形
ガキンチョは、いつもつまらなさそうな顔をしているが、未来から持ってくるものを興味ありげに見る。なので今日はカメラを持って行ってあげることにした。
チェキでたくさんアルバムとか作りたい。ウキウキしながら、いつもの場所で大人しく立っていた少年に声をかける。
「最近お前は変なものを持ってくるようになったな。」
さっそく食いついてる!
『ふっふーん!これカメラっていうの。思い出を形にできるアイテムなの!てなわけで一緒にとろー!!』
通りがかったおじいさんとおばあさんに話しかけて、お願いをしてみた。操作の説明をすると、何かのおままごとだと思われているみたいで、押すだけなら構わない、と快く了承してくれた。
『ガキンチョー!頼んできたよ!』
「何をだ。」
『あの黒いところを瞬きせず、はい笑ってー!』
「なぜ笑わなければならん、何も面白いことなんぞない。」
ガキンチョがちゃんと見ていてくれたかどうかは分からないが、おじいさんとおばあさんが何かを言っているのでそちらに向かって走った。
全く別の背景を撮られてしまっていたことは予想の範囲内。何度か説明し、調整しながらようやくカメラの中におさまった。
「よし!良く撮れてる!」
「何の話をしてるんださっきから。」
おじいさんとおばあさんに御礼をいい、ガキンチョがカメラを持ってまじまじと見ている。ちょうどカメラから写真が出てくると、ガキンチョは驚いていた。
『はい、写真っていうのよ。私とガキンチョが写ってるでしょ?これはあげる!』
「色もそのままか、鏡のようだ。魂をこの中に封じ込める呪術か?」
『んなわけないでしょ。とにかくすごいでしょ。思い出がこの中で形として残るのよ。大事にしなきゃ!』
「悪くない。貰っておく」
素直に受け取ったガキンチョは、じーっと写真の中の自分とにらめっこしているみたいだった。可愛い。
『うん。それにしても、あのおじいさんとおばあさん、仲睦まじくて幸せそうだったなー。写真撮ってあげればよかった。でもびっくりしちゃうよね』
「なぜ撮ってやる必要がある?」
基本的にガキンチョは冷たくて辛辣だ。
『きっと喜ぶじゃん!ああ、あんな仲良し夫婦理想的だわ。私も早く良い縁があるといいな。』
「芋虫女が何を言っている。」
夢見る乙女と言え。私は真剣なのだ。
「なら、早く未来に帰るんだな。」
帰れないから此処にいるんだ、とツッコんでやりたい。好きでこんな危険な場所にいるわけがない。
「ガキンチョはお見合いとかしないの?お坊ちゃんだし、政略結婚とかしそうだよね。でも、あんた生意気だから女の人から離れていきそう!ぷぷー!」
思わず吹き出して笑うと、頭をしばかれてしまった。ガキンチョだって私を馬鹿にしたのだからこれでおあいこだ。だが結構本気で叩かれたのには納得いかない。
『か弱い女の子に手をあげるなんて、やっぱりウニなのね…トゲトゲ痛い…。』
頭をさすさすしながら痛いアピールをしたものの、見事に無視されてしまった。カチンときた私はガキンチョを指さして言ってやった。
『あんたに相応しい人はよっぽど心の広ーい女性じゃなきゃ無理ね!つまり私くらいしかいないわ!』
「ふむ…。興が乗った、面白い。その言葉に二言はないな。ではそうしろ。」
『へ?』
挑発してあげれば、さすがに無視できないと思っていたのに、意外なことに「そうしろ」と返されてしまった。こんなはずではなかった。
『あんたが成長するまで十年くらい待たなきゃいけないじゃない…!何で私がそこまで待ってあげなくちゃいけないの?わ…わたし未来帰るもん。』
何故私がこんなにおどおどしなければならないのか悔しいが、反応に困っているのも事実。
自信満々に言った手前、とても恥ずかしかった。
「勘違いするな。俺が待っててやるんだ」
「え?ま、待ってる!?」
ボっと顔が熱くなってきたので、あわてて後ろを向いた。待っててくれるくらいにはガキンチョの親密度が上がってるということは素直にうれしい。まあ、それとこれとは違うんだけど。
「ああ、お前が言うなら約束してやってもいい」
『約束……いや待って。その言い方、よく考えたら絶対私にいい人は現れないって言ってる?』
「なんだ、鋭いな。」
「むきぃぃー-!!」
やっぱりガキンチョは酷い。少しだけキュンとしたなんて絶対教えてあげない。