【前編】【前世に別れ、今世に微笑みを】
夢に、知らないはずの景色や声が蘇る――それは前世の残響かもしれない。
冬の奇跡に触れる、ひとときの物語です(*´∀`*)
また――あの夢を見ていた。
眩い閃光が夜空を裂き、次の瞬間、鼓膜を突き破るような轟音が響く。
爆風に巻き上げられた砂埃と、焦げた金属の匂い。
息を吸うだけで喉が焼けるようだった。
遠くで誰かが泣いている。
声は幼い少年のものだった。
"Mom! Where are you!?"
(ママ!どこなの!?)
"I'm scared!"
(怖いよ!)
"Help me!"
(助けて!)
その叫びが途切れるよりも早く、
空が閃光で真っ白に染まり――
世界が“ぷつり”と音を立てて消えた。
すべてが途切れて――目が覚めた。
心臓が激しく鳴り、夢の余韻で脱力感を覚えた。
時計を見ると、朝の7時を少し過ぎていた。
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朝食の香りが漂う台所に降りると、
テーブルには焼きたてのトーストの乗った皿が並んでいた。
弟が一枚を手に取りながら、こちらを見上げる。
「にぃちゃん、夜中うるさかったぞ。寝言でなんか叫んでたし」
「……マジで? 何言ってた?」
俺も席に着き、皿のトーストをちぎって口に運ぶ。
「なんか外国語っぽかった。“ランナー”とか“フィアー”とか? 怖かったわ」
「えっ……俺、怖くね? 英語喋れないし……」
そこへ、エプロン姿の母が湯気の立つスープを運んできた。
「それ、もしかして前世の記憶とかじゃない? この前テレビで見んだよね〜。前世の出来事を夢に見る人もいるってー」
「まーた変なこと言って……母ちゃんスピリチュアル好きすぎだろ〜」
「でも本当にそうだったらロマンあるじゃない?」
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「はいはい、はいはい」
苦笑しながら残りのトーストを飲み込み、時計を見る。
「やばっ!もうこんな時間!行ってくる!」
「ちょっと!スマホ忘れてるわよ!」
「うわっ、あぶね!ありがと母ちゃん!」
「いってらっしゃーい」
母の声を背に、慌てて家を飛び出した。
冬の朝の冷たい空気が、さっきまでの夢の熱をようやく冷ましてくれるようだった。
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通学路には白い息が浮かび、遠くの校舎からはチャイムの音が聞こえる。
急ぎ足で校門をくぐると、いつものように友達が手を振ってきた。
「おーす遥! またギリじゃん」
「やべー、今朝ほんと時間なかったんだよ」
笑いながら教室に滑り込み、席に着く。
一時間目が終わり、ノートを閉じて次の授業の準備をする。
二時間目は世界史。
先生がスクリーンに映したのは、ロンドンの古い街並みと、
その上を覆うように爆撃の炎が広がる映像だった。
その瞬間、心臓が一拍、強く跳ねた。
耳鳴りのような轟音。眩しい閃光。
画面の中の光景が――あの夢と重なる。
「……あれ……?」
教室のざわめきが遠のいていく。
喉が乾き、手のひらに冷たい汗がにじむ。
初めて見るはずなのに、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
(なんだこれ……俺、まるで知ってるみたいな……)
「おい、遥。顔、真っ青だぞ」
隣の席の友人が心配そうに覗き込んでくる。
その声を皮切りに、世界が少し傾いた。
視界の端が白く霞み、頭の奥で再び爆音が響く。
「……先生……すみません、ちょっと気分が……」
掠れた声でそう言うと、先生が慌てて頷いた。
「保健室、行ってきなさい」
席を立つ足がふらつく。
廊下に出ると、冬の冷たい空気が肌を撫でて、ようやく呼吸ができた。
けれど、胸の鼓動だけはまだ――夢の続きを打っていた。
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保健室で少し休んだものの、頭の重さは取れなかった。
先生に早退を勧められ、昼前に学校を出ることにした。
冬の風が冷たくて、吐く息が白く揺れる。
歩きながら、さっきの授業のことが何度も頭をよぎった。
ロンドンの爆撃映像――眩しい光と、あの少年の叫び。
(やっぱり……夢の中と同じだ)
胸の奥がざわめいて、落ち着かない。
あれは本当に“夢”なのか、それとも――。
(最近良くあの夢見るせいで寝不足だし…)
そんなことを考えながら歩いていると、ふと視界の端に赤い鳥居が映った。
顔を上げると、冬の光に照らされた古い神社が静かに佇んでいた。
(ここ……通学の途中にあった神社か)
何度も通っているはずなのに、今日は妙に気になった。
せっかくだし合格祈願にお参りでもしてくか…
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冬の風が冷たく、吐く息が白く揺れた。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
後編も近日中に投稿いたしますので面白く読んでいただけたら幸いです(*´∀`*)




