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【実は狐の眷属です!真白と紡の神社日誌】眷属と主神様が織りなす物語  作者: 稲荷寿司
【実は狐の眷属です真白と紡の神社日誌】        ―葵禁忌のはじまり ―【過去編】

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もう一つの誓約の一族

いつも読んでくださっている方、

そして、このお話を初めて手に取ってくださった方へ。

本当にありがとうございます。


今回から、物語の奥に眠っていた

「もう一つの誓約の一族」と、

その中で生きた一人の巫女のお話に触れていきます。


静かな時間の中に、

少しだけ切なさを含んだ章になりますが、

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

m(_ _)m。+゜*。



午後の境内には、

いつもと変わらない時間が流れていた。


けれど――

そこに立つ眷属たちの表情は、

どこか硬い。


縁の説明が、ひととおり終わったあと。


真白

「……そんな……」


ぽつりと零れたその声は、

風よりも小さく、

それでいて、はっきりと震えていた。


真白

「紡と……蒼さんが……」



静音は、少し考えるように視線を落としてから、

真白へと向き直った。


静音

「……真白様。

 以前、葵兄様とお会いになったことは、

 覚えていらっしゃいますか?」



真白は、しばし考えるように首を傾げる。


真白

「……随分と昔のことですから。

 正直なところ、はっきりとは覚えていませんが……」



その答えに、

静音は小さく頷いた。


静音

「兄様が言うには……

 当時は、気にも留めなかった真白様の“権能”が、

 今になって、どうしても必要になったのだと」



一瞬、言葉を選ぶように間を置き、

静音は静かに問いかける。


静音

「そのようなお話を、

 その時……なさってはいませんでしたか?」



真白

「その時は……確か、

 縁様と初めて合同会合に参加した折だったと思います」



少し思い出すように視線を上へ向け、

真白はゆっくりと言葉を続けた。


真白

「その場でお話ししたのは、

 人の子の“穢れ”を祓う僕の権能について、

 ほんの少しだけだったはずです。


 具体的には――

 主に“心の穢れ”を対象としている、ということを」



そこで一度、言葉を切り、

小さく首を傾げる。


真白

「……そういえば、

 “穢れきって悪鬼と化した者であっても、浄化することは可能なのか”

 そのようなことを、尋ねられた気がします」



静かな声で、はっきりと。


真白

「その時は、

 悪鬼になるほどまで穢れてしまえば、

 もはや浄化は不可能だと――

 そう、お答えしました」



そして、申し訳なさそうに微笑み、


真白

「すみません……

 覚えているのは、その程度ですね……

縁様はなにか覚えてらっしゃいますか?」



「かなり昔だよね……うーん、ごめん思い出せないや……でも静音は、思いあたる事があるみたいだね……聞かせてくれる?」



静音

「長い話になります……もう八十五年程前――」




――八十五年前



龍神神社には、後に「最後」と呼ばれることになる一人の巫女がいた。


その巫女は、焔神社の大和と同じく主神である龍神様と誓約を交わした一族の血を引く者であり、

長く続いたその系譜の、最後の一人でもあった。



しずく

「葵様、本日も共にお勤めいただきありがとうございます!」



葵に元気に挨拶をする少女は、

神具を片付けながら葵との話に夢中になり、

いつの間にか手元が止まっていた。


そこへ――



静音

「ふふっ。

 雫は兄様とのお話に夢中で、

 手が止まっていますよ。

 それでは、いつになっても終わりません」



「えっ!

 ご、ごめんなさい!」



「大丈夫だよ、雫。

 片付けなら僕が進めているから」



「ほとんど葵様に片付けさせてしまってました……

 巫女として、あるまじき失態……くっ!」



静音

「まったく、兄様も雫に甘すぎます。

 毎度の光景すぎて、怒りも湧いてきませんよ」



その言葉とは裏腹に、

葵と雫の仲の良さに、

静音はふっと、穏やかな笑みをこぼしていた。



静音にとっても雫は、

代々続く誓約の一族の巫女であると同時に、

幼い頃から見守ってきた、

妹のように大切な存在でもあった。



人々の祈りが、まだ確かにこの地へと届いていた頃。


葵と龍神神社の巫女雫は、穏やかな日々を重ねる中で、 互いの存在を当たり前のように隣に感じるようになっていった。



その時間が、

二度と戻らないものになるとは、

まだ誰も知らなかった。




――現在



静音

「葵兄様は雫を一人の娘として想っていたのでしょう……そして雫もまた葵兄様を心から好いていました。」



大和

「驚きました……

 焔神社の他にも、誓約の一族がいたとは……」



真白

「大和さん。

 今、眷属たちが守っている神社は、

 もともと誓約の一族の者たちが

 守ってくれていたお社になります……」



大和

「えっ……

 それじゃあ、なぜ眷属の皆様だけに――」



そこまで言って、

大和ははっと息を呑んだ。


ある可能性が、

脳裏をよぎる。


大和

「八十五年前と言えば……

 戦争……」



真白

「その通りです。

 大戦の影響で、

 終戦の頃には、

 ほとんどの誓約の一族は

 途絶えてしまいました……」



「もちろん、

 他の理由で途絶えたお社もありますが、

 大半は、そちらの理由ですね」



火の童子

「大和の一族はな、

 炎神様の計らいで疎開したんや」



「大事なんは人の子や!

 社や本殿は、

 後で幾らでも建て直せるやろが!

 ――言うてな」



「せやから、

 今も続いとる……」



大和

「炎神様のおかげで、

 僕の一族は続いているんですね……

 でも、じゃあ……

 他の主神様達は?」



火の童子

「もちろん、

 他の主神様達も、

 炎神様と同じ考えやったんや」



「でもな……

 途絶えた誓約の一族が

 守っとった土地はな、

 被害の集中した場所の者たちばかりや……」



大和

「それが……

 疎開しないことに、

 関係があるのですか?」



真白

「大いにあります」



「被害が集中するということは、

 家を失い、

 傷つき、

 苦しむ人が、

 毎日、数え切れないほど

 いらっしゃったということです」



「誓約の一族の皆さんは、

 そんな人々のために、

 お社で救済する道を

 選びました」



大和

「そんな……!

 じゃあ、なぜ僕の一族は?!

 救済よりも、

 自分達の命を

 優先したのですか?!」



火の童子

「それは違うで、大和!」



「そもそも焔神社はな、

 もともと違う土地に

 あったんや」



「大戦のあとに、

 今の場所へ

 社が移されたんや……」



静音

「火の童子様の

 おっしゃる通りです」



「当時の焔神社は、

 被害の少ない地域にありました」



「それに、

 大和さんの一族の方達は、

 救済の手伝いに

 駆けつけてくれていましたよ」



火の童子

「大和……

 お前の曾祖父様や大叔父、

 他にも数人な」



「救済の手伝いに、

 あたいらと

 駆けずり回っとった」



「……その代わり、

 二度と帰れんかったけどな」



「守ってやれなくて……

 すまんのう……」



大和は、はっとした。


幼い頃、

祖父に一度だけ

聞かされたことがある。


曾祖父と大叔父それに他の親族数名が、

戦火に巻き込まれて

亡くなってしまった――

という話を。



大和

「ごめん、火の童子父さんから聞いたのに驚いて責めるようなこと言っちゃって……」



火の童子

「大和……謝らんでえぇ

誰も悪い事ない。」



大和

「……」



大和は、素直にうんと頷くことができなかった。

自分の一族が、命欲しさに救済よりも疎開を選んだのだと――

そう、勝手に決めつけてしまったこと。



そして何より、

本当は聞いていたはずの「戦火で命を落とした一族」が、

火の童子にとっては“守れなかった者たち”だったのだと、

今になってようやく気づいたこと。



自分の言葉が、

火の童子の中にある“戻れない時間”を

叩き起こしてしまったのではないか――



そう思った瞬間、

胸の奥に、激しい後悔がひりつくように広がった。



火の童子は、

俯いたままの大和の表情をひと目だけ確かめてから、

この場の空気を切り替えるように、

静音へと声を向けた。



火の童子

「すまんのう、静音。

 話の途中やったな。

 続き、聞かせてくれるか?」



静音は、小さく頷くとほんの僅かに息を吸った。


その呼吸ひとつが、

これから語られるものの重さを

先に告げてしまったようで――


その場にいた全員が、ただ黙って次の言葉を待った。



やがて――

静音の声が、落ちるように響く。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


「もう一つの誓約の一族 ― 最後の巫女・雫」

その名の通り、

この章は“過去に確かに存在していたもの”のお話です。


そして次回から、

静音の口から語られる

さらに深い真実へと進んでいきます。


よろしければ、

これからも眷属たちの物語を

見守っていただけたら幸いです。(人´∀`)☆

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