念願の邂逅
「あ!ねえ、そういえばその箱は何なの?」
さっきからずっと重たそうに箱を持ちながら、じーっと物珍しそうに見つめてくる熱い視線を感じるのだが、いったい誰だろうか。凍夜様と呼ぶあたり、位置的には葵みたいなものだろうか。
じいっと見つめ返すと、彼ははっとしたように凍夜のほうへ向き直った。そして凍夜は黙ってその箱の中に手を入れて、それを私に差し出した。
『にく!!!!!』
一瞬にして目をキランと光らせると、凍夜から串を奪い取りいそいそと枯葉や枝をかき集めた。二人がぽかんとしている間に、てきぱきと火をおこし肉を焼いた。
そういえば、お腹がすいていたことなんてすっかり忘れていた。そんな余裕はなかったからだが、こうして用意してくれてとても嬉しい。
葵だったらだいたい木の実や魚をとってきてくれるが、乙鬼にいじめられて機嫌が悪い日にはその辺の草やキノコだったりするので、肉はとっても珍しいのだ。だから涎がとまらない泣きそう。
「凍夜様、さっきのあの娘、肉をとる時手が伸びてませんでしたか。」
「気のせいだ。」
「火起こしだって手から火が出てたように見えました。」
「…気のせいだ。」
「食べる姿だって……まるで獣を見てるようで……。」
「それは見える。――――いや待て。」
肉にかぶりついたところを見て、すかさず駆け寄り串を奪い取った。「わたしのにくー!!」と言って喚いているが無視して火の前に戻す。
あまり覚えていないが、そういえばこいつは昔も生焼けで食べて腹を壊していた。慣れた手つきでてきぱきと火を起こすまでの動作は関心したが、食べるのは早すぎだ。
こいつが苦しもうがどうでもいいが、腹を壊されると余計にうるさくなりそうで面倒だ。仕方なく女の手から串をとりあげ、しっかりと火が通るまで焼いてやった。
「外はカリッと中はじゅーしー!おいひい…」
何故俺がこんなことまでしてやらねばならないのか。肉くらい一瞬で焼けるが、電撃を見るとこの女の顔が再び恐怖の顔に変わるかもしれない。面倒だが仕方なくゆっくり焼きながら、焼き方を教えてやった。
美味しそうに食べる姿は、天にも昇りそうなほど幸せな顔をしている。今まで恐怖する人間の顔しか知らなかったが、こんな幸せそうな顔を見られる日がくるとは。
500年前こいつに会ってから、人間に興味がわいた。だが、攫ってきたどの人間もつまらなかった。それが普通の反応だったのだろうが。かつてこの娘は、俺に会いに行くと適当な約束をしたが、場所も知らないのに来られるはずがないのはわかっていた。
だからもう一度会いに行ってみようと森の近くまで行ってみたが、その娘は死んだという話が広まっていた。もう二度とあんな珍しい人間には会えないだろうと当時は落胆したものだ。
それがまさか生きていて、憎い相手となって再び会う日が来ようとは思いもよらなかった。会えたらと思っていたのは確かだが、この娘は憎き人間に変わりない。やはり苦しめて殺さなければならない。
「あ、僕さんその箱の中の全部焼いてください」
「んなっ!!貴様の僕ではないわ!!全く何故私がこんな…」
「ちゃんと焼いてね」
「うるさい!!」
だが、こんな腑抜けたアホ面を見ていると気が抜けてしまいとてつもなく疲れてくる。また今度考えるとするか。
2人の口論を聞きながら、はあっとため息をついて立ち上がり女の隣に腰を下ろした。
『ん?とーやも食べたいの?』
「お前の餌だ。奪って食べたりしないからもっとゆっくり食え。」
『餌。』
ショックでも受けたような顔をして、力なく肉にかぶりついている。
『とーやと僕さんは食べないの?妖怪って草とか食べるんだっけ?いや違う、そういえばさっき私をかみ殺すとか、粉々になるまで食べつくすみたいなこと言ってた…。人間もいけるんだ…』
「人間など食ったことはない。だがお前は咬み殺してやりたい気持ちは変わらずある。俺の前で気を抜こうものなら、頭から食ってやるからな。」
「凍夜様、果物はいかがですか?」
「食後のデザートね!!ちょうだい!!」
「だれがお前にやると言った!!私は凍夜様に言ったのだ!お前なんか箱の中に入れといたドングリでも食ってろ!」
脅しはこの女に効果が薄いらしい。再び騒がしくなった2人の口論に挟まれながら、1人また大きなため息をついた。