STAFF ONLY
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
最後までお付き合いいただければ幸いです(*´∀`)
大和を飲み込もうと、一気に距離を詰めた黒いモヤだったが、
大和の前でピタリと動かなくなった。
大和
「残念ですが、僕だって神職に携わる者です。
小物程度なら、動きくらい封じられますよ……」
そう言った大和の足元には五芒星陣が現れ、
光の鎖が黒いモヤを拘束した。
真白
「瘴気にあてられながらも、拘束の陣をこの速さで……
さすがですね。
ですが、油断はできません。
ユッキーさんと大和さんは、僕の結界の中へ。
そちらは火の童子様にお任せしても、よろしいでしょうか?」
火の童子
「コイツはあたいに任せときぃ!
大和に手ぇ出そうとしたこと、後悔させたるわ!」
火の童子の体が熱く、赤く光り、
炎が身体から溢れ出した。
そして火の童子は、
五芒星陣に拘束されている黒いモヤを焼き尽くす。
モヤはあっという間に、
火の童子の焔によって炎に包まれる。
火の童子
(なんやコイツ、まだ燃え尽きんのか?
しぶといな……!)
黒いモヤは炎に焼かれながら呻きをあげ、
拘束されている光の鎖をちぎり出した。
黒いモヤ
「ぐぅぅぅ……ぉおおお!!」
光の鎖が一本、二本とちぎれていく。
火の童子
「なんやコイツ! 様子がおかしいで!!
真白や! 縁に、
結界術をもっと強う張るよう頼んでや!」
真白
「わかりました!
大和さんとユッキーさん、
僕から離れないでください!」
真白は首から下げているお守りに狐の窓を通し、
縁に今の状況を伝えた。
縁
(了解だよ! 真白君!)
縁の答えと同時に、
真白の結界の周りへ重ねるように
光の壁が現れた。
縁
(真白君、大分強く張ったから、
火の童子に
『遠慮なしで大丈夫』って
伝えてくれる?)
真白
「わかりました!
火の童子様、
縁様から
『遠慮はなしで大丈夫』だそうです!」
火の童子
「ありがとぅ! 縁!
ほな、遠慮なしで行かせてもらうわ!」
火の童子は答えると同時に、
炎の勢いを一気に引き上げた。
その小さな体を中心に、
轟、と空気が鳴り、
灼熱の熱風が
つむじ風のように渦を巻いて立ち上る。
赤く燃え盛る焔は、
意思を持つかのように黒いモヤへと絡みつき、
逃げ場を塞ぐように包み込んでいった。
黒いモヤは、
焼かれるたびに形を歪ませ、
呻きとも悲鳴ともつかない声をあげながら、
必死にその身を引き剥がそうと暴れる。
だが、火の童子の炎は一切の容赦を与えない。
炎と呼応するように、
黒いモヤは内側から赤く染まり、
まるで血を流すかのように、色を変えていく。
やがて――
その塊は耐えきれず、急速に縮み、
あっという間に小さくなって、
……その最後の塵が燃え尽きる、ほんの刹那。
「ぅ……に……ぃ…………か……な………いで……」
消え入りながらそう告げると同時に、
塵ひとつ残さぬほどに焼き尽くされた。
火の童子
(……しゃべりよった……?)
火の童子と真白は、
黒いモヤが最後に言葉を発したことに
信じがたい思いを抱いた。
だがそれ以上に、
最後に残された言葉に
驚きを隠せなかった。
黒いモヤが燃え尽きたその場所を見つめたまま、
沈黙が彼らをつつみ込む。
誰も言葉を発することなく、
今起きたことを思案していると――
最初に口を開いたのは、ユッキーだった。
ユッキーは真白と火の童子に、
静かに尋ねる。
ユッキー
「あ、あの……
さっきのモヤモヤ、最後に
『うえにいかないで』って……
言っていたように聞こえたんですけど……」
火の童子
「あぁ、言っとったな……
それに形をなす前の状態で話すなんぞ、
初めて見たわ……」
真白
「……『うえに行かないで』、ですか。
どういう意味なのでしょう。
そもそも、ここの悪鬼は
精霊を取り込もうとしていたはず……。
それなのに、今の穢れは
上階へ行くことを阻もうとしていた――
そう考えるべきなのでしょうか?」
大和
「もし目的が、
上へ行かせないことだったのなら……
僕に襲いかかろうとしたのも、
納得がいきます。
人間の僕が穢れれば、
神社に戻って
祓いの義を受けなければ
なりませんから……」
真白
「……待ってください。
もし、あの穢れが
『人間は穢れれば
神社で祓いを受ける』
ということを知っていたとするなら――
その側で、
知恵を与えている存在が
いるということになります……」
火の童子
「おそらくやけど、禁忌の眷属やな……
名を失った神様なら、
主神様たちが感じるはずや」
大和
「禁忌の眷属……
僕はお話だけしか聞いたことはありませんが……」
火の童子
「眷属の中にも、
道を外れる者はおるからのぉ。
数は少ないが、
行方が分かっとらん奴らもおる……。
それに主神様の眷属だったからか、
悪鬼や穢れを言葉巧みに丸め込むんは、
得意なんや」
ユッキー
「火の童子様……。
それは、
眷属の方たちの中にも、
黒いモヤモヤと仲良くする方がいる、
ということですか?」
驚いた表情で火の童子に尋ねるユッキーは、
先ほどの祓いの影響か、小さく震えていた。
火の童子
「ユッキーや。
怖い思いさせてもうて、すまんな……。
恥ずかしい話やけど、
長く生きとる分、
穢れに飲み込まれてしまう同属も
おるんやわ……」
真白
「その通りですね……。
飲み込まれてしまった者たちにも、
それなりの事情はあります。
ですが――
だからといって、
混乱を招いて良いわけではありませんが……」
火の童子
「本来はな、
禁忌の眷属に落ちた時点で、
主神様によって拘束され、
封印されるはずなんやけどな。
中には、
上手いこと逃げおうせてる奴らも
おるねんな……」
重たい空気と沈黙が、
その場にゆっくりと流れた。
そんな真白と火の童子の話を聞いていたユッキーは、
ぷくっと頬をふくらませると、
プンスカと怒りを抑えきれない様子で、
小さな手足をぱたぱたと動かした。
ユッキー
「まるで不良ですね!」
ユッキーの思いがけない一言に、
大和は吹き出した。
大和
「ぷっ! ふははは!
禁忌の眷属が不良って、あはは!
いや、あってますけど!」
大和につられて、火の童子も豪快に吹き出し、
火の童子
「ぶはっ! なんや!
不良って、おもろすぎるわ!」
そんな火の童子と大和につられて、
真白までもが肩を揺らし、
真白
「ぷっくく……
ユッキーさんのおっしゃる通りかもしれませんね」
そんな彼らの様子にユッキーはぽかんとしながら、
ユッキー
(あたし、そんなに面白いこと言ったのかしら?)
(まぁ、皆楽しそうだし……いっか!)
ユッキーのおかげで先程までの重たい空気はなくなり、
真白
「それじゃあ、上の階へと行ってみましょうか」
火の童子
「せやな!」
真白
「ですが……今の穢の件もありますので、
大和さんとユッキーさんは、
僕と火の童子様の間を歩いてください」
大和
「わかりました。
僕も、真白様や火の童子の
足枷にはなりたくないので」
ユッキー
「あたしも大和さんの側にいます!
あたしも精霊ですから!」
大和
「精霊様……ありがとうございます」
ユッキー
「あの、大和さんの方がアタシの恩人なんですから、
ユッキーとお呼びしてください!
様なんて、いりませんから!」
ユッキーの言葉に大和は少し驚きながらも、
胸の奥がじんわりと温かくなった。
大和
(火の童子がこの小さな精霊様を気に入ったのは、
こういう所かな……
ふふっ。
こんなに謙虚で素直な精霊様は、
確かに見たことないかも)
一行が話しながら階段を上り終えると、
そこにはSTAFF ONLYと書かれ、
固く閉ざされた扉があった。
火の童子
「なんやこの扉は?
なんて書いてあんねん?」
真白
「スタッフオンリーですね……
関係者以外立ち入り禁止、という意味です」
火の童子
「なんで読めんねん!」
真白
「豊穣神社には外国の参拝者様も訪れるので、
学びました」
大和
「狐の眷属様も勤勉でしたね。
さすがです、真白様」
火の童子
「あたいら火の眷属は勉強は苦手やさかいな!
堪忍やで……」
大和
「しかし、これでは先には進めませんね……」
真白
「仕方ありませんね。
時間も時間ですし、
今日は一旦戻るとしましょうか」
火の童子
「そうやな。
大和の身体も心配やし、
今日はここまでにして帰ろうかの」
こうして調査の初日は、
光の世界の者たちを拒むかのように、
固く、重く閉ざされた扉の前で幕を下ろした。
その扉の向こうにあるのは、
まだ手の届かない真実と、
確かに息づく穢れの気配。
大和は一度だけ振り返り、
言葉にならない胸騒ぎを抱えたまま、
静かにその場を後にした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回も、
彼らの物語を見守っていただけたら嬉しいです。
(。>﹏<。)




