夜の縁側、抹茶二つ
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
(人´∀`)☆
どうぞ、最後までお付き合いください。
皆が解散し、各々の神社へと帰った後――
夜の帳が降りた豊穣神社には、静けさが戻っていた。
境内に残るのは、
風に揺れる御神木の葉音と、
石畳を踏む足音が遠ざかっていった余韻だけ。
本殿の縁側に腰を下ろし、
縁はゆっくりと息を吐いた。
真白は抹茶の入った湯呑みを二つ、
小さなお盆に載せて運んでくると、
縁の隣に静かに腰を下ろした。
縁
「真白くん、さっきはありがとうね…」
言葉とともに、
縁はわずかに目を細め、
穏やかな笑みを浮かべた。
その声音には、
助け舟を出してくれたことへの感謝と、
少しだけ肩の力が抜けた安堵が滲んでいる。
真白
「いえ、なんだか蒼さんが
困っていらっしゃったようだったので」
そう答えながら、
真白はお盆から抹茶の湯呑みを一つ取り、
両手でそっと持ち上げて、
縁の方へ静かに差し出した。
真白
「……縁様は、
その理由をご存知なのですね」
問いかける声は柔らかいが、
その瞳には、
はっきりとした確信が宿っていた。
縁は、
その視線を受け止めるように一瞬だけ真白を見つめ、
差し出された抹茶の湯呑みへと視線を落とした。
そして、
ありがとうと小さく告げながら、
静かにそれを受け取る。
指先から伝わる温もりに、
ふっと小さく笑みを深めた。
縁
「ふふっ…真白くん、たまに鋭いよね。
そうだね……全部は話すことは出来ないんだけど、
今回の禁忌の眷属はね――」
縁から少し事情を聴いた真白は、
驚いた様子で、
真白
「正直、とても驚いています…
先程の感じでは、
澪斗さんはまだ気付いていないようでしたが…」
縁
「それは、静音の術式のおかげだろうね。
記憶封印の術に関しては、
静音以上の使い手はいないからね…」
「ただね、真白くん。
今回の件が、あの姉弟にとって
悲しい結末になってしまうんじゃないかって、
それだけが心配でね」
縁は静音と澪斗を思いながら、
哀しい笑みを浮かべた。
真白
「そうですね…
かつて自分達が尊敬していた者が闇に堕ちるなんて、
想像も出来ないほどの苦しみと辛さがあるはずですから…」
「ですが、
澪斗さんのお姉様である静音様は、
それをずっとお一人で抱えていらしたのですね…」
真白は、
静音がどんな思いで澪斗に術を施したのか、
想像するだけで胸が苦しくなる思いだった。
縁
「真白くんは、本当に優しい子だね。
でもね、真白くん。
静音はね、ある日、
僕と火の童子と外任務に出た時に、
そっと打ち明けてくれてね…」
「きっと静音も、
表面には出さなくても
辛かったんだろうね…」
真白
「きっと、
縁様と火の童子様に聞いてほしかったのでしょうね。
お二人は静音様と付き合いが長いようですし、
家族や同属に言えないことも、
お二人に吐き出すことが出来て、
自分を持ち直すことが出来たのだと思います。
それだけ、
信頼と絆があったのですね」
真白の言葉を受け、
縁はしばらく黙り込み、
静かに考えを巡らせていた。
境内を渡る夜風が、
御神木の葉を小さく鳴らす。
真白
「……縁様。
もし――
澪斗さんが、
ご自身で“気付いてしまう”日が来たとしたら……」
縁は、
すぐには答えなかった。
ただ、夜空を見上げ、
ゆっくりと言葉を選ぶ。
縁
「その時は……
誰かが、澪斗の傍にいて
支えてあげるだろうね」
真白
「……静音さん、でしょうか」
縁
「それもある。
でもね……」
縁は、
ほんの少しだけ目を細めた。
縁
「今は――
一緒に行動している紡くんや蒼くん。
それに、
僕や火の童子、静音みたいに……
任務だけじゃなく、
共に過ごす時間の中で、
自然と絆は生まれていくものだからね。
誰が澪斗くんの心の支えになるかは、
澪斗くん自身が決めることだよ。
……それに、真白くん。
君も、その一人だ」
その言葉に、
真白はわずかに目を見開いた。
真白
「……僕も、ですか?」
縁
「澪斗くんはね、
理屈っぽい子に見えるかもしれないけど、
意外と“想い”で動く子だ。
正しさだけじゃ、
受け止めきれないこともある」
縁
「そんな時、
彼の気持ちを否定せずに、
それでも道を示せる存在が必要になる」
真白は、
自分の胸に手を当て、
小さく息を吸った。
真白
「……もし、その役目が
僕であるのならば……
その時は微力ながら、
澪斗さんのお力になれたらと思います」
縁は、
その答えを聞いて、
静かに微笑んだ。
縁
「ありがとう、真白くん。
君がいてくれて、本当に心強いよ」
一拍置いて、
縁は少しだけ声音を落とす。
縁
「だからこそ……
今は、禁忌の眷属に負けないくらいの
信頼と絆を、皆で繋げればと思っているよ」
縁
「澪斗くんが“選べる”時が来るまで、
僕たちは、守りながら待つ」
真白
「……はい。
静音様が、澪斗さんを守ったように」
その名を口にした瞬間、
二人の間に、
ほんのりとした沈黙が落ちた。
縁
「……同じ悲しみを、
繰り返させないためにも、ね」
夜の豊穣神社は、
変わらず静かだった。
けれどその静けさの奥で、
確かに――
次の選択へ向かう歯車が、
静かに回り始めていた。
−−−
真白
「ですが縁様、意外にも
僕は紡が澪斗さんの支えになるのではないかと
思っていますよ」
縁
「えー!紡くんが?」
真白の言葉に、
縁は、普段の澪斗と紡の様子を思い返してみた。
―――
澪斗
「ねぇ紡さ、
そんなに力入れて掃き掃除しても
ゴミはまとまらないよ?」
紡
「えぇっ!
僕そんなに強くはいてますか?」
澪斗
「いや、強すぎるから
はいた落ち葉が遠くに散らばっちゃって、
中々一箇所にまとまらないんでしょ!」
紡
「うーん…
でもいつもこのくらいの力で
なんだかんだ最後には集まってるんですけど…」
澪斗
「はぁ…
ちょっと箒かしてごらん、」
紡
「えっ!
は、はい!」
箒を受け取った澪斗は、
紡にわかりやすく
箒の持ち方、掃く方向など
細やかなことを教えた。
澪斗
「んでこまめに塵取りに入れて…
はい、終わり!」
紡
「澪斗さん!
すごいです!
あの範囲の落ち葉を
こんな短い時間で!!」
澪斗
「別にそんなに凄くないよ。
紡も今僕が教えたように
やってみてごらんよ」
紡
「えっ、はい!
やってみます!」
澪斗のお手本通りに
掃除を完了させた紡は、
紡
「すごいです!
澪斗さんに教えてもらった通りにやったら、
僕でも早く終わらせることができましたよ!」
澪斗にキラキラとした視線を向け、
興奮気味にお礼を伝える紡の姿を見て、
澪斗は思わず言葉に詰まった。
これほど真っ直ぐな尊敬の眼差しを
向けられた経験は、
今までなかったからだ。
急に胸の奥がむず痒くなり、
澪斗は、
少し照れたように視線を逸らした。
澪斗
「大体真白様が教育係なはずなのに、
なんでそんなやり方なの?」
澪斗が照れ隠しに
素朴な疑問を投げかけると、
紡
「いえ!
真白様は穢れ祓いの力の使い方の師匠であって、
こういうお掃除のこととかは
優羽さんが教えてくれるんですよ!」
澪斗
「あぁ~なるほどね、納得だわ。
まぁ今日からはそのやり方でやりなよ。
早く終わればその分紡も
休憩できるんだからさ。」
紡
「み、澪斗さん!
ありがとうございます!!」
−−−
縁
「……確かに、真白くんの言う通りかもね。
澪斗くん、教えるの上手いし、
紡くんも素直だし……」
少し考えるように
顎に手を当ててから、
縁はふっと笑った。
縁
「見た目じゃ分からないもんだよね。
その子とその子の相性ってさ」
そう言って、
縁はふっと肩の力を抜いた。
その視線の先では、
風に揺れた落ち葉が、
境内の石畳をころりと転がっていく。
真白はそれを目で追いながら、
思わず小さく微笑んだ。
真白
「……ええ。
だからこそ、
面白いのかもしれませんね」
二人の間に、
くすり、と小さな笑いが落ちる。
夜の豊穣神社は、
静けさの中に、
ほんのりと温かな気配を残したまま――
ゆっくりと更けていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお付き合いいただけましたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




