おはようございます!と拳骨
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
(*´∀`)
どうぞ、最後までお付き合いください。
――前日神無月の朝。
境内には、澄んだ冷たい空気が満ちていた。
主神様と菖蒲は、出雲大社へ向かう支度を整え、
御神木の前に立っていた。
毎年のことのはずなのに、
胸の奥に、言い知れぬ不安が影を落としていた。
見送りに集まったのは、
真白、縁、優羽、そして紡。
主神様
「このような時期にこの地を離れること、心苦しい思いです……」
縁
「大丈夫です主神様、不在の間僕たちや焔の眷属、龍神眷属の皆とも協力体勢は整っております、だから安心して出雲の会議にご出席ください。」
真白
「主神様、縁様のおっしゃる通りです。豊穣神様の加護の地は僕たちで守護してみせますから。」
優羽
「そうですよー!主神様!!何も心配せずに、行ってください!」
菖蒲
「優羽!主神様に失礼ですよ!もっと行儀よくなさい!いつまでも落ち着きのないことではいけません!」
主神様
「ふふっ…まぁ菖蒲よいではないですか、私は優羽の天真爛漫な所は好きですよ。」
優羽
「さっすが主神様ー!私も主神様の事は大好きですー!!」
紡
「ぼ、僕も大好きです!主神様!」
主神様
「おや…もちろん紡の事も好きですよ、しかし紡立派に成長していますね。」
紡
「は、はい!真白様と縁様に色々教えていただいているおかげです!だから僕もこの豊穣の地を皆の一員として守護してみせます!」
主神様
「それは、とても頼もしいですね、期待していますよ」
そう言って主神様は優しく微笑み優羽と紡の頭を撫で、それから順番に縁と真白の頭も撫でた。
その光景を羨ましそうに見ていた菖蒲の頭を最後に撫でると、
「では行きましょうか」と御神木に移動の陣を展開し始めた。
去り際に、菖蒲は優羽に向かって言った。
菖蒲
「優羽。あなたのその天真爛漫なところは、確かに良いことです。
ですが時には、落ち着いて周囲を見渡すことも大切。
でなければ、足元をすくわれてしまうことになりかねません。
どうか――大切な私の妹よ。
大きな怪我をせぬよう、気をつけなさい。」
優羽
「菖蒲姉様…はい!お言葉肝に銘じておきます!」
主神様
「さぁ菖蒲道は繋がりました、参りましょう。」
菖蒲
「はっ!主神様」
真白
「主神様行ってらっしゃいませ。」
縁、優羽、紡も続けて
「「「行ってらっしゃいませ!」」」
四名は深々と頭を下げ主神様と菖蒲の気配がなくなるまで頭を垂れたまま見送った。
御神木に現れた光の扉を開き、
主神様と菖蒲は、光の向こう――
八百万の神々が集いし出雲の国へと消えていった。
そして…
――現在
大和
「蒼と紡様が…」
静音は後から合流してきた大和に今起きた出来事を説明しながら優羽の治療にあたっていた。
縁
「静音、ごめんね…僕は何も出来ずに足を引っ張ってしまったね…」
落ち込む縁に静音が声をかけようとするよりも早く、火の童子の拳が縁の頭に炸裂した。
縁
「っ!痛ったぁー!ちょ、火の童子なにするの!」
火の童子
「アホか!
今はそんな反省いらんねん。
後悔しとる場合やない!
これから、どうやって蒼と紡を助けるか――
それが先やろ!
反省も後悔も、
全部終わってから好きなだけやれ!
……静音もや!
わかったな!」
静音は流れ落ちる涙を拭いながら、火の童子に頷いて応えた。
火の童子
「ほんで、なんで肝心な時にまた優羽は倒れとんねん?中々目が覚めんのもこの前と同じやないか?」
静音
「……それは……」
そう答えようとした声は、
途中で震え、掠れて消えた。
唇を噛みしめても、
涙だけは止まらなかった。
火の童子
「静音はいったん落ち着かんと話にならん!
縁や、真白のあの飴玉ないんか?!」
火の童子は苛立ったように腕を組み、
小さく息を吐いた。
縁
「えっ、あ……あるよ!あります!」
慌てて小さなカバンを探り、
琥珀糖を取り出して静音に差し出す。
静音
「こ、これはっ…ひっぐ、なんで…すっ」
涙と嗚咽が止まらない静音に、
火の童子は縁の掌から琥珀糖を奪うと、
半ば強引に静音の口に放り込んだ。
火の童子
「はよーなめろ!泣いてる暇もないねん!」
静音はもごもごと口を動かしながら、
こくこくと何度も頷く。
必死に琥珀糖を舐めることだけに意識を向けると――
やがて、
上品な甘さが舌の上に広がり、
荒れていた呼吸が、少しずつ整っていく。
強張っていた肩の力が抜け、
胸の奥で絡まっていた焦りが、
ゆっくりとほどけていった。
静音
「美味しいです……
それに……凄く、落ち着いてきました……」
静音の呼吸が少しずつ整っていくのを見て、
火の童子は小さく頷いた。
火の童子
「……流石やな。真白の飴玉は」
縁
「まぁ、激怒状態の火の童子が落ち着くくらいだからね……」
縁は苦笑まじりにそう言って、
何度か小さく頷いた。
静音
「えっ……あの状態の火の童子様が、
この飴で……?」
静音は思わず目を見開き、
火の童子と縁を、交互に見比べ、
琥珀糖を口に含んだまま、
小さく瞬きをした。
気づけば、
涙も震えも、いつの間にか収まっている。
静音は静かに息を整え、
ここにはいない真白の姿を思い浮かべながら、
そっと胸の内で感謝した。
静音
「申し訳ございませんでした。
火の童子様の言う通り、
今は後悔も、謝罪も、涙も――
流している場合ではありませんね」
火の童子
「全部終わったら皆で反省会や!
ほんで静音、優羽はどうなっとん?」
静音は答えながら、
優羽の額にそっと手を添え、
静かに神気を巡らせる。
静音
「はい……。
恐らく、この場所に入り込んだ時点で、
葵兄様の術が発動するよう、
あらかじめ仕組まれていたのだと思います。
龍神の中には、幻術に長けた者もおりますが……
兄様は、その中でも随一の使い手でした。
そして今、優羽さんがなかなか目覚めないのも、
術式があまりにも複雑で、
解除できない状態にあるためです……」
大和は、優羽のほうを見つめたまま、
落ち着かない様子で、思わず掌を握りしめた。
その表情には、
不安と焦りが、言葉にできないまま浮かんでいた。
大和
「そんな……!
それじゃ、優羽さんはもう、
目を覚まさないのですか……?!」
その声に、静音はふっと顔を上げる。
そして大和をまっすぐに見つめ、
落ち着かせるように、
小さく、ゆっくりと首を横に振った。
静音
「……いえ。
私は、兄様の術式はおおよそ覚えています。
ですから――もう、解けます……」
静音は、小さく息を整えると、
優羽へと意識を向けた。
そして、静かに神気を巡らせる。
「――目覚めの雨よ」
その囁きとともに、
場の空気が、わずかに揺らいだ。
やがて――
優羽のまつ毛が、かすかに震え、
その瞳が、ゆっくりと開かれていく。
次の瞬間、
優羽はぱっと上体を起こし、
何事もなかったかのように、
いつもの調子で声を張り上げた。
優羽
「はっ!おはようございます!」
その場にいた全員が、
思わず耳を塞ぎ、顔をしかめる。
だが――
火の童子だけは、
こらえきれない様子で眉をひそめ、
火の童子
「うっさいねん!あほー!
もう昼過ぎや!」
そう言って、
反射的に優羽の頭へ拳骨を落としたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお付き合いいただけましたら幸いです。
(*´∀`*)




