開かない扉と、残された気配
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荷物を取り終えた
澪斗、紡、蒼の一行は、
前回、真白たちが先へ進むことができなかった
三階へと続く扉の前に立っていた。
人気のない廊下は、
昼間にもかかわらず妙に静まり返っている。
空調の音だけが、
低く、一定のリズムで響いていた。
澪斗は扉の前に立ったまま、
その向こう側をじっと見つめる。
澪斗
「……ここが、前回
真白様たちがたどり着いた場所だね……」
扉自体は、ごく普通の従業員用の扉だ。
それでも――
その向こう側だけが、
どこか“隔てられている”ように感じられた。
少し後ろで、
蒼がぽつりと呟く。
蒼
「……この奥、
行けなくて……
この少し下で、
悪い物、燃やしたって……
火の童子、言ってた……」
言葉は途切れ途切れだが、
その内容が示すものは重い。
澪斗は小さく頷き、
ゆっくりと息を整えると、
背後を歩く紡へと視線を向けた。
澪斗
「紡は、真白様と同じ権能だったよね」
一瞬、間を置いてから、
慎重に問いかける。
澪斗
「どう?
瘴気の気配は……ある?」
紡は、
少し背筋を伸ばし、
扉の前へ一歩進み出た。
目を閉じ、
意識を静かに落ち着かせる。
空気の流れ。
床から立ち上る気配。
扉の隙間に残る“名残”。
紡は、意識を研ぎ澄ませて探る。
……けれど。
しばらくして、
ゆっくりと目を開いた。
紡
「えっと……」
戸惑いを含んだ声。
紡
「……感じませんね」
澪斗が、わずかに眉をひそめる。
紡
「真白様たちのお話だと、
この先から、
かなり濃い瘴気の気配が
あったと聞いていましたが……」
扉の向こうを、
もう一度見つめてから、
首を横に振る。
紡
「今は……
全く感じません」
沈黙が落ちた。
澪斗は扉に視線を戻し、
ゆっくりと言葉を選ぶ。
澪斗
「……消えた?」
しかし、その瞬間――
扉の向こうから、
ほんの一瞬だけ。
“何かが、息を潜めた”
そんな錯覚が、
三人の間を、静かに通り抜け、
同時に背筋を、冷たいものがなぞった。
――“何もない”はずの空間に、
視線だけが、残っている気がした。
けれど確かに――
なにかに“見られた”という感覚だけが、
三人の間に残っていた。
紡は、思わず息を呑み、
無意識に一歩、身を引く。
澪斗は、反射的に扉から視線を逸らし、
周囲へと気配を探るように目を走らせた。
蒼は、万が一に備え
澪斗と紡をすぐに守れる位置で、静かに警戒していた。
そこには、何もいない。
それでも――
空気だけが、
一瞬、重くなっていた。
蒼が、
警戒しながら小さく首を振る。
蒼
「……消えた、より……
隠れてる、感じ……」
その言葉に、
澪斗の胸の奥で、
小さく何かが引っかかった。
(消えたんじゃない……
“いないふり”をしてる?)
扉の向こうは、
相変わらず、静かだった。
静かすぎるほどに。
澪斗は、
ドアノブへと手を伸ばしながら、
小さく息を吐く。
澪斗
「……行ってみるしか、なさそうだね」
澪斗は、言いながらゆっくりとドアノブへ手を伸ばした。
金属の冷たさが、指先にじんわりと伝わる。
一度、小さく息を整えてから――
静かに、力を込める。
ガチャリ。
やけに大きく響いたその音に、
三人の肩が、わずかに強張った。
だが、扉は動かない。
もう一度、確かめるように回す。
ガチャ、ガチャ。
鈍い感触とともに、
拒むように止まっている。
澪斗は、ゆっくりと手を離し、振り返った。
紡と蒼の視線を受けて、
困ったように、澪斗は小さく肩をすくめる。
「……鍵、かかってる」
紡は、張り詰めていた肩の力を抜くように、
小さく息を吐いた。
紡
「鍵、ですか……。
さすがに鍵は、どうすることもできないですね……」
扉を見上げながら、少し困ったように苦笑する。
その横で、
蒼が首をかしげるように小さく一歩前へ出た。
蒼
「……蒼の、熱で……
とかす?」
真剣そのものの声だった。
澪斗は一瞬だけ想像し、
すぐに苦笑して首を振る。
澪斗
「いやいや。
さすがに鉄の扉を溶かしたら大事だよ」
視線を廊下の先へと向けながら、続ける。
「警報とか、監視とか……
人の世の“面倒なもの”が、
一気に動き出しそうだしね」
軽い口調とは裏腹に、
その目は慎重だった。
澪斗
「ここは無理せず、
どこか別の道を探したほうがよさそうだ」
そう言ってから、もう一度だけ扉を振り返る。
開かないはずの扉の向こうに、
まだ“何か”がいる気配を、
完全には振り切れないまま――。
澪斗は、歩きながらも思考を巡らせていた。
(……さっき、扉に手をかけた瞬間。
ほんの一瞬だったけど――
確かに, 何かの気配があった)
錯覚ではない。
あの奥には、まだ“残っている”。
(やっぱり……
あの扉の先に、何かがあるのは確かだね)
無言のまま考え込み、
足取りも自然とゆっくりになっていたその背中を、
蒼は静かに見ていた。
やがて、小さな声がかかる。
蒼
「澪斗……大丈夫?
……さっきの気配、気になる?」
その言葉に、
澪斗は、はっと我に返る。
一瞬だけ視線を彷徨わせてから、
いつもの調子を取り戻すように、軽く笑った。
澪斗
「えっ……あぁ」
「別の通路から行けるところがあるか、
考えてただけですよ」
そう言って歩みを進めるが、
その声には、ほんのわずか――
隠しきれない警戒が混じっていた。
−−−
澪斗たちが立ち去った気配を、
扉の向こう側から、じっと窺っている者がいた。
足音が遠ざかり、
空調の音だけが戻ってくる。
しばらくして――
低く、息を吐く音が、闇の中に落ちた。
「……行ったか」
その者の傍らで、
影のように寄り添っていた悪鬼が、
不安げに身を震わせる。
悪鬼は、
縋るようにその者へ手を伸ばした。
その小さな手を、
不安を拭うよう優しく包み込みながら、
その者は、やわらかな声で告げる。
「もう大丈夫だよ」
まるで幼子を宥めるように、
穏やかに、言い聞かせる。
「あの者たちは、去って行った。
もう、ここには戻ってこない」
悪鬼は、
恐る恐る顔を上げた。
悪鬼
「……もう、
こわいこと……ない?」
その問いに、
その者は一瞬だけ目を細め――
すぐに、優しい微笑みを浮かべる。
謎の人物
「あぁ。何も心配はいらない」
悪鬼の額に、
そっと手を添えながら。
「さぁ……戻ろうか。
私たちの“住まい”へ」
そう告げると、
その者は悪鬼の手をしっかりと握り、
優しい笑みを向けた。
悪鬼は、
その笑顔に縋るように頷く。
やがて二つの影は、
扉の先に広がる暗闇の中へと、
静かに溶けていった。
――その場所に、
再び沈黙だけが残される。
だが確かに、
そこには“何か”が、
潜んでいた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(人´∀`).☆.。.:*・゜
次回もお付き合いいただければ幸いです。




