表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【実は狐の眷属です!真白と紡の神社日誌】眷属と主神様が織りなす物語  作者: 稲荷寿司
【実は狐の眷属です真白と紡の神社日誌】        ―神無月/合同任務―【偵察編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/100

哀しみを選んだ兄と、優しさを捨てきれない妹

今回もお読みいただき、ありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ幸いです(*´∀`*)







三階へと続く扉の前――

階段の中腹で、静音しずねは葵と向かい合っていた。


静音

「兄様! えにし様と優羽ゆうはさんを術から解放してください!」


静音の言葉に肩をすくめながら、

葵は階段を降りてくる。


「ダメに決まってるだろ。

それに、その二人がいたら、ゆっくりお前と話ができないじゃないか」


静音

「何を今さら! 私には話すことなど!」


「静音にはなくても、私にはあるんだよね。

昔さ、一度だけ会ったことがある狐の眷属の子を、連れてきてほしいんだよ」


静音

「狐の眷属の子……?

狐の眷属は多数おりますゆえ、どの子のことか分かりませんね!」


静音は葵の隙を見て、水の壁で葵を閉じ込める。


それは、静音自身の神気で編まれた拘束の術――

水でできた“箱”が、葵を閉じ込めた。


「はぁ……そんなことをしたって無駄だって分かってるだろ?

神気の無駄遣いはやめな……」


葵は同じ水の力で壁を打ち破ろうとしたが、

自分の水の力が、壁に吸収されていく。


「へぇ……驚いたね。

僕の知らない術式の壁か……これは……少しまずいかも」


静音

「私は、兄様を捕まえる日をずっと待ちわびていました。

あの日――

自分が兄への尊敬の念を捨てきれなかったがために、

あなたを逃してしまったことを、

ずっと悔やんでおりましたから!」


「そんなに怒らないでおくれよ。

私だって今でも、静音と澪斗はとても可愛い妹と弟だよ」


そう優しい微笑みを静音に向けた葵は、

もう一度、水の壁を打ち破ろうと自分の水の力で抗ってみた。


「うーん、ダメだ。びくともしないや。

まあいいや。どうせ静音と、少し長い話をしようかと思ってたし」


静音

「だから! 私にはあなたと話すことなど――」


静音が葵との話を終わらせようと声を上げた、その時――


葵は不気味な微笑みとともに、縁へと視線を移す。


次の瞬間、

葵の神気に呼応するように水が集まり、

縁の頭部を覆う“水の球体”が形成された。


「ねぇ、そこのお前の大事なお友達、苦しそうじゃない?」


静音ははっとして縁に視線を向ける。

縁の頭部は水に包まれ、酸素を奪われて苦しそうにもがいていた。


静音

「縁様! なんてことを!

今すぐやめてください!」


静音の必死の形相を嘲笑うように、

葵はからかうような軽い調子で応える。


「うーん、どうしようかな。

お前が話を聞いてくれるなら、やめてあげてもいいけど?」


その間にも、もがいていた縁の動きが、少しずつ静かになっていく。


静音

「縁様!!

分かりました、聞きます!

聞きますから、やめてください、葵兄様!」


そう叫ぶのと同時に、縁の頭部から水がすべて流れ落ちる。


縁は激しく咳き込み、胸いっぱいに酸素を吸い込んだ。


静音は縁に駆け寄り、声をかける。


静音

「縁様!」


「ゲボッ……ゴホッ……ッ、ごめ……静音……」


肩で息をしながらそう呟くと、縁は気を失ってしまった。


静音

「っ……縁様……良かった……本当に……」


静音は強い抗議の視線を葵に向け、怒りに震える声で聞く。


静音

「それで、お話とはなんですか!」


「だからさ、狐の眷属にいる白い子、いるだろ?

その子を連れてきてほしいんだよね。

昔、一度だけ会ったことがある……えーっと……

確か……真白とかだった気がするんだけど……」


静音

「真白さん?

なぜ、真白さんに会いたいのですか?」


「それは、今の私に必要だからだよ。


あの子の力は、実に素晴らしい。

昔に会ったときは、取るに足らない権能だと思っていたけれど……


今にして思えば、

あれこそが――

いちばん、私が求めていた力だったというだけさ」


静音

「いったい何を……

真白様の権能で、何をなさるおつもりなのですか!?」


「あの白い狐の子の権能は、

人の子や眷属どもの心や体の穢れを祓い、浄める能力だ。

その力が、どうしても必要なだけだよ」


静音

「浄めの力を、今さら求めて何に……」


静音は葵の言葉を聞いて、何かを思い出したように――


静音

「まさか……兄様は、まだあの者と一緒に――」


そう言いながら、葵へと視線を向ける。


そこには、哀しげな表情で微笑む、

かつての優しい兄の姿があった。


静音は小さく息を呑み、

震える声で問いかける。


静音

「兄様……

その者は、本当に“まだ”あの子なのですか……?」


「当たり前だよ……ずっと、あの子さ。

でも最近、弱ってきちゃってね。

だから、あの狐の子の力が必要なわけ」


静音

「だからといって、はいそうですかと連れてくるわけないでしょう!

お断りします!

それに、あなたは今日、ここで拘束されるのですから!」


そう言うと静音は、

葵を閉じ込めた水の箱を龍神神社へ転送するべく、


階段に立つ葵の足元へ、五芒星陣を展開する。


陣のあった場所は、湖面のように波立ち、

葵を沈めていく。


「いいね!

久しぶりの龍神の地!

それに、澪斗も頼もしく成長しているだろうから、

会うのが楽しみだ!」


静音はその言葉に一瞬戸惑い、動きを止める。


その隙を待っていたかのように、

葵は水の壁に、己のありったけの神気を流し込んだ。


静音

(しまっ――!)


そう思う間もなく、

拘束していた水の壁は流れ落ち、


足元に広がった水面へと吸収され、

跡形もなく消え失せた。


悔しげな視線を投げかけてくる静音に、


葵は優しい声色で告げる。


「相変わらず、お前は優しすぎるね。

だから、お前はだめなんだよ……それに――


静音。

選べる立場じゃないんだよ?


あの狐の子を連れてくるんだ。

さもなくば、

そこで固まってる小娘と、

お前の古い友は――

ここで溺れ死ぬことになるよ」


そう言いながら葵は、

自らの術で水を操り、


縁と優羽を、それぞれ水の球体の中へ閉じ込めた。


静音

「兄様! なんてことを!

やめてください!」


「じゃあ、早く連れてきなよ」


球体の中で、縁と優羽は苦しそうにもがいている。


静音の頬を涙が伝い、

叫ぶように訴える。


静音

「そんな……!

すぐには無理です!」


静音は必死に訴えたが、

葵は術を解く気配もなく、

無表情のまま静音を見つめていた。


その間にも、

水の球体の中で縁と優羽がもがく。


その姿を見ていられず、

静音は堪らず叫んだ。


「やめてください!

兄様!

分かりました!

連れてきます!

連れてきま――」


泣き叫ぶように懇願するその声に、

懐かしいかつての友の声が重なる。


火の童子かのこどうじ

「連れてこんでええ!」


「優羽の方は、蒼が燃やす!」


火の童子と蒼の炎が、

縁と優羽の水の球体を包み込む。


次の瞬間、

水は一気に蒸発し、

二人は地面へと崩れ落ちた。


「優羽さん!

縁様!

大丈夫ですか!?」


静音

(火の童子様……それに……豊穣の)


火の童子

「静音、ぼーっとすんなや!

まだ終わってへんで!」


「また邪魔するか……年寄りが、

お前の炎なんぞ、消してくれる!」


そう言いながら葵は、

火の童子めがけて水の渦を打ち付ける。


火の童子

「おーおー、葵よ!

生意気な小僧になったもんやな!

消せるもんなら、やってみぃ!」


その水を押し返すように、

火の童子も炎をぶつける。


火の童子

「静音!

あたいがあのバカを抑えとる間に、

縁を叩き起こして、拘束の陣を張るんや!」


静音

「は、はい!

え、縁様、起きてください!」


静音は治癒の術で縁を回復させ、目覚めさせた。


「……っは!

静音……僕は……

って、えっ!?

どういうこと!?

えっ、火の童子!?」


火の童子

「縁!

ごちゃごちゃ言っとる暇はないねん!

あのバカを拘束するんや!」


「わっ、了解!

静音! 一緒に!」


静音

「はい!」


静音と縁が、

同時に術式を組み上げようとした――


その瞬間――

二人の視界の端で、


「葵サマ! サセナイ!!」


「悪鬼!?

ちょっ……優羽さん、起きてください!

ピンチです!!」


紡は必死に優羽を揺するが、

優羽から反応は返ってこない。


そうこうしているうちに、

悪鬼が火の童子へと突進してきた。


「! 火の童子! 危ない!」


蒼が突進してきた悪鬼と激突する。


その衝撃で、

悪鬼も蒼も吹き飛ばされ、

蒼は紡の元へと転がり落ちた。


「蒼さん!

大丈夫ですか!?」


慌てて蒼に駆け寄る。


「……紡。

蒼は、大丈夫……」


「はっ……穢れが!

蒼さん、少し我慢してください!」


そう言いながら、

紡は蒼の穢れを祓い、浄めた。


「ありがとう……紡」


だが、その光景を葵は見逃さなかった。


火の童子と力を拮抗させながら、

一瞬で判断する。


そして術を一気に解き、

悪鬼たちへ命じた。


「悪鬼たちよ!

私の願いだ!

そこの小僧と、青い焔を連れていけ!」


言い終わる前に、

無数の悪鬼たちが闇の中から溢れ出し、

蒼と紡に一斉に絡みつく。


次の瞬間、

蒼と紡は苦しげな表情を残したまま、

闇の向こうの空間へと引きずり込まれ――


跡形もなく、消え失せてしまった。


火の童子

「なんでや!

蒼! 紡!」


「えっ!?

紡くん!?」


静音

「……えっ……なんで……」


「静音!

混乱してる場合じゃない!

まずは、葵くんを拘束するよ!」


「もうお前たちに用はない。

欲しいものは――

手に入った」


そう言い残し、

葵は鉄の扉の向こうへと姿を消した。


火の童子

「ふざけんな!

逃さへんで!」


後を追い、

扉を溶かそうと炎を放つが――


結界のような陣が現れ、

炎を弾き返した。


火の童子

「葵……!!

逃げんな!!

蒼を返せぇぇ!!」


残された空間には、

火の童子の叫びだけが、

虚しく響いていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


続きもお付き合いいただけたら幸いです。

次回もよろしくお願いします。(人´∀`)☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ