澪斗の追求
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(人´∀`).☆.。.:*・゜
夕闇が境内に降りはじめ、
豊穣神社は静かな気配に包まれていた。
昼間の喧騒が嘘のように、
風に揺れる御神木の葉擦れと、
石畳を踏む足音だけが、
穏やかに響いている。
鳥居をくぐり、
境内へと足を踏み入れた瞬間――
紡は、ふっと息をついた。
「……帰ってきましたね」
その言葉に応えるように、
澪斗も小さく頷く。
本殿の方から、
見慣れた気配を感じ取った紡は、
少しだけ声を張り上げた。
「縁様――!
ただ今、戻りました!」
出迎えにやってきた縁、真白様、優羽は、
紡が初めての外任務を終えて無事に戻ってきたことに、
それぞれほっとした表情を浮かべた。
縁は穏やかに目を細め、
真白は胸の奥に安堵を落とし込むように静かに息を吐く。
優羽は思わず一歩前へ出て、満面の笑みを向けた。
縁
「お帰り、紡くん。澪斗くん、蒼くん」
真白
「お帰りなさい。皆さん……無事で何よりです」
優羽
「皆お帰りー!」
三人の声に迎えられ、
張り詰めていた空気が、ふっと和らぐ。
真白は一人ひとりの様子を確かめるように視線を巡らせ、
小さく頷いた。
真白
「皆さん、お怪我はないようですが……」
そう言いかけた真白の視線が、
ふと紡の腕で止まる。
ほんのわずかに残る穢れの気配に、
真白は気づかぬほどではなく、
そっと眉をひそめた。
真白
「紡……その腕の穢れは……」
澪斗
「すみません。
三階へ向かう通路を探していたところ、
悪鬼に憑かれた人の子と遭遇して――」
そう切り出すと、
澪斗は一度だけ小さく息を整え、
今日起きた出来事を順を追って語り始めた。
警備員に憑依していた悪鬼のこと。
紡が腕を掴まれた瞬間のこと。
悪鬼が口にした、“あの方”という存在。
話しながらも、
澪斗の脳裏には、
あの時感じた違和感が何度もよみがえる。
(……ただの悪鬼にしては、
言葉も、考え方も、
妙に整いすぎていた)
縁は腕を組み、
静かに頷きながら話を聞き終えると、
低く息を吐いた。
縁
「なるほど……
これで、禁忌の眷属が
悪鬼たちと共に動いているのは、
ほぼ確定と言ってよさそうですね……」
その言葉に、
澪斗は小さく頷きつつも、
どこか歯切れの悪そうな表情を浮かべた。
澪斗
「あの……
それで、ひとつ……
ちょっと気になることがあるんですけど……」
縁
「気になること?」
澪斗は一瞬だけ言葉を選ぶように視線を落とし、
それから静かに顔を上げた。
澪斗
「その悪鬼なんですけど……
僕のことを見て、
“あの方に似ている”って、
言いかけたんです」
その場の空気が、
わずかに張りつめる。
蒼
「?!!!」
思わず声にならない反応を見せた蒼に、
縁がゆっくりと視線を向けた。
縁
「悪鬼が?
それは……
悪鬼と共にいる禁忌の眷属が、
澪斗くんに似ている、
ということかい?」
澪斗
「……恐らくは、
そうではないかと……」
そう答えながら、
澪斗はさりげなく蒼の方へ視線を移した。
蒼は、
いつもと変わらない様子で
ふわふわと宙に浮いている。
――けれど。
どこか落ち着きがなく、
わずかに揺れ方が不規則なようにも見えた。
澪斗
「蒼さん……
なにか、知ってるんじゃないですか?」
その声に、
蒼の動きがぴたりと止まる。
澪斗
「悪鬼が、
“あの方に似てる”って話をしようとした時も……
紡が同じことを言いかけた時も、
遮るように話を逸らしましたよね?」
蒼は一瞬、
言葉を失ったように口を開き、
それから慌てて首を振る。
蒼
「……蒼は……
火の童子に言われただけ……
澪斗と紡が危なくなったら、
燃やせって……
だから、そうしただけ……」
澪斗
「じゃあ……
どうして紡が同じ話をしようとした時、
穢れの話にすり替えたんですか?」
蒼
「……すり替えてない……
紡の腕……
穢れ、ついてた……
すぐ祓わないと、
危なかったから……」
澪斗
「ふ~ん……」
澪斗は小さく相槌を打ちながら、
蒼から視線を逸らさない。
澪斗
「僕には……
ずいぶん、
タイミングよく遮ったようにしか
見えなかったんですけど……」
その視線を真正面から受け、
蒼の胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
蒼
(……どうしよう……
火の童子と、約束したのに……)
蒼が、
どう言葉を選ぶべきか迷っていると――
真白
「澪斗さんのおっしゃることも、
もっともだと思います。
ですが……
蒼さんにそのような意図は
無かったのではないのでしょうか?」
その穏やかな声に、
場の空気がわずかに和らぐ。
澪斗は、
思わず真白の方を見た。
澪斗
「……それは、
どういう意味ですか?」
真白は、
静かに一歩前へ出ると、
澪斗と蒼の両方に視線を向けた。
真白
「元来、
同属から禁忌の眷属へと
落ちた者の情報は――
他の眷属に
共有されることはありません」
言葉を区切りながら、
真白は淡々と続ける。
真白
「ですから――
その悪鬼に知恵を与えている眷属が、
仮に澪斗さんに似ていたとしても……
その話題を
“意図的に”遮る理由が、
蒼さんにあるとは、
考えにくいのではないでしょうか」
真白の言葉に、
澪斗は小さく息を吐いた。
腕を組み、
少しだけ視線を落として考え込む。
澪斗
(……確かに……
真白様の言うことも、一理ある。
蒼さんが、
禁忌の眷属について
何か知っているとは限らない……
……じゃあ、
本当にただの偶然、だったのか?)
しばらくの沈黙のあと、
澪斗は肩の力を抜き、
小さく苦笑した。
澪斗
「……確かに。
そういう見方も、できますね」
そして、
蒼の方へ視線を向ける。
澪斗
「蒼さん……
たまに、間が独特な時もありますし」
冗談めかした言い方ではあったが、
その目には、
まだ完全には消えきらない疑念が残っていた。
蒼は、
その視線を受け止めながら、
ほっとしたような、
それでいて胸の奥がちくりと痛むような、
複雑な表情を浮かべていた。
蒼
(……間が、独特……って言われた……)
その小さな呟きが胸の内に沈んだ、その時――
縁が、
軽く手を叩くようにして場を仕切り直した。
縁
「さて。
話はその辺にしておきましょうか」
穏やかな声音だったが、
どこか“今はここまでだ”と区切るような響きがあった。
縁は紡の方へ歩み寄り、
その腕に残る穢れへと視線を向ける。
縁
「紡くん。
その腕の穢れ、まだ残ってるようだから、
真白くんに綺麗にしてもらってね。」
紡
「あ……はい。
さっきよりは薄くなってますけど……」
真白
「ですが、このまま放っておくものでもありません」
そう言って、
真白はそっと紡の腕に手をかざす。
指先から、
柔らかな光が滲むように広がり、
紡の腕にまとわりついていた穢れが、
静かに、音もなく溶けていった。
紡は、
くすぐったそうに肩をすくめてから、
ほっと息をつく。
紡
「真白様ありがとうございます!」
真白
「無理をさせてしまいましたね。
ですが、よく耐えました」
優羽
「初外任務で悪鬼遭遇とか、
ハードすぎだよー!
でも、みんな無事でよかった!」
場の空気が、
少しずつ柔らいでいく。
縁は改めて一同を見回し、
穏やかに告げた。
縁
「今日はここまでにしましょう。
皆、少なからず疲れているはずです」
澪斗
「……そうですね。
すみません、話が長くなってしまって」
縁
「いえ。
必要な話でしたよ」
そう答えながらも、
縁の視線はどこか意味深に、
一瞬だけ澪斗と蒼を行き来した。
縁
「続きは、また改めて。
今夜はゆっくり休みましょう」
それぞれが小さく頷き、
自然とその場は解散の流れとなる。
蒼は、
皆が散っていく背中を見送りながら、
胸の奥に残る違和感を、
そっと押し込めた。
(……縁は知ってるのかな?
真白も?……)
夜の神社に、
静かな風が吹き抜けていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお付き合いいただけましたら幸いです。
(∩´∀`)∩☆




