祓いではなく、救い—— 葵と真白
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あれほど荒れていた戦場が、
嘘のように静まり返っていた。
崩れた家屋。
焦げた柱。
黒く焼けた地面。
風が吹くたび、
焼けた土埃がさらさらと舞い上がる。
真白
「火の童子さま……ありがとうございました」
胸の奥から、
自然とこぼれた言葉だった。
火の童子
「えぇねん……気にせんでえぇ……」
ぶっきらぼうに答えながらも、
その声はいつもより少しだけ静かだった。
そして、
遠くの空を眺めながら、ぽつりと呟く。
火の童子
「なぁ真白や、輪廻に帰れんかった魂は……
最後は苦しくなかったんやろか?」
彼らが少しでも苦しまなかっただろうかと、問いかけるように。
救いを確かめるような、
祈りに近い声だった。
真白は、
ゆっくりとうなずく。
真白
「はい……最後には皆、穢れの怨嗟から解放されて……
光と共に、穏やかに消えていきました……」
"あたたかい"と、
"ありがとう"と。
そう言いながら。
縁
「……悲しいね……」
縁の小さな声が、
やけに響く……
縁
「悪鬼にさえならなければ……
輪廻転生の救済も、ちゃんとあったのに……」
いつもの軽い口調はなく、
ただ静かに、悔しさがにじむ。
菖蒲も、
焼け跡を見つめながらそっと言った。
菖蒲
「この状況では……
亡くなる前には、とても穢れていたのでしょう……」
飢え。
恐怖。
絶望。
積み重なった負の感情が、
人の魂を、ここまで歪めてしまったのだ。
誰が悪いわけでもなく。
けれど、
確かに救われなかった命があった。
そこへ――
瓦礫を踏む、かすかな足音が近づいてきた。
振り向くと、
焼け跡の向こうから、
一人の青年が歩いてくる。
崩れた瓦礫を飛び越えながら、
落ち着いた足取りで。
どこか飄々としていて、
けれど芯の通った気配をまとったその姿に、
縁がふっと目を細めた。
縁
「葵くん、久しぶり〜!」
声をかけられた青年――葵は、
縁と、そして火の童子へ、懐かしむように視線を向けると、
にこやかに微笑んだ。
葵
「縁さま、火の童子さま。
ほんとに久しぶりですね。」
火の童子が、にっかと笑う。
火の童子
「相変わらず元気そうやな、葵!」
葵は、やわらかく目を細める。
葵
「なかなか、お会いする機会がありませんでしたからね。」
穏やかな声だった。
縁が、それにつられるように、
くすっと笑う。
縁
「ほんとだよ!
静音とはよく会ってるけど、
葵くんとは神在月に出雲へ出向いた時くらいだもんね~」
真白と菖蒲は思わず顔を見合わせ、首を傾げた。
真白
「縁さまは、葵さまとはお知り合いなのですか?」
縁はあっさりと答える。
縁
「うん、もちろん知ってるよ! 静音の双子のお兄さんだよ!」
真白・菖蒲
「えっ――」
思わず、
真白と菖蒲の声が重なった。
二人はそろって葵を見つめる。
静音にどこか似た面影。
けれど、
雰囲気は対照的で、どこか飄々としている。
菖蒲が慌てて背筋を伸ばした。
菖蒲
「し、失礼いたしました。
豊穣神社の眷属、菖蒲と申します。」
真白もぺこりと頭を下げる。
真白
「同じく眷属の真白です。」
葵は柔らかく目を細めた。
葵
「ご丁寧にどうも。
助太刀、とても助かったよ。
ありがとう。」
そして――
ふと、
葵は真白の方へ視線を向けた。
まだ光の余韻が残っているように、
真白の身体から、
淡い白い光が静かに漂っていた。
葵
「それにしても……
さっき君の光の力、すごかったね。
君の浄化の術なのかな?
僕は初めて見る力だ。」
その声には、
素直な驚きと、どこか楽しげな響きがあった。
ただ純粋に――
「すごい」と思ったからこその言葉。
真っ直ぐ向けられたその視線に、
真白は一瞬、戸惑ったように目を瞬かせる。
それから、どこか照れたように、
葵に答える。
真白
「……僕の権能です。
人の心の穢れや、眷属の穢れなどを祓い、
浄化する力でして……」
言いながら、
視線がそっと地面へ落ちる。
真白
「元の姿には戻せませんが……
せめて、
苦しみからだけでも解放できればと……」
最後の言葉は、
ほとんど祈りのように小さかった。
そう言って、
そっと視線を落とす。
助けられなかった命。
還せなかった輪廻。
その重みを、
すべて自分ひとりで背負っているかのような横顔だった。
葵は、
しばらく何も言わずにその姿を見つめる。
やがて、
静かに口を開いた。
葵
「……真白くんはさ。」
真白が顔を上げる。
葵
「自分の力を過小評価しすぎじゃないかな?」
葵は
柔らかく微笑みながら、
葵
「さっきの悪鬼討伐だって、
救われた魂のほうが、
ずっと多いと思うよ。」
その言葉に、
真白は目を見開いた。
葵は、
小さく頷く。
葵
「君の光、
あれは“祓う力”っていうより……
ちゃんと、“救う力”だった。」
そして、
穏やかに微笑んだ。
葵
「……優しい力だね。」
短い一言。
けれど、
それ以上の言葉はいらなかった。
ただ、
真白という存在そのものを、
まるごと肯定する響きだった。
戦場の焼け跡に、
ほんの少しだけ、
穏やかな空気が戻る。
風が静かに吹き抜け、
焦げた匂いが、
ゆっくりと薄れていく。
張り詰めていた緊張が、
ほどけるように消えていった。
まるで――
ここに残っていた魂たちも、
ようやく安らいだかのように。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします(*´∀`*)




