龍神の眷属の憂い、胸に抱いて――天界へ
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真白と縁が天界にて主神様への報告を済ませていた、ちょうど同じころ――
澪斗
「静音様。
ただ今、戻りました」
その声に応えるように、
静音と呼ばれた女性がゆっくりと振り返った。
黒く長い髪が、わずかに揺れる。
灯りを受けて艶を帯びたその髪の向こうから、
落ち着いた眼差しが澪斗を捉えた。
静音
「澪斗……」
一瞬だけ、
その表情に安堵が滲む。
「無事で何よりです。
帰りが遅かったので、少し心配していました」
責めるような響きはなく、
それは純粋な気遣いの言葉だった。
静音は静かに澪斗を見つめ、
怪我の有無を確かめるように、
視線を一度だけ巡らせてから、続ける。
「それで……
向こうの様子は、どうでしたか?」
澪斗
「やはり静音様のご想像通り、
悪鬼と交戦していたのは
真白様と優羽でした」
「ただ、優羽は重症でしたので、
祓ったのは
助太刀した火の童子様でした」
静音
「ふふっ……」
「真白様に優羽さん、
そこへ火の童子様……
さらに龍神神社のあなたまで」
「一足早い合同会合のようですね」
そう言って微笑んだ静音だったが、
その表情は、次の瞬間には静かに引き締まった。
視線を伏せ、
思案するように続ける。
「……ですが、
あの頑丈な優羽さんが、
重症を負うほどの相手だなんて……」
その声音には、
もはや冗談めいた響きはなく、
確かな違和感と警戒が滲んでいた。
澪斗
「はい、しかも悪鬼は
人の子の身体のまま
優羽と交戦したため、
優羽は防戦一方に
なってしまったようです」
静音
「人の子の身体のまま?
それは面妖な……
人の子の自我を
喰ったということですか?」
澪斗
「はい……。
ただ、その人の子は
守護精霊を持っていたようで」
「火の童子様の焔によって
悪鬼が焼かれたあと、
人の子自身は
無事でしたが……」
静音
「……それは、
不幸中の幸いでしたね」
静音は、ほっと息をつくように
わずかに肩の力を抜いた。
人の子が、
悪鬼とともに失われなかったこと――
それだけは、
確かに救いだった。
だが、その安堵は長くは続かなかった。
静音
「無事だったのは良かったですが……」
静音は澪斗へと視線を向け、
静かに問いかける。
「澪斗。
何か、気にかかることが
あるのでは?」
澪斗
「……はい」
一拍の沈黙ののち、
澪斗は慎重に言葉を選びながら続けた。
「悪鬼は……
その人の子の精霊を、
取り込もうとしていました」
静音
「……精霊を」
静音の視線が、
わずかに鋭さを帯びる。
「守護精霊を……
“取り込もうとした”
ということですか?」
澪斗
「はい……
真白様のお話では、
精霊を取り込めば
もっと強くなれると、
悪鬼が語ったそうです……」
静音
「それはっ……!」
思わず声を上げた静音は、
言葉の続きを呑み込み、
わずかに息を詰めた。
その表情から、
先ほどまでの落ち着きが消えている。
静音
「……精霊を取り込めば、
力を得られるなどという発想」
「それは――
普通の悪鬼が
知っていることではありません」
場に、
重たい沈黙が落ちる。
静音
「そのような知識を持つ存在は……」
その声は低く、
慎重に言葉を選ぶようだった。
静音
「精霊は本来、
絆を交わした人の子を守り、
悪しき存在を祓い、遠ざけるものです。
光と影のあいだに、
明確な隔たりをつくる存在でもあります」
静音は、
澪斗の方へ静かに視線を向けた。
静音
「それを狙うということは……
その悪鬼は、
ただの本能で
動いていたわけではない」
わずかな間を置き、
静音は低く続ける。
静音
「何者かが“知恵をあたえている”――
そう考えるのが、
自然でしょうね」
澪斗
「それで、その後――
豊穣神にて、他の面々と
今後の話し合いを行い……」
澪斗は一度、言葉を区切る。
あの場に集った顔ぶれと、
交わされた緊張を思い返すように。
「あの建物内を
精査する必要がある、
という結論に至りました。
各社で留守居役と討伐員を確保でき次第、
調査を始めることになります」
澪斗
「我が龍神神社には、
討伐を担う者がおりませんので……」
少しだけ、視線を落としてから続ける。
「豊穣社の方か、
焔神社の方と
共に行動することになります」
静音
「そうですか……」
静音は小さく息を吐き、
静かに頷いた。
「では、私も龍神様に
お伝えしに行くとしましょう」
澪斗
「静音様……」
呼び止めるように、
低く声を落とす。
「精霊を取り込めば、
強くなれると……」
静音
「分かっています」
言葉を遮るように、
しかし穏やかに答えた。
「確信はありませんが……
あの禁忌の眷属も、
かつて同じことを唱えていましたね」
静音の声音には、
記憶の底に触れるような
重さが滲んでいた。
「まだ、
確証があるわけではありませんが……」
一瞬、言葉を選ぶ沈黙。
「ですが――
もし、龍神から出た
あの者が元凶だった場合は……」
その先は、
あえて口にされなかった。
澪斗と静音の間に、
短く、しかし重い沈黙が流れる。
龍神に仕える者として、
考えたくはない可能性――
それが、確かにそこにあった。
澪斗
「……まだ決まったわけではありませんが」
静かに、しかしはっきりと告げる。
「まずは我が主神様へ
報告を。
そして、留守居役の増員を
お願いに行きましょう」
静音
「……そうですね」
その一言には、
覚悟とともに、
逃げない決意が込められていた。
最後までお読みいただきほんとうにありがとうございました!
次回のお話もお付き合いいただければ幸いです
(*´ω`*)




