銀の少女が生きる理由
『すまない。本当にすまない。置いていく形になってしまって。死んでしまって』
『ごめんなさい。隠し切れなかった。でもどうか貴女だけは』
『『生きて、幸せになって』』
「んん……」
弱々しく覚醒する意識と共に睫毛が震える。夜の間閉じていた瞳は重く、瞼の向こうから光を感じるのに、閉じたままでもう一度意識を落としてしまいたくなる。二度寝の誘惑に打ち勝ち、差し込む光に眉間を顰めながら徐々に世界をその目に映し出した。
「また、この夢」
銀の髪を持ち、心配になるほど白い肌をしている美しい少女。小柄だが、その体つきは成熟した女性のように見える。しかし人形のような精巧な顔には幼さを残していた。
「………こちらこそ、ごめんなさい。いまだに、手がかりさえも掴めていません」
白髪の森人。自分が追い求める相手。しかし、その心は恋でも、愛でもない。復讐だ。
10歳の頃に、親が殺された。村の友人も、その親も。生き残ったのは自分だけだった。その頃からずっと眠るとこの夢を見る。顔が見えない人からの懺悔と、願い。もう見慣れたはずなのに目の端から流れ出る涙は無意識のものだった。
「そういえば、今日ですね」
今日は少女の15歳の誕生日だった。待ちに待った日が来たと少女はベッドから降り、机に広がったまま、片付いていない本を手に取る。
魔術の手引き【初級編】
強くならねばならない。中級も、上級も探したが、初級しか、手に入らなかった。しかし、10歳から出来ることはしてきたつもりだ。走ったし、この本の内容は全て習得した。
外に出る準備を整えて窓へとその身体を向ける。
「お母様、お父様。どうか、空にて見守りください」
片膝をつき、その首にかける翡翠の宝石を握り、日課となった祈りを捧げる。
「行って参ります」
玄関に手をかけ押し開ける。太陽の輝きが眩しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《身体能力》
lv.Ⅰ
《スキル》
魔力Ⅲ
感知Ⅱ
聴覚Ⅳ
復讐Ⅶ
《魔法》
【|この命、貴方のおかげで《ウィータ・メアペルテ》】
・魔断結界
・結界内回復効果あり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………あ、嬢ちゃん、見ない顔だな。随分別嬪さんだが、この辺は初めてかい?」
「ええ。それで、どうかしましたでしょうか?」
「いや、ものは相談なんだが、ある坑道が小迷宮になっちまってな、攻略してきてくれねぇかい?」
「…………構いませんが、一つこちらからも頼んでもいいでしょうか?」
「おう!いいぞ?なんだ、金か?奴隷か?」
「強い、白髪の森人の方を探しています。ご存知ないでしょうか?」
「…………そうだな、嬢ちゃんがしっかりと依頼を果たしたらな、教えてやるよ。依頼の達成条件は、最奥に隠されている大金を見つけ出し、持ってくること。どうだい?」
「かしこまりました。約束、忘れないでくださいね?」
◆
「はあ、どっかの誰かがかっこよく助けてくれて守ってくれて借金も返済してくんねーかな」
迷宮に入ってから体感3時間が経った。時刻は多分お昼時だ。ユーリは順調に迷宮を進んでいた。魔物も最初の小鬼三体以降一切遭遇していない。暗視Ⅱだってサボることなく働いている。これが儀式の成果かと思った。その余裕もあり、ユーリは起こるなんて思ってない奇跡と願望を口にした。
「は!いったい誰が助けてくれんだよ」
家族はもう死んだし、それといった友もいない。神も自分を助けてくれなかったので信じていない。ならあの借金取りか?と内心思い、案外限界なのかも知れないとユーリは思った。
「自分でなんとかするしか無いのか。まあ、人生だもんな。………腹、減ったなぁ」
いつも彼は金欠に追われている。いつもの稼ぎは最低限を残して借金返済に回されるので、この空腹も大体いつものことだが、ツルハシを振るだけの仕事と、剣を持ち、気を張らないといけない仕事の違いはいつも以上に負荷をかけていた。
「いちおう、朝に干し肉入れたんだが……」
『『キュキューーー!!!』』
「お」
迷宮の壁が裂け、そこから2匹の兎が生まれた。【一角兎】だ。その手には石で出来た手斧を持っている。二刀流というやつかだろうか。
「ーーーよし」
ユーリは息を吸い、カタナに手をかける。そして引き抜き構える。右手に長い方を、左手に短い方を。
「相手が2本使うならこっちだって使う」
『キッキュゥゥ!!!』
『キキューーー!!』
片方の一角兎がもう1匹の足を掴みユーリに向かってぶん投げる。飛んでくる兎は回転しながらも手斧を構え、敵意に満ちた視線を向けてくる。
「ーーっは!!」
『キュッ!!』
タイミングを合わせて両のカタナを振るう。しかし、手斧で弾かれた。どうやら接近戦が得意なようだ。
『キキューーー!!』
投げた方の兎が襲ってきた。これで前と後ろで挟まれてしまった。これを対応し切るのはユーリには難しい。
「ーーーッチ」
『キュッ』
なんとか手斧をカタナで弾く、避ける。反撃するにはどうすればいいか。敵は接近戦が得意な魔物だ。そこにはおそらく微弱な知性があると、そう仮説をかけた。
フェイントだ。この兎を狩るには技術が必要だ。こちらの動きを見て、攻撃を決めるのであれば、無効ではないはずだ。
「ーーーッフ!!」
『ギュン!?』
所詮は素人に毛が生えたようなユーリが考えたフェイントだ。しかし、一角兎にはこれで十分だったようで、陽動に振りかけた長いカタナに気を取られ、全力で突き出した短い方に対応出来なかった一角兎は中心に存在する魔石を砕かれた。その身体が一瞬で灰と変わる。
『キキューーー!!!!』
「ぐ、痛え」
背後から襲いくる兎に腕を手斧で殴られるところでカタナを盾として差し込んだ。だが、それでもカタナ越しに当たった斧は石製ということもあり、鈍痛が腕に広がった。直接当たれば骨も砕けていただろう。
「こっのぉぉ!!」
『ギュ……!?』
カタナで上から切り込む。斧でガードされたが、地に叩き込み、斧を手放させることに成功した。上から足で踏み付けて拘束する。
『キキューーー!!!!』
「逃さねーぞ」
拘束から抜け出そうとジタバタと動く。だが、ユーリは逃さなかった。
「死ね」
『ギュ……』
カタナを首に突き刺す。ビクンと痙攣し、その身体は灰になった。魔石が落ちる。
「ふう、危なかった」
ユーリは魔石を拾い、先の道を見る。そこからは小鬼と、魔狼がやって来ていた。
「……休み無しか。よし、行くぞ!!」
ユーリは先手必勝!!というように魔物たちへと向かっていった。




