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覚めた夢の続き  作者: 神無
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護身術

「おい、そうじゃない。何度言ったらわかる?まず姿勢が悪い。」


「う…」


なかなか狙ったところに矢が当たらない。弓道の経験はあるものの、ひょろひょろと放たれた矢が地面に突き刺さった。しかしションボリしている暇をガキンチョは与えてくれなかった。なかなかスパルタなのである。いつもよりグサグサと刺さるような言葉が次々と胸に突き刺さる。何故今こんなことになっているかというと、事は数時間前に遡る。


「おい。1日会わない間に血迷ったか?狩人にでもなったのか」


『え?ああこれ?違うよ!もしものために鍛えとかなくちゃ!ほら、ガキンチョさ、温泉一緒に行った時、鳥とか捕まえてくれたじゃん?空き巣に置きっぱなしの矢で打ったんでしょ?だから、私にもそれ教えて!』


ガキンチョの性格的には面倒だと一蹴されるだろうと思っていた。だがそんなことではあきらめない。何度かしつこく頼み込んで、教えてくれるまで帰らせないつもりで来たのだが、少しだけ考える素振りを見せたかと思うと、わりとすんなり「いいだろう」と言ってくれた。



「お前は虫ケラのように弱いから、覚えたほうがいいだろうしな。」


『むかつくけど間違ってはない…。』



「いいか?射の基本は五つだ。

弓の力、基本体型、呼吸、目づかい、心・気の働き。弓を引き込むには筋力が必要だ。だが筋力の強い人が必ずしも強い弓が適当とは限らない。筋肉の上手な使い方をしろ。貴様の場合は、スムーズに弓を引き込めている。初めてのわりにはうまい方だ。」


初めてではないけど、こんなことならまじめにずっとやっていれば良かったと後悔する。

ガキンチョは、初めは面倒くさそうな表情をしていたが、いざ教え始めるときっちり細かく教えてくれた。集中力が切れそうになるがスパルタのガキンチョはいっさい休憩をさせずに帰る時間になるまで練習に付き合ってくれた。


ガキンチョが教えてくれたことを忘れない間に、夕方村に帰り着いて今すぐにでも眠りたかったが空が真っ暗になるまで練習を続けた。再び村長に叱られたのは言うまでもない。

そろそろ戻っておいで、とミツさんの声が聞こえたので、的にしていた木から矢を引き抜き、まとめて屋内にしまってから、夕食をとることにした。



「今日は、また少年と遊んでたのかい?弓を持って行っていたが練習でもしてたのか。少しは経験があるようだし、あんたならすぐ上達するさ。」


『はあ、本当に熱血指導でしたよ。無言の圧力も怖いし…何より休憩なしでやってましたからね…今日はもう寝ます…』


「明日もいくんだろ?早くお休み。…てもう寝てるね…。」


翌朝私は、誰よりも早く起きて外で弓の練習をはじめた。

昼はガキンチョが練習に付き合ってくれて、夕方帰るとすぐに練習し暗くなるまでし続けた。これが毎日繰り返された。


「学校にも行かなくていいし、勉強もいらない。好きなことできるしむしろしなかったら暇すぎる…ニート生活…!!」



なにか働いた方がいいと考えミツさんに聞いたが、そんなことする必要はないと言ってくれた。ぐーたら生活ではないからまだいいが、このままだといずれ引きこもりのダメ人間になりそうだ。


弓を練習し始めて早十日が過ぎる。妖怪が再び村に突然襲ってくることはなくなり、このまま平和が続けばと願わずにはいられない。




夕方家の中でごろごろしていたら、ミツさんが帰ってきた。今日は、ガキンチョとも早く別れたためミツさんより早く帰ってきていたのだ。笑顔でおかえりなさい、というと少し驚いて「ただいま」っと暖かい笑顔で返事があった。


「今日は早く帰っていたんだねえ。」


『はい!弓、大分上達したって生意気なガキンチョが言ってくれたんですよ!!すごくないですか!?天邪鬼で口の悪~いお坊ちゃまだと思ってましたが、私の勘違いだったみたいです。正直ないい子でした!私には、才能があるって…!!だから、今までガキンチョが私を馬鹿にしてたのも、きっと真実を言っ……お?』



「おやおや…自分で認めるのかい」


自分で自分が馬鹿なのを認めたような発言をしたことにミツさんは若干苦笑いで聞いてくれた。


『あ、テイク2でお願いします!私ガキンチョに弓うまくなったって言ってもらったんですよ!?すごくないですか!?ツンデレかと思ってましたけど、ただの生意気なチビガキでした!!』



「……褒められて嬉しかったんじゃないのかい…?」


またまたミツさんは苦笑い。おかしい。何がいいたいのかすらわからなくなってきた。つまり、生意気なガキンチョの癖に初めて褒めてくれたから嬉しいって思ったんだ。言いたいことが一気に出すぎておかしなことを言ってしまっていたようだ。


『そう!それだ!!!!』



「・・・・?」


言いたいことがまとまったところで、もう一度言おうとしたが、くすくすと笑われて「分かってるよ」とだけミツさんは言った。


その言葉になんだか、むずがゆいような心地に私は照れ臭くなった。




ミツさんが寝息が聞こえてくるけれど、私はまだ眠くなかった。学校カバンの中をあさって教科書を見た。久しぶりに触る本の重みや形。数か月前は学校で授業をして勉強していたなあと教科書をぺらぺらめくりながら、懐かしきあのころを思い出す。


もし帰れたとき、次は大学生になる。向こうの「時」は進んでいるのだろうか。帰ったら大学も始まってたというパターンは嫌だ。でも今は帰る手段がない。この先何十年後になるかもしれないし、一生帰れないかもしれない。しかし帰れたとき、周りに後れを取らないように手元にある数冊の教科書で勉強しておくことにした。


しかし、テスト前などにしか集中力が開花しないため、此処で勉強などはかどるはずもなく、いざ勉強しようと文を読み始めた瞬間眠りについた。





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