過去は、階段の上にいた
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、少し穏やかな日常から始まり、
物語が静かに不穏な方向へと動き出す回となっています。(人´∀`).☆.。.:*・゜
どうぞ最後まで、お付き合いいただけましたら幸いです。
優羽の登場によって、
境内は再び、賑やかな朝の空気に戻っていた。
縁、優羽、静音の三人は、
改めて本日の外任務について確認を済ませ、
商業施設へと足を運んでいた。
人の往来が多い建物内を歩きながら、
優羽は興味深そうに静音の横に並ぶ。
優羽
「澪斗に姉君がいらっしゃるとは聞いていましたけど……
まさか、こんなに聡明で素敵な方だとは思いませんでした」
そう言って、
優羽は屈託のない笑顔を向ける。
「私の姉とは、ぜんぜん違いますねっ!」
世間話のような軽い口調でそう続けながら、
縁とともに周囲を見回し、建物内を散策していく。
静音
「優羽さんのお姉様は……
どのような方なのですか?」
静音が穏やかに尋ねると、
優羽はぱっと表情を明るくして答えた。
優羽
「私の姉様はですね!
なんでも拳で語り合おうとする、
とにかく元気いっぱいの姉様です!」
少し考える素振りを見せてから、
にっと笑って付け加える。
「そうですね……
火の童子様に、近いものを感じます!」
そのまま、悪気のない調子で続ける。
優羽
「正直なところ、
澪斗の姉様と聞いていたので、
どんな嫌味でデリカシーのない方なんだろうって
思ってたんですけど……」
「実際の静音様は、
聡明で優しい方で、
あの澪斗と同じ血筋とは思えません!」
静音は一瞬きょとんとした後、
くすりと小さく笑った。
静音
「ふふっ……
我が弟は、
優羽さんにはとても心を許しているのですね」
その言葉に、
優羽は大げさに肩を揺らして首を振る。
優羽
「はぁー! そんなことないですよ!
絶対に! 毎回会うたびに嫌味のオンパレードですから。
心を許してるなら、もっと優しい言い方すると思いますよ!」
少し大げさに肩をすくめながら、
優羽は勢いよく言い切った。
静音
「そうですね……。ですが、今優羽さんからお聞きしている澪斗の様子は、
私の知らない澪斗です」
静音は少し考えるように視線を落とし、
やがて柔らかく微笑んだ。
「きっと、自分を取り繕わず、ありのままで話しているのでしょうね」
ふふっ、と小さく笑いを漏らす。
「我が弟は、とんだひねくれ小僧だったようですが」
そう言いながら、
静音はくすくすと楽しそうに笑った。
「こうして、他の眷属の方から
私の知らない澪斗の一面を聞けるのは、とても愉快ですね」
優羽
「なるほど……気を使わなくていい相手、ってことですか」
優羽は顎に指を当て、
少し考える素振りを見せる。
「確かに、私も澪斗に対しては
あんまり気を使わずに接してるかもしれませんね……」
そう言ってから、
ぱっと表情を明るくした。
「でも、今さら変えるのもなんだか変ですし!
このままで澪斗とは付き合っていこうと思います!」
優羽は弾けるような笑顔を静音に向けると、
「じゃあ、私あっちの方、見てきますねっ!」
そう告げて、
小走りにその場を離れていった。
その背中を静かに見つめながら、
静音は胸の内でそっと呟く。
静音
(縁様や真白さんの仰る通りかもしれませんね……
澪斗の周りには、助けてくれそうな友が、ちゃんといるのですね)
穏やかな安堵をにじませながら、
静音は小さく息を吐いた。
縁
「だから言ったでしょ! 心配いらないよ、って!」
その明るく弾んだ声に、
静音ははっとして振り返った。
静音
「ええ……それに、個性が強くて。
良くも悪くも、とてもパワフルでしたね」
そう言って、
どこか感心したように微笑む。
縁
「そうなんだよ!
もう、優羽くんと紡は自由すぎて大変なんだから」
縁はやれやれと肩をすくめた。
「今だってさ、
朝の打ち合わせ内容とは全然違う行動してるし……」
静音
「ですが、紡さんも優羽さんも、
元気で素直で――よろしいことだと思いますよ」
穏やかな声音でそう返す。
縁
「それはね、静音があの二人を指導したことないからだよ……」
少し身を乗り出し、
冗談めかして続けた。
「今度預けるからさ。
落ち着き、ちゃんと身につけさせてあげてよ」
静音はその言葉を聞くと、
にっこりと微笑み――
即座に、きっぱりと言い切った。
静音
「私は、指導するなら大人しい子がいいので。
申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
縁
「即答!?」
思わず声を上げる縁に、
静音は楽しそうに笑みを深めた。
そんな軽やかなやり取りを交わしながら、
二人は先に歩いていった優羽の後を追っていく。
−−−
やがて縁と静音は優羽に追いつき、
真白たちが最初に悪鬼に遭遇したという階段の前まで辿り着いていた。
薄暗い踊り場には、人の気配はない。
だが、空気だけが妙に重く、肌にまとわりつくようだった。
縁
「ここが……真白くんたちが最初に
悪鬼に遭遇した場所みたいなんだけど――」
そう言いながら、
縁は静音を振り返る。
「静音、何か感じ――」
その言葉が、
最後まで紡がれることはなかった。
――ガチャリ。
不意に、
近くの扉が開く音が響いた瞬間。
黒い何かが、弾かれたように縁めがけて放たれる。
静音
「――水の防壁!」
反射的に術式を展開する。
間一髪で、鋭い黒い棘は水の壁に吸い込まれ、
鈍い音を立てて霧散した。
静音
「縁様、大丈夫ですか!?
優羽さん、悪鬼です!」
咄嗟に二人へ声をかけた、その直後――
静音は、はっきりとした違和感に気づいた。
返事が、ない。
振り返った視界の先で、
縁と優羽は、
まるで時間が止まったかのように動かず立っている。
静音
(……縁様? 優羽さん?)
胸の奥が、
ひやりと冷えた。
「その二人は、動かないよ」
低く、
懐かしむような声が、頭上から響く。
「……久しぶりだね、静音」
静音は、
ゆっくりと視線を上げた。
その名を呼んだ懐かしい存在に、
胸の奥が、激しく揺さぶられた。
喉が、ひくりと鳴った。
かつて何度も呼んだ名。
そして――二度と、呼ぶはずのなかった名。
震えを押し殺すように、
静音は息を整え、
それでも抑えきれない感情を含んだ声で、名を口にする。
静音
「……葵兄様……」
その瞬間、
踊り場の空気が、はっきりと変質した。
水の防壁が静かに波打ち、
階段を満たしていた微かな生活音が、すっと遠のく。
ただそこにあるのは、
逃げ場のない静寂と――
再び、過去と向き合わされる瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ここから、静音の過去が少しずつ明らかになっていきます。
次回もお楽しみいただけましたら嬉しいです。
感想やブックマーク、とても励みになります。
(人´∀`)ありがとうございます♪




