遠ざける穢れと、繋がるご縁
夕暮れの境内で、
真白たちは今回の出来事を静かに振り返ります。
悪鬼の違和感、そして思いがけず繋がっていくご縁。
少し落ち着いた語りの回ですが、
どうぞ、ゆったりとお楽しみください。(*´ω`*)
夕暮れの光が境内に落ち、
豊穣神社は、
昼の賑わいをゆっくりと手放し始めていた。
空はまだ明るさを残しているが、
影は少しずつ長くなり、
時間が確かに進んでいることを感じさせる。
それでも境内は穏やかで、
ただ静かに、
次の時を迎えようとしていた。
火の童子 (かのこどうじ)
「――という訳やねん」
焚き火の名残のような火の粉が、
火の童子の周囲で、ぱちりと小さく弾けた。
真白
「今回の悪鬼の側には、
禁忌の眷属の存在があるかもしれません」
その言葉に、境内の空気がわずかに引き締まる。
大和は、少しだけ視線を伏せ、
記憶を辿るように思案した後に、静かに口を開いた。
大和
「それに今思うと……
僕に襲いかかった穢れは、
僕を傷つけることが目的というよりは……」
言葉を探すように、
大和は一瞬だけ言葉を切る。
「……遠ざけるために、
襲ってきたのではないかと……思うんです」
火の童子は、すぐには返事をしなかった。
宙に浮かんだまま、
じっと大和を見据える。
火の童子
「大和や……」
低く落ち着いた声で火の童子は、
「なんで、そう思う?」
大和
「あの穢れは、火の童子の炎に焼かれても、
なかなか消滅しなかったじゃないですか。
火の童子の炎に対抗するだけの力があったのなら……
僕の内に、穢れを流し込むことくらい、
きっと簡単に出来たはずです」
「それでも、あれはそうしなかった。
まるで……僕を排除することだけが目的だったみたいに」
その言葉に、
火の童子は小さく目を細め、
真白もまた、静かに息を整える。
大和の推測は、
二人の中にあった違和感と、
ぴたりと重なっていた。
真白
「……大和さんの言う通りかもしれません」
真白は、境内に漂う気配を確かめるように、
ゆっくりと視線を巡らせる。
「それに、あの穢れは……
祓われることを承知で、
僕たちの前に現れたのかもしれませんね」
火の童子
「捨て駒か……」
低く唸るように呟いた後、
炎を纏う小さな身体が、わずかに揺れた。
「……あるいは……」
その続きを受け取るように、
澪斗が静かに口を開く。
澪斗
「自分の一部を切り離して、放った……ってことだね」
「しかも、それが出来るってことは……
相当、長い時を過ごしている悪鬼だ」
その言葉に、
紡は思わず小さく息を呑んだ。
紡
「ですが……そんなに長い間、
悪鬼は存続することが可能なのでしょうか?」
不安と疑問が入り混じった声で、
紡は続ける。
「僕も、主神様の元で色々と学びましたが……
悪鬼は時を重ねるごとに、
自我が消え失せると……」
縁は、ゆっくりと頷きながら答えた。
縁
「その通りだよ、紡君」
「悪鬼は人間を飲み込み、
自我をも凌駕する、そして魂や心を喰らい尽くした後は……」
「意志のない穢に成り果てて、
ただ彷徨うだけの存在になる」
境内に、
わずかな沈黙が落ちる。
その重さを破るように、
優羽がぽつりと呟いた。
優羽 (ゆうは)
「そんなにも長い間、
自我が残っているとしたら……
凄い精神力ですね……」
真白
「……あるいは、
元は“人の子”だったのかもしれません」
皆の視線が、真白に集まる。
「人の子は、
思いの強さで奇跡を起こすこともありますから」
真白は一拍置き、
現実へと意識を引き戻すように続けた。
「ですが今は……
あの扉以外に、
上の階へ行く方法を見つけなければなりませんね」
澪斗
「うーん……でも、
関係者以外立ち入り禁止なんですよね?」
肩をすくめ、現実的な口調で言う。
「警備も巡回してるでしょうし、
こっそり入ったところで、
すぐに見つかっちゃいますよ」
縁
「どうしたもんかね……」
火の童子
「縁らは狐の眷属やろ?」
炎が、ふっと揺れる。
「化けたり……
でけへんのか?」
縁
「出来るには出来るけどね」
苦笑混じりに、首を振る。
「もし今日みたいに祓いで力を使うと、
化け術は解けちゃうリスクがあるんだよ」
真白
「狐ではありますが……
化け術が万能というわけではありません」
「ご期待に添えず、
申し訳ありませんが…」
火の童子
「ほうか……」
小さく唸り、
宙を漂いながら考え込む。
「……どうしたもんかのぅ」
真白たちが、
どうにか上の階へ行く方法に頭を悩ませていると――
境内に、
聞き慣れた明るい声が響いた。
「すみませーん!
どなたか、いらっしゃいませんかー!」
優羽
「あれ?
この声って……」
真白
「笑成さんですね」
少し意外そうに、
しかしどこか安堵したように言う。
「どうしたのでしょう?」
縁
「紡君、
お出迎えして、
こちらに連れてきてもらえるかな」
紡
「かしこまりました!」
紡は元気よく返事をすると同時に、
社務所の入り口へと駆け出していった。
笑成
「すみません、急に来てしまって……」
真白
「いえ。今日はユッキーさんに、とても助けていただきましたから。
それで、どうしました?」
笑成
「それが……
真白様たちとの偵察のお話をユッキーに聞いたら、
3階のフロアに関係者しか行けなくて困っていると……」
笑成が話していると、
その胸元から、小さな光とともにユッキーが姿を現した。
ユッキー
「縁様、澪斗様!
お久しぶりです!」
縁
「ユッキーちゃん、
お元気そうで何よりです」
澪斗
「ユッキーさん!
また会えて嬉しいよ。
出来れば偵察中の真白様のお話を、
聞かせていただきたいんだけど」
ユッキー
「もちろんです!
笑成のお話が終わったら、
お話しますね!」
「さぁ、笑成!
真白様たちにお話するのよ!」
笑成
「うん!
それで……
真白様たちは、関係者しか入れない館の裏を、
調べたいんですよね?」
火の童子
「そうやねん。
でも方法がないねん」
笑成
「そのことなのですが……
今、私のお店でアルバイトを募集してるんです。
私の友人ということで店長に相談すれば、
入れると思います!」
澪斗
「なるほど……
アルバイトとして雇い入れてもらえば、
関係者しか入れないところも行けるようになるね」
真白
「確かに、その案は一番現実的ですね。
笑成さんのお店では、
何人ほど募集されているのでしょうか?」
笑成
「2名です!」
縁
「2名か……
火の童子と蒼君は人数に含まないとして、
残り2人はどうしようか……」
ユッキー
「安心してください、縁様!
さぁ笑成!
さっきの作戦も、縁様に教えてちょうだい!」
笑成
「うん!
テナントでは、
うちのお店しか求人がかかっていないのですが、
館で清掃員の募集をしているんです。
なので、あと4名くらいなら、
館の方に私が相談すれば、
アルバイトとして雇用されると思います。
ただ、アルバイトなので、
働いてもらう必要はありますが……」
笑成の提案は、
眷属たちにとって、渡りに船のような話だった。
そんな提案をしてくれた笑成に、
縁たちは優しい笑みをこぼす。
縁
「これはとてもいいお話ですね。
問題が一気に解決してしまいました」
真白
「縁様……
これも、主神様が繋いでくださったご縁の影響ですね」
縁は、穏やかに目を細めてうなずいた。
縁
「そうだね。
それじゃあ……話も一段落したことだし、
皆でお茶でも飲んでから、今日は解散にしようか」
その言葉に、張りつめていた空気が、ふっと緩んだ。
火の童子
「お、ええな。
頭使った後は、甘いもんが欲しなるわ」
優羽
「私、お菓子持ってきてます!
今館で北海道フェアやっていたので!」
真白
「ありがとうございます。
では……僕と紡で、お茶の準備をしてきますので、
少しお待ちくださいね」
紡
「はいっ!
急いで準備してきます!」
そう言って二人が立ち上がると、
夕暮れの光が境内をやさしく包み込み、
神社には、久しぶりに穏やかな時間が流れ始めた。
差し迫った不安は、ひとまず胸の奥にしまわれ、
今はただ、湯気の立つお茶と、
共に過ごす静かな団欒が待っている。
――豊穣神社の夕暮れは、
そんな小さな安らぎとともに、すぎていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
不穏な影が残りつつも、
境内には久しぶりに穏やかな時間が流れました。
またお付き合いいただけたら嬉しいです。(*´∀`)




