離れたところで自分を見つめているだけ。だから、私がこの妖怪をつれて森に置いて行かなくてはならないんだ。

動けない蛇の妖怪を抱き起し、自分の背中に乗せた。

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