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覚めた夢の続き  作者: 神無
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変化した性質




小屋の中に戻ると、台の上におろされる。疲れたので中にいる白蛇さんごとマントを抱きしめて、そのままごろんと横になった。すると、ぎゅるるる…と腹の虫がなってしまい、マントの中で白蛇さんが激しくもぞもぞと動いた。何の音か吃驚してる?慣れているはずなのだが。

凍夜という危険な存在がいるから警戒してるのかもしれない。大丈夫だよーという意味をこめてマントの上からなでなでと撫でた。



「何か持ってきてやる。それ着て待ってろ」



そう言って出て行ってしまった。少しだけ隙間の開いた戸をしばらくじーっと見て、はっと我に返った。完全に思考停止してしまっていた。

戻ってくる前にマントを着なくては。ばさっと広げると白蛇さんは私の膝の上でとぐろを巻いた。


黒いマントは、とても軽いのに、かなり生地がしっかりしており、フード付きで膝下までの長さがある。二本の紐を結べるだけでなく、何気にボタンまでついているのでしっかり正面を隠せるのはとてもありがたい。


『白蛇さんもおなかすかない?何か見つけてきてもいいよ。私は大丈夫だから。』


白蛇さんは何を食べるのかよくわからない。なので自分で狩りに行ったほうがいい気もするし、へたに遠くに行かれると変な妖怪に襲われないか心配でもある。


そう言えば、此処には凍夜と僕さん以外の妖怪を全く見ていない。もっとこう、たくさん出てきていろいろ起きるもんだと思ってたけど、怖いことも多いだろうし会わないなら会わないに越したことはない。


白蛇さんは、しゅるしゅると動き出し、やがて開いた隙間から外に出て行ってしまった。何か食べたらすぐに戻ってくるだろう。



白蛇さんが出て行ってからすぐ、戸がキイ…とゆっくり開く音がしたので、凍夜もう何か持ってきてくれたのかとそちらに顔を向けると、そこには相変わらず無表情な朱里が立っていた。



『あっ!!朱…』


っっと、いけないいけない、大声を出してはいけない。さすがに朱里がいることがバレたら大変なことになる。

両手で口を塞ぎ、しばらくフリーズしてしまった。

朱里は外の様子をちらっと見て、大丈夫だと判断したのか中に入ってきた。



『朱里、本当に無事で良かった。』


感動のあまり、台から降りてその勢いのまま抱きついた。ぎゅうっとしがみついてから数秒、間があったが、朱里も私の背中に片腕を回し、ポンとしてくれた。


その後べりっと剥がされてから、じっと見下ろされる。この通り私も無事だよっとアピールするために、その場でくるりと回ってみせる。



「ひどい目には合ってないようだったから、お前が殺されることはないだろうと思ったが、あの攻撃をくらって無傷とは…。」



『此処に連れて来られてから、死にかけて以来なんでか雷が効かなくなったみたい。もしかして耐性ができたかも?』


「死にかけただと?」



肩をものすごい力でガシッと掴まれたことよりも、朱里が驚いている表情はなかなか見られないので、思わず見入ってしまった。朱里は私が知る数少ない妖怪の中でもダントツでほとんど感情を出さないので、わりとレアである。


しかも、私がどうなろうがわりとどうでも良さそうな顔をしておいて、突然こう心配されるというのは感慨深いものがある。


『ああ、うん…でも龍の血を少し飲まされてから、傷も体力も元通りで。そのせいか、さっきの雷撃も痺れだけしかなかったの。』



「ーーー血、だと……。」



思わずというように朱里が一歩後ずさり、言葉を失っている。驚くのは分かる。血飲んで回復するとか私は何者なんだとか正直思ってるし。


「つまり…乙鬼様の妖力が完全に消えているのは、お前が死にかけたからか。空っぽになったところに新たな妖力を注ぎ込まれたというわけか。……どうりで塗り替えられている。」


『なんかあの、もう少し私を人間らしく表現してもらえない?』


くさいのはそのマントのせいかと思ったが、お前自身も…だったわけだ。」




『あ、聞いてないのね。

というか今臭いって言った?え!?私臭う!?』


「違うだまれ。龍の臭いがぷんぷんすると言っただけだ。」



見下ろす視線が「静かにしろ」と言っている。そうだった。今は静かにバレないようにしなければならないのに私は思わず叫んでしまっていた。小さく『ごめん』と言っておく。


「とにかく、奴はお前が逃げ出さないよう、しばらく見張ってくるだろう。怪しまれぬよう、大人しくしていろ。」




『わ、わかった。ところでさ、本当ならどうやって逃げ出す予定だったの?』



「此処に入り込む時は感づかれないよう、地面を潜り結界の中に入り込んだ。出て行く時も潜って結界を抜ければいい。」



ここはかなり強い結界がはられているらしい。凍夜の仲間すら入って来られぬほどの。だから凍夜と僕さん以外の妖怪に会わないわけだ。


私とともに此処に連れてこられた白蛇さんは、土を掘り結界を抜けて朱里の元へと助けを呼んでくれた。朱里はその白蛇さんの臭いをそのまま辿って潜れば、ちゃんと結界を超えてから地上に出るのは容易いことだっただろう。


ただ、それまでの長い道のりをこうして来てくれたことには感謝してもしきれない。


「そろそろ行く。」




『あ、うん!ありがとう』



いつ凍夜が戻ってくるか分からないので長居はできない。きっと1人でいるときにまた来てくれるだろう。

戸を開けて出て行く朱里を見送るのと同時に白蛇さんが戻ってきた。

もしかしてお互いにタイミングずらしてるの?

と言いたくなるくらい朱里と白蛇さんはすれ違っている。まあとにかく凍夜がくる前に戻ってきてくれてよかった。


『おかえり白蛇さん満腹になった?』



シュルリと舌を出して台の上までポーンと飛んできた。白蛇さんの得意技のジャンプである。



膝の上に乗せてあげると、眠たいのか全く動かなくなった。ちらっとのぞき込むと、目も瞑っていたので寝ているらしい。


キイィ…と古びた音がして、凍夜が戻ってきたことに気づく。



『お肉!!!』



「………。」



戸が少し開いていたので風にのってお肉の匂いが香ってきていたのですぐに分かった。

入ってくるなり、私を見て何故かしかめっ面になってしまったが気にしないことにして、すぐさま台から降りて『ちょーだい!』と手を伸ばした。

マントなので、普通に手をのばすことはできないためボタンとボタンの間にあいた隙間からにゅるりと手を出す。

先程から何故か不服そうな顔をしている。そしてなかなかくれない。



「てめえ…まずは言うことがあるだろうが。」


なるほど、そういえばお肉しか見えていなかった。

凍夜が怒るのも納得である。

せっかくなので、感謝の気持ちを最大限に表現しようと目を煌めかせて首をコテンと傾けて可愛くお願いしてみることにした。


『とーや様…私のために焼いてきてくれてありがとう…。』



声のトーンも上げてみたら、途中声が裏返ってしまった。やっぱり無理やり出すもんじゃない。



「クソ腹立つ顔をするんじゃねえ」



渾身のぶりっこは効かなかったらしい。眉間のしわがさらに深くなっている。しゅんと肩を落として俯いていると、「ちっ」と舌打ちまでされてしまいさらに落ち込みそうになった時、目の前には欲しくてたまらないお肉が差し出される。



『ん?』



「…さっさと食って寝ろ」



くれないんじゃなかったの?と頭にハテナを浮かべて凍夜を見つめた。もしかして渾身のぶりっこは効果抜群だったりして。まあ食べれるのなら万々歳である。



『ありがと!いっただきまーす』




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