信徒ではなく、家族として
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、
この先に起こる出来事へと繋がっていく
静かで、あたたかな時間のお話です。
何気ない会話や、
当たり前のように交わされる想いの中に、
後から振り返ったときに
「この時、こんな気持ちだったんだな」と
感じていただけるものがあれば嬉しいです。
どうぞ、ゆっくりとお読みください。(。>﹏<。)
「なんで……なんで!!
どうして、こんなことに……!!」
澪斗は叫びながら、
倒れて意識のない静音を抱き起こした。
呼びかけても、返事はない。
いつも冷静で、誰よりも強かったはずの姉は、
その腕の中で、ただ静かに眠るように横たわっている。
「静音……姉さん……!」
震える声で名を呼びながら、
澪斗は必死に周囲を見渡した。
そこに広がっていたのは――
まるで、すべてが焼き尽くされた後のような光景だった。
大和は、膝をつきながら、
両の掌の中で今にも消えそうな焔を守っている。
それはかつて、
火の童子だった存在。
そのそばには、
大和を庇うように倒れ伏した真白の姿もあった。
瓦礫と焦土。
かつて結界が張られていた痕跡。
力の余波だけが、まだ空気に残っている。
――あまりにも、無残だった。
澪斗は、
この惨状を引き起こした“元凶”へ向けて、
喉が裂けるほどの叫びを投げつけた。
「どうして……
なんでだよ……!!」
そして、
その名を――
「葵兄さん!!」
―――時は遡り、数日前
縁
「それじゃあ、
班も決まったし、
早速今日から始めちゃおうか!」
火の童子
「そうやな!
早めに調べた方が、
厄介にならんしな!」
縁
「じゃあ大和君、火の童子、真白君にお願いしたいんだけど……
大丈夫かな?」
真白
「問題ないです」
火の童子
「あたいらも問題あらへんで!
なっ、大和!」
大和
「はい」
縁
「真白くん、主神様のお守り……
忘れてないね?」
念を押すような問いに、
真白は胸元へそっと手を伸ばした。
普段着の襟元から、
衣服の下に隠れるように下げられたお守りを、
指先で静かに確かめる。
真白
「はい。
ちゃんと身につけています」
指先で軽く握りしめると、
それを離し、真白は小さく頷いた。
縁
「うん。
それじゃあ火の童子、
大和君と真白君のこと、
頼んだよ」
火の童子
「まかしときぃー!
それに今日は
軽い偵察しかせんからな!」
縁と軽く言葉を交わしたあと、
三人は人の流れに紛れるようにして、
商業施設へと向かった。
―――
真白
「それではまず、
前回、笑成さんの職場だった
天然石売り場へ行ってみましょうか。
あそこは穢れが蔓延していましたし、
その後どうなっているのかも
気になります」
真白の隣を歩きながら話を聞いていた大和は、
その言葉に、わずかに表情を引き締めた。
大和
「天然石ですか……
この件の悪鬼は、
かなり賢いですね。
水晶や天然石の類は、
穢れが付きやすい上に、
状況次第では
増幅させる要因にもなり得ます」
火の童子
「その通りや。
賢い悪鬼なんぞ
見たことあらへんけどな。
で、真白。
その商いの店は
どの辺なんや?」
真白
「このエスカレーターを
上がってすぐの所に――」
火の童子
「説明いらんな!」
言い終わるよりも早く、
火の童子はふわりとあたりを見回した後、
覚えのある気配を察知して、
視線を一点に向けた。
火の童子
「ユッキーの気配……
感じるわ。
あそこやな!」
そう言うが早いか、
火の童子は、
その気配の方へと飛んでいった。
大和
「あの小さな精霊様のこと……
よほど気に入ったみたいですね」
真白
「ふふっ、そのようですね。
火の童子様は、
同じ眷属でも面倒見がいい方です。
初めてお会いした時も、
僕のことを
よく気にかけてくださいましたから」
大和
「僕はもう物心ついた時には、
火の童子と蒼はいつも一緒にいましたし、
兄弟が居ない僕にとっては、
火の童子と蒼は姉と兄のような存在ですかね」
そう言って大和は、
ふっと柔らかく目を細めた。
その表情は、
火の童子と蒼と過ごした日々を
思い出しているようだった。
「ただ子供の頃は、
火の眷属は普通の人間には見えないので、
僕は常に見えない何かと遊んでる
変な子どもと思われてましたけど……」
大和の話を聞いていた真白は、
少し悲しげに視線を落とし、
真白
「……たしかに、そうですね。
大和さんのように
特別な一族の血を引く方は、
昔から周囲に理解されにくく、
変わり者として見られることが
多かったと、聞いています」
大和
「それでも僕の時代は、
まだましな方だったと思います。
今は、
不思議なものや霊的なことも
前より身近に感じられる
世の中になりましたしね……」
「ただ、
同級生の中には
心ない言葉で攻撃してきたり、
バカにされたりして、
悔しい思いや
哀しい思いをしたこともありました」
「でもそんな時、
必ずそばに寄り添ってくれたのは
火の童子と蒼でした。
僕が腐らずに、
まっすぐここまで来れたのは
あの二人のおかげです。
だから今代の神主になった時に、
火の童子と蒼が
現世で穏やかに過ごせるように、
精一杯頑張ろうと
そう誓いました」
真白は、
大和の話を聞きながら、
同じ眷属として、
人の子にここまで信頼してもらえている
火の童子を、
とても誇らしく思い、
胸の奥が、
あたたかく満たされていくのを
感じていた。
真白
「きっと火の童子様も、
蒼さんも、
大和さんのことを
家族も同然のように
思っているのでしょうね」
真白の言葉に、
大和は思わず目を見張った。
大和
「眷属様たちでも、
そのように思ったり
するものなのですか?」
真白は、
驚いている大和に
穏やかな視線を向けながら、
真白
「もちろんです。
それに――
火の童子様や蒼さんの、
大和さんに対する
日頃の接し方を見ていれば
分かりますよ」
大和は、
真白の言葉に嬉しさを隠しきれず、
思わずはにかんだように微笑んだ。
大和
「……そうだったら、
とても嬉しいです。
でも――
同じ眷属の真白様が
そうおっしゃるのなら、
きっと、
そうなのでしょうね」
真白は、
穏やかに微笑みながら
一つ頷いた。
真白
「……少し急ぎましょうか。
火の童子様が先に行ってしまって、
心配ですし」
その言葉に、
大和は思わずくすりと笑った。
大和
「そうでしたね。
これでは姉というより、
手のかかる妹のようです。
……ふふっ」
そう零しながらも――
真白との会話を通して、
火の童子と蒼が、
ただの“信徒”としてではなく、
自分を一人の家族のように
想ってくれていたのだと知り、
その事実が、
大和の胸を
じんわりとあたたかく広がっていた。
そして二人は、
その想いを胸にしまい込みながら、
先を行く、
小さいけれど大きな炎を追って、
静かに歩き出した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回は大きな事件は起きませんが、
それぞれが大切にしている想いや、
守ろうとしているものを
少しずつ描いた回になっています。
この時間があったからこそ、
この先の出来事が、
より胸に残るものになればいいなと思っています。
次回も、
彼らの物語を見守っていただけたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(*´∀`*)




