火の童子、炎神様のもとへ
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
(*´∀`)
龍神の眷属が、
それぞれの憂いを胸に天界へ戻っている、ちょうどその頃――
焔神社の境内にも、
天界へ向かうための支度の気配が、
静かに満ちていた。
火の童子
「ほな大和。
あたいと蒼は、
主神の炎神様の所へ行ってくるわ!」
腰に手を当て、
いつもの調子で言い切る火の童子に、
大和は小さく笑みを浮かべて応える。
大和
「火の童子。
炎神様に、よろしくお伝えください。
蒼も……天界では、
あまりはしゃぎすぎないようにね」
蒼
「……うん」
少し間を置いてから、
小さく頷く。
「炎神様……
久しぶりに会える……嬉しぃ」
その声は控えめで、
けれど確かに弾んでいた。
火の童子
「いや、
はしゃがんやろ蒼は!
大人しすぎやねん!」
蒼
「……火の童子は、
いつも……うるさい……」
ぽつりと零れた言葉に、
火の童子は一瞬きょとんとし、
次の瞬間、豪快に笑う。
火の童子
「元気なだけや!
ほら、行くで!」
ぐい、と蒼の腕を引くようにして、
火の童子は歩き出す。
蒼
「……大和」
引かれながらも、
蒼は一度立ち止まり、
大和の方を振り返った。
「……行ってきます。
またね……」
ほんの少し言い淀んでから、
小さな声で付け足す。
「……何かあったら……
知らせ、火を……おくって……」
大和
「ええ。
必ず」
静かに、しかし迷いなく頷く。
蒼はそれを見て、
安心したように目を細め、
小さく手を振った。
やがて――
蒼は火の童子に
半ば連行されるようなかたちで、
淡い光の中へと導かれていく。
二つの影が、
炎のような揺らぎをまといながら、
ゆっくりと宙へ浮かび――
そのまま、
天界へと昇っていった。
境内には、
火の気配が消えたあとの、
静かな余韻だけが残る。
大和はしばらくのあいだ、
その空を見上げたまま、
動かなかった。
――それぞれが、
それぞれの場所で、
人の子の世界を守るために、
その役目へと動き始めていた。
その静かな流れは、
まだ誰の目にも見えないまま、
確かに動き出していた。
大和
「……蒼は、大丈夫かな……」
ふと零れたその呟きとともに、
大和の脳裏に、懐かしい光景がよみがえる。
蒼が、ここへ来たばかりの頃のことだ。
蒼は――
大和が、まだ物心つくかつかないかという頃に、
火の童子が、突然連れて帰ってきた眷属だった。
火の童子と同じ“火の眷属”とは思えないほど、
大人しく、静かで、
どこか影のあるその姿に、
幼いながらも、大和は強く驚いたのを覚えている。
(火の童子が、
今日からあたいの弟子になった蒼や!って
いきなり連れて帰ってきたときは、
本当にびっくりしたけど……)
(蒼は大人しすぎて天界には馴染めんかったとも言ってたっけ……)
(でも、蒼はすごく真面目で、
優しい子だった)
幼かった自分とも、
よく遊んでくれた。
言葉は少なかったけれど、
いつもそっと隣にいてくれた。
同じ眷属の中では馴染めなかったらしいけど――
でもそんな蒼が、
(炎神様に会えるって聞いたとき、
凄く嬉しそうにしてたな……)
大和
「ふふっ……」
大和は先ほどの火の童子と蒼を思い出し
笑いながら
「嬉しそうなのは、
火の童子も一緒か……」
「……なんだか、
二人がいないと、
静かすぎて寂しいな……」
それは、神主としての感情ではなく、
ただ一人の“共に育った者”としての、
素直な想いだった。
幼い頃から、
あたりまえのようにそばにいた存在。
それが少し離れただけで、
こんなにも境内が広く感じるとは思わなかった。
燈真
「……お前と共に育ったようなものだからな。
蒼に関しては」
静かに響いた声に、
大和ははっとして振り返る。
そこに立っていたのは、
父であり、先代神主の――燈真だった。
燈真
「少し居ないだけでも、
静かに感じるものだよ」
大和
「父さん……」
一瞬、迷うように言葉を探し、
大和は続けた。
「今回の騒動の件なんだけど……」
燈真
「――やめなさい」
やわらかく、しかしはっきりと、
燈真はその言葉を制した。
責めるでもなく、
突き放すでもない。
ただ、静かに。
燈真
「今の当代神主様は、
大和――お前だよ」
「当代神主様になったからには、
すべてを、
火の童子と蒼と共に、
乗り越え、解決していかなくてはならない」
その言葉は、
重く、しかし温かかった。
父としてではなく、
一人の“役目を終えた神主”として、
息子に託す声だった。
燈真
「父さんに出来ることと言えば――」
「お前の悩みを聞いて、
自分が経験してきたことをもとに、
助言をするくらいかな」
大和は、
その言葉を胸の奥で受け止める。
背中を押されるのではなく、
隣に立たれている感覚。
大和
「……うん」
小さく、しかし確かに頷く。
蒼も。
火の童子も。
そして――自分も。
それぞれが、それぞれの場所で、
人の子の世界を守るために動いている。
そのことを、
大和は、今、はっきりと理解していた。
――――――
火の童子
「炎神様ー!
帰ったでー!!」
朗らかな声が、
焔に満ちた神殿に響く。
その声に応えるように、
玉座に腰掛けていた炎神が、
ゆったりと身を起こした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお付き合いいただけましたら幸いです。
(*´∀`*)




