撲殺
『溺死』に次ぐサスペンスもどきシリーズ第2弾です!!
前回より長くなってしまいましたが、携帯表示で1ページで収まりはしたのでよしとしました。
最後まで読んで頂けるとありがたいです。
君を壊してしまおう。
バラバラに解体してやろう。
原型を留めない程に。
衝動的な感情なんかじゃない。そんなヤワなものじゃない。ずっと前から考えていた。もう終わりにしようと。君のその脳天気な顔を、このずっしりと重たい鈍器でかち割ってしまおうと。
大体、今の給料ではどの道、貢ぎ続けるなんて不可能だった。自分の生活費だけでいっぱいいっぱい。それにこんな長期に渡りこんな生活を維持できただけで、飽き性な私としては頑張った方じゃないか。
どんな言い訳をしてみても、後ろめたさが残り私をさらに苦しめた。どれもこれも、私の罪悪を完全に取り払うには何かが事欠いている。
君と向き合う度に今日こそ、今日こそと意気込んだが、その優しい瞑らな瞳が何度となく私の一手に待ったをかけた。
しかし、そんな延々何ヶ月にも及ぶ葛藤にも終止符を打つときが来た。
――ついに私は怯懦な自分を棄ててしまった。
右手に金槌を握り締め、私は今君の真っ正面に立ち君だけを見ている。
こんなに長く見つめ合うのはどれくらいぶりだろうか。君の瞳はいつもと同じ様に優しいもので、出会った当時の記憶を鮮明に浮かび上がらせた。
あれは――
「ふぇっ…ぐすっ」
膝に頭をうずめて泣く私の肩に、大きくて温かい手が触れた。
「どうしたの」
優しい声に顔をあげると、その人は優しい目を私に向けている。
誰、と尋ねればにこりと微笑みゆっくりと名を告げる。
「祐也、蒲久地祐也。ねえ、どうして泣いてるの?」
「寂し…い、の」
そっか、じゃあコレあげるよ。そう言って祐也はプレゼントをくれた。
「だからさ、」
私はこの先の祐也の言葉を忘れられない。
「泣かないで」
何か熱いものがこみ上げてくる感覚に我に返る。視界がぼやけて何も見えない。強く目を閉じると生暖かいものが頬を伝った。
もう一度君を見る。「泣かないで」そんな声が聞こえる。
それで、また私は負けそうになるんだ。
堪えられない。
優しすぎる君の顔を見ていられなくて、私は黒いビニールの袋に君を包む。君の身体はあまりにも冷たくて、指先から心の奥まで凍りついてしまいそうだ。
いや、いっそのこと、凍りついてしまえばいい。この、僅かに残った理性と道義的な精神を麻痺させて、骨の髄まで狂わせて欲しい。
そしたらもっと――
ラクになれるのに。
私はもう一度、見えなくなった君と向き合う。今度はもう迷わない。
「ごめんね、祐也」
空虚な謝罪のコトバとともに、金槌を振り下ろした。
陶器の悲鳴に混じり、ジャラジャラと欲望の擦れ合う音がした。
閲覧ありがとうございました。
『溺死』を閲覧下さった方には、序盤でオチまで見透かされてしまったかもしれませんね。パターン的には同じなので……
芸がなくてすいません(._.;)
豚貯金箱ってかわいいですよね、開けるの大変ですけど(肉体的にも精神的にも)。あの瞑らな瞳に見つめられたら絶対壊せないと思うんですよ、切なくて。さらに好きな人からの貰いものだったりするとなおのことですよね……
というかアレですね。初対面でいきなり豚貯金箱をプレゼントする祐也君は間違いなくイケメンではない(笑)そんなイケメンいるわけ…いや、そんなフシギちゃんみたいな人間いるわけないですよね(笑)