哀しみを選んだ兄と、優しさを捨てきれない妹
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最後までお付き合いいただければ幸いです(*´∀`*)
三階へと続く扉の前――
階段の中腹で、静音は葵と向かい合っていた。
静音
「兄様! 縁様と優羽さんを術から解放してください!」
静音の言葉に肩をすくめながら、
葵は階段を降りてくる。
葵
「ダメに決まってるだろ。
それに、その二人がいたら、ゆっくりお前と話ができないじゃないか」
静音
「何を今さら! 私には話すことなど!」
葵
「静音にはなくても、私にはあるんだよね。
昔さ、一度だけ会ったことがある狐の眷属の子を、連れてきてほしいんだよ」
静音
「狐の眷属の子……?
狐の眷属は多数おりますゆえ、どの子のことか分かりませんね!」
静音は葵の隙を見て、水の壁で葵を閉じ込める。
それは、静音自身の神気で編まれた拘束の術――
水でできた“箱”が、葵を閉じ込めた。
葵
「はぁ……そんなことをしたって無駄だって分かってるだろ?
神気の無駄遣いはやめな……」
葵は同じ水の力で壁を打ち破ろうとしたが、
自分の水の力が、壁に吸収されていく。
葵
「へぇ……驚いたね。
僕の知らない術式の壁か……これは……少しまずいかも」
静音
「私は、兄様を捕まえる日をずっと待ちわびていました。
あの日――
自分が兄への尊敬の念を捨てきれなかったがために、
あなたを逃してしまったことを、
ずっと悔やんでおりましたから!」
葵
「そんなに怒らないでおくれよ。
私だって今でも、静音と澪斗はとても可愛い妹と弟だよ」
そう優しい微笑みを静音に向けた葵は、
もう一度、水の壁を打ち破ろうと自分の水の力で抗ってみた。
葵
「うーん、ダメだ。びくともしないや。
まあいいや。どうせ静音と、少し長い話をしようかと思ってたし」
静音
「だから! 私にはあなたと話すことなど――」
静音が葵との話を終わらせようと声を上げた、その時――
葵は不気味な微笑みとともに、縁へと視線を移す。
次の瞬間、
葵の神気に呼応するように水が集まり、
縁の頭部を覆う“水の球体”が形成された。
葵
「ねぇ、そこのお前の大事なお友達、苦しそうじゃない?」
静音ははっとして縁に視線を向ける。
縁の頭部は水に包まれ、酸素を奪われて苦しそうにもがいていた。
静音
「縁様! なんてことを!
今すぐやめてください!」
静音の必死の形相を嘲笑うように、
葵はからかうような軽い調子で応える。
葵
「うーん、どうしようかな。
お前が話を聞いてくれるなら、やめてあげてもいいけど?」
その間にも、もがいていた縁の動きが、少しずつ静かになっていく。
静音
「縁様!!
分かりました、聞きます!
聞きますから、やめてください、葵兄様!」
そう叫ぶのと同時に、縁の頭部から水がすべて流れ落ちる。
縁は激しく咳き込み、胸いっぱいに酸素を吸い込んだ。
静音は縁に駆け寄り、声をかける。
静音
「縁様!」
縁
「ゲボッ……ゴホッ……ッ、ごめ……静音……」
肩で息をしながらそう呟くと、縁は気を失ってしまった。
静音
「っ……縁様……良かった……本当に……」
静音は強い抗議の視線を葵に向け、怒りに震える声で聞く。
静音
「それで、お話とはなんですか!」
葵
「だからさ、狐の眷属にいる白い子、いるだろ?
その子を連れてきてほしいんだよね。
昔、一度だけ会ったことがある……えーっと……
確か……真白とかだった気がするんだけど……」
静音
「真白さん?
なぜ、真白さんに会いたいのですか?」
葵
「それは、今の私に必要だからだよ。
あの子の力は、実に素晴らしい。
昔に会ったときは、取るに足らない権能だと思っていたけれど……
今にして思えば、
あれこそが――
いちばん、私が求めていた力だったというだけさ」
静音
「いったい何を……
真白様の権能で、何をなさるおつもりなのですか!?」
葵
「あの白い狐の子の権能は、
人の子や眷属どもの心や体の穢れを祓い、浄める能力だ。
その力が、どうしても必要なだけだよ」
静音
「浄めの力を、今さら求めて何に……」
静音は葵の言葉を聞いて、何かを思い出したように――
静音
「まさか……兄様は、まだあの者と一緒に――」
そう言いながら、葵へと視線を向ける。
そこには、哀しげな表情で微笑む、
かつての優しい兄の姿があった。
静音は小さく息を呑み、
震える声で問いかける。
静音
「兄様……
その者は、本当に“まだ”あの子なのですか……?」
葵
「当たり前だよ……ずっと、あの子さ。
でも最近、弱ってきちゃってね。
だから、あの狐の子の力が必要なわけ」
静音
「だからといって、はいそうですかと連れてくるわけないでしょう!
お断りします!
それに、あなたは今日、ここで拘束されるのですから!」
そう言うと静音は、
葵を閉じ込めた水の箱を龍神神社へ転送するべく、
階段に立つ葵の足元へ、五芒星陣を展開する。
陣のあった場所は、湖面のように波立ち、
葵を沈めていく。
葵
「いいね!
久しぶりの龍神の地!
それに、澪斗も頼もしく成長しているだろうから、
会うのが楽しみだ!」
静音はその言葉に一瞬戸惑い、動きを止める。
その隙を待っていたかのように、
葵は水の壁に、己のありったけの神気を流し込んだ。
静音
(しまっ――!)
そう思う間もなく、
拘束していた水の壁は流れ落ち、
足元に広がった水面へと吸収され、
跡形もなく消え失せた。
悔しげな視線を投げかけてくる静音に、
葵は優しい声色で告げる。
葵
「相変わらず、お前は優しすぎるね。
だから、お前はだめなんだよ……それに――
静音。
選べる立場じゃないんだよ?
あの狐の子を連れてくるんだ。
さもなくば、
そこで固まってる小娘と、
お前の古い友は――
ここで溺れ死ぬことになるよ」
そう言いながら葵は、
自らの術で水を操り、
縁と優羽を、それぞれ水の球体の中へ閉じ込めた。
静音
「兄様! なんてことを!
やめてください!」
葵
「じゃあ、早く連れてきなよ」
球体の中で、縁と優羽は苦しそうにもがいている。
静音の頬を涙が伝い、
叫ぶように訴える。
静音
「そんな……!
すぐには無理です!」
静音は必死に訴えたが、
葵は術を解く気配もなく、
無表情のまま静音を見つめていた。
その間にも、
水の球体の中で縁と優羽がもがく。
その姿を見ていられず、
静音は堪らず叫んだ。
「やめてください!
兄様!
分かりました!
連れてきます!
連れてきま――」
泣き叫ぶように懇願するその声に、
懐かしいかつての友の声が重なる。
火の童子
「連れてこんでええ!」
蒼
「優羽の方は、蒼が燃やす!」
火の童子と蒼の炎が、
縁と優羽の水の球体を包み込む。
次の瞬間、
水は一気に蒸発し、
二人は地面へと崩れ落ちた。
紡
「優羽さん!
縁様!
大丈夫ですか!?」
静音
(火の童子様……それに……豊穣の)
火の童子
「静音、ぼーっとすんなや!
まだ終わってへんで!」
葵
「また邪魔するか……年寄りが、
お前の炎なんぞ、消してくれる!」
そう言いながら葵は、
火の童子めがけて水の渦を打ち付ける。
火の童子
「おーおー、葵よ!
生意気な小僧になったもんやな!
消せるもんなら、やってみぃ!」
その水を押し返すように、
火の童子も炎をぶつける。
火の童子
「静音!
あたいがあのバカを抑えとる間に、
縁を叩き起こして、拘束の陣を張るんや!」
静音
「は、はい!
え、縁様、起きてください!」
静音は治癒の術で縁を回復させ、目覚めさせた。
縁
「……っは!
静音……僕は……
って、えっ!?
どういうこと!?
えっ、火の童子!?」
火の童子
「縁!
ごちゃごちゃ言っとる暇はないねん!
あのバカを拘束するんや!」
縁
「わっ、了解!
静音! 一緒に!」
静音
「はい!」
静音と縁が、
同時に術式を組み上げようとした――
その瞬間――
二人の視界の端で、
「葵サマ! サセナイ!!」
紡
「悪鬼!?
ちょっ……優羽さん、起きてください!
ピンチです!!」
紡は必死に優羽を揺するが、
優羽から反応は返ってこない。
そうこうしているうちに、
悪鬼が火の童子へと突進してきた。
蒼
「! 火の童子! 危ない!」
蒼が突進してきた悪鬼と激突する。
その衝撃で、
悪鬼も蒼も吹き飛ばされ、
蒼は紡の元へと転がり落ちた。
紡
「蒼さん!
大丈夫ですか!?」
慌てて蒼に駆け寄る。
蒼
「……紡。
蒼は、大丈夫……」
紡
「はっ……穢れが!
蒼さん、少し我慢してください!」
そう言いながら、
紡は蒼の穢れを祓い、浄めた。
蒼
「ありがとう……紡」
だが、その光景を葵は見逃さなかった。
火の童子と力を拮抗させながら、
一瞬で判断する。
そして術を一気に解き、
悪鬼たちへ命じた。
葵
「悪鬼たちよ!
私の願いだ!
そこの小僧と、青い焔を連れていけ!」
言い終わる前に、
無数の悪鬼たちが闇の中から溢れ出し、
蒼と紡に一斉に絡みつく。
次の瞬間、
蒼と紡は苦しげな表情を残したまま、
闇の向こうの空間へと引きずり込まれ――
跡形もなく、消え失せてしまった。
火の童子
「なんでや!
蒼! 紡!」
縁
「えっ!?
紡くん!?」
静音
「……えっ……なんで……」
縁
「静音!
混乱してる場合じゃない!
まずは、葵くんを拘束するよ!」
葵
「もうお前たちに用はない。
欲しいものは――
手に入った」
そう言い残し、
葵は鉄の扉の向こうへと姿を消した。
火の童子
「ふざけんな!
逃さへんで!」
後を追い、
扉を溶かそうと炎を放つが――
結界のような陣が現れ、
炎を弾き返した。
火の童子
「葵……!!
逃げんな!!
蒼を返せぇぇ!!」
残された空間には、
火の童子の叫びだけが、
虚しく響いていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
続きもお付き合いいただけたら幸いです。
次回もよろしくお願いします。(人´∀`)☆




