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覚めた夢の続き  作者: 神無
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駆けめぐる雷撃




「少し道のりは長くなるが、お前がなかなか戻ってこないと思って奴らが此処に来るころには脱出できているはずだ。」 



『…そっか、なら早いとこ行こう。』


ほんの半日で完了しちゃう準備って、いったい何をしていたんだろうとか疑問はあったが、後で聞けばいいことなので、とりあえず今は早く行動することが肝心だ。



朱里が水面に向かって泳ぎだそうとした瞬間、視界の端に新しい光が差し込んだ。ただ、神秘的に差し込む太陽の光とは違って、胸騒ぎを感じる緑の光だった。


ゴゴゴ…という音も水中に響いてくる。風になでられていた水面は穏やかに揺れていたはずなのに、今では突風を当てられたように荒々しい。



朱里も異変を感じたのか、握っていた手を離し上の様子をうかがう。


水の中では外の様子が分からない。だが何かが起きている。そして私には何が起きているのかが容易に想像できた。




『朱里逃げて!!!』



朱里の盾になるように水面に向かって思いっきり両手を広げた。

その行動とほぼ同時に一瞬キラッと眩しい一閃が、カッと水中に入りこんできた。


水を切る勢いで入ってきたのは緑のいかずちだ。

それは的である自分を直撃し、池全体にバチバチと緑の電流が流れる

池に雷が落ちたのだから、被害は自分だけではない。


電流が流れ水の中にいるもの全て感電し、電撃を直撃しなくても、感電で朱里も無事ではないかもしれない。


それに、落雷の直撃をあびたので普通は即死するはずなのだがなぜか生きている。もっと驚きなのは、痛みとかがないことだ。


だが、体が全く動かせない。くるりと向きを変えて朱里が無事逃げれたのかとか、確かめたいのに体中がバチバチと痺れていて動かせなかった。


しかも先ほどの直撃のせいで、飲み込んだはずの朱里の玉を吐き出してしまったらしい。息が出来ないのに体が動かせないのでこのままではまずい。

雷では無傷でも溺死はするのかと冷静に考えているときだった。


水面から伸びてきた手に胸ぐらを乱暴に掴まれるとそのまま引き上げられた。救出、というには語弊があるので捕まったというべきだろうか。

先ほどまでの雰囲気とは違い、今は敵を見るような冷たい視線が注がれる。




『ゴホッ……凍夜、ゴホッ』



やっと呼吸ができたのは嬉しいが、全身の激しい痺れのせいでうまく息が出来ずに、喋るのもきつい。



引き上げられたものの、凍夜に服を掴まれたままで、地面に足がつかない。まだ池の上を浮いているようで、凍夜は竜のような形をしたバチバチと緑に光る電気を作り出し、その上に立っている。


何がやばいって、私の衣服はボロボロで、胸ぐらを掴まれているだけでは、自身の体重を支えきれない。

冷たい視線から逃れたいために、置き場のない足をバタバタと暴れてみたが、少しの動きでも体に電気が走りおかしくなりそうだったのですぐに止める。

だが、ボロボロの衣服には効果てきめんだったのか、すぐにビリビリと音をたてて、衣服は裂けて凍夜の手から逃れることに成功し、池に逆戻り…するはずもなく、即座に捕まり、俵担ぎのように腕に抱えなおされただけだった。



『……んん…!』


衝撃があるたびに痺れが強くなるので、早く地面におろしてくれないだろうか。そしてできればうつ伏せになるように寝かせてほしい。


衣服が破かれたせいで、正面が丸見え状態になっている。下着は付けているが、同じくボロボロなので出来れば隠したいところ。



ドサッと雑に地面に落とされ、うつ伏せに倒れ込んだ。しかしすぐに肩を掴まれ仰向けになおされる。そのまま覆い被さるようにして顎を掴まれた。



『んん…っちょっと!今触らないで……あっ』




顎を掴んだ手の親指が開けた口に入り込み、口が閉じれなくなったのをいいことに、反対の手で私の口の中に指を二本ねじ込ませてきた。



長くてしっかりした指が、口内を荒らしている。いったい何をしているのか分からない。でも何かを探しているように指で弄ってくる。

  


『ひゃ…っ凍やぁ…!』



腹部に乗っかられているせいで、身動きがとれないのと、乗られている重みでバチバチと激しい痺れが襲う。

必死に抵抗してみるが、無意味だった。

掴まれた顎もぬるぬると口内を荒らす指も痺れて全てが耐え難い。指に思い切り噛みついて動かせないようにしているが、それでも弄ってくる。



もう降参だ。じわっと勝手に出てくる涙を目に浮かべながら、抵抗をやめて凍夜に視線を送った。口の中も自ら小さく開けて『口の中には何もありません』とアピールした。


すると、指の動きが止まり、凍夜が視線を合わせてくる。降参の意志が伝わったのだろうか。


ぬるりと指が引き抜かれた。だが、変わりに凍夜の顔が近づいてきて、私の唇に凍夜のそれが重なり、口の中に再びぬるりと指よりも生暖かくて柔らかい舌が入りこんだ。


同じように口内を荒らすのかと思ったが、意外にも優しく舌を絡めながら、動いてくる。



『は…ぁふっ』




思考も色々と麻痺してきた時、ようやく舌が離れていき、互いの舌が銀の糸で繋がっていた。

唇の端からは、はしたなく頬に唾液が伝ってしまっていたが、息を整えている間に凍夜が指で拭ってくれた。


指を突っ込んでおいて、何もないと分かったはずなのに舌まで入れてくるなんて、意味が分からない。

確かに指には噛みついていたので思うように何かを探せなかったのかもしれないが。

それともただたんに拷問だったのかもしれない。



その後すぐに腹部の重みがなくなり、ようやく解放されたと安堵する。



立ち上がった凍夜はいつの間に出したか分からない漆黒のマントのようなものを、私に被せてきた。


正面が大変なことになっているので、これで隠せるのはありがたい。



そのまま抱えて連れ帰られそうになったが、触れられた刺激で体がビクビクと激しく反応してしまう。

その様子を見て、今は触らないほうがいいとようやく理解してくれたのかは分からないが、そのまま置き去りにして帰ってくれた。



早くこの纏わりつく痺れがおさまってほしい。ようやく静かになった池の方に首を傾ける。位置的に底までは見えないが、鯉は何事もなかったかのように優雅に泳いでいる。

なんと剛健な魚なのだろう。というよりこの魚も妖だったのか。



なら、朱里も逃げれなかったとしても、ひょっとしたら無事だったかもしれない。そうだと良いのだが、こうしてひとりになれたにもかかわらず、朱里は姿を現さない。一抹の不安を覚えた時、地面をズルズルと這う音が聞こえてきた。腕の力で少しだけ起き上がれたので、そちらに体を傾ける。視線の先には、にょろにょろと地面を這いながらこちらに向かってくる白い蛇がいた。



『白蛇さん!!!』



朱里ではなかったが、白蛇さんがこうして元気にいるなら、朱里もきっと無事だろう。

 

白蛇がこうして朱里に此処の場所を教え、連れてきてくれた。あと少しで脱出できたかもしれないところで捕まったが、まだチャンスはある。


手を伸ばし、寄ってきた白蛇さんを優しく撫でてあげた。



『白蛇さん、朱里は無事かな。うまく逃げてくれてればいいんだけど…。白蛇さんは、感電しても耐えれる?』



白蛇と会話はできないが、何となく理解してくれてる気がするのだ。なんといっても白蛇ナビだから、言った所に連れて行ってくれる。だから、この言葉も分かってるような気がする。



じっとみていると、白蛇さんは微かに小さく頷いたような気がした。気のせいかもしれないが、それだけで少し安心した。



「ほう、お前と一緒にいたのは白蛇だったか。」




ほっと息をついた時、頭上からした声に、ビクッと震えてしまった。もうほとんど痺れは残ってないので、そのせいで震えたわけではない。

見られてはいけない場面を、しっかりと見られていたことに驚いたためだ。



本当は朱里といたのだが、白蛇も脱出の手助けになる仲間だ。それが此処にいるということがバレてしまったのがまずい。

後で、『ただ泳いでいただけだ』と言い張ろうと思っていたのだが、ばっちり見られていた。




「もっとでかい何かがいたような気がしたが…その白蛇を庇って、この俺の攻撃をわざわざ受けたのか?」



確かに、両手を広げて盾になる態勢をとっていた。何かを守ろうとしていたのはバレていたのか。



『こ…この白蛇は私が飼ってるペットだから、手を出さないで!』



「飼ってるだと?どうやってついてきた?」



『この子は私のお腹にぐるぐる巻きついてるのが趣味だから…!服の中にずっといた……みたい。』



巻き付かれてても、もう慣れすぎてしまって、いてもいなくても意識しないと気づかなくなってしまった。

こうなったら、正直に開き直るしかない。



はあ?という表情をしながら凍夜は白蛇に近づこうとするので、あわてて起き上がり白蛇の前に出て阻止した。



「そいつをよこせ。不穏な動きをしないよう俺が見張る。」



『………。白蛇は、いつの間にかお腹に巻き付いてるから。凍夜のお腹に巻きついてもいいの?』



「うっかり殺すだろうな。」



わりと本当のことなので真剣に言ったのだが、真剣に真顔でそう言う凍夜の発言にゾゾッとし、貰った黒いマントの中に白蛇さんを隠した。絶対に渡さないんだから。



本気を出せば簡単に奪いとれるのだろうが、凍夜は少し考える表情をした後に、やがて大きくため息をついた。




「ま、そんな蛇に何か出来るわけでもねえ。見逃してやる。」



『ほっほんと!?』



「だが、お前は逃がさないから覚えてろ。」



『え、うわっ!』



そう言い終わると、凍夜は軽々と横向きに私を抱え上げて歩き出す。白蛇さんを中に隠しているマントをぎゅっと握りしめながら、凍夜を思い切りキッと睨みつけてやった。



「……。」


それを一瞥した凍夜は顔をあげて前をむきながら無表情で言い放った。




「そういう顔をするな。煽るなら襲うぞ。」



前を見ながら淡々と言う凍夜の言葉に、体がカッチンと固まった。


どの辺が煽ったのだろうか?私は睨みつけただけなのだが?

いや待て、そう言えばこの男、かなりのサディスティックな鬼畜野郎だった。つまり、反抗されるのが大好きで、それをいたぶるのも大好物なのだ。


最近優しい一面があったのですっかり忘れていたが、はりつけて拷問していたときはめちゃくちゃ楽しそうだった。


いわゆる中身は最悪鬼畜の暗黒の邪龍。顔だけ男なのである。見た目に惑わされてしまうところだった。


なんて残念すぎる妖怪なのだろうか。邪龍と言ったら喜びそうなので絶対言わない。



『絶対反抗なんてしてやるもんか…むしろ従順になってやる…』


ボソッと呟いた私の確固たる決意の発言に、凍夜は一瞬目を伏せてフッと鼻で笑った。




「それは残念だ。」



いつもの凍夜の少し優しげな声は、少しも残念そうではなかった。


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