人と神、そのあわいで
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
(*´∀`)
今回のタイトルにある「そのあわい」とは、
どちらにも完全には属さない、
境目のような場所を意味する言葉です。
紡
「あの……すいません」
紡は周囲の様子を伺いながら、
おずおずと視線を大和へ向けた。
「大和さん、同族と仰っていましたけど……
火の童子様とは、
見た目がずいぶん違いますよね?」
首をかしげながら、
純粋な疑問をそのまま口にする。
「大和さんは……
いったい、なんの眷属様なのですか?」
大和
「紡様……」
大和は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置き、
穏やかな声で答えた。
「僕は、眷属ではありません。
人間なんです」
「僕の家系は代々、
炎神様をお祀りしてきた神社の人間で……
その務めを、今も受け継いでいます」
紡
「えっ……?
じゃあ、どうして……
僕たち眷属のことや、
火の童子様が見えているのですか?」
火の童子
「それはな、紡」
火の童子は、少しだけ懐かしむように笑った。
「初代・焔神社の神主と、
炎神様との間に結ばれた
“誓約”があるからや」
「大和はな、
その初代神主の子孫や。
せやから、その契約も――
今に引き継がれとる」
火の童子は、誇らしげに続ける。
「大和の一族は、
何千年もの間、
一度も信仰を絶やさず、
炎神様を守り続けてくれとる」
「そないな人の子はな……
そうそう、おらんのや」
紡
「……人の子って、
すごいんですね……」
紡は小さく呟きながら、
改めて大和の方を見つめた。
その瞳には、
さっきまでの驚きとは違う、
静かな尊敬の色が宿っている。
真白は、その様子をそっと見守りながら、
柔らかく微笑んだ。
人と神。
眷属と人の子。
その隔たりの向こうに、
確かに通じ合うものがある――
そう、改めて感じ取るように。
真白は何も言わず、
ただ穏やかな眼差しで、
皆を包み込むように見渡していた。
縁
「それじゃあ今回の件の事を考えると、
討伐員は一人は居たほうがいいね…」
「うちは優羽君がいるし、
大和君の所は
火の童子も蒼もいるし、
問題はないけど、」
大和
「澪斗様の神社は、
討伐員がいらっしゃらないですよね…」
澪斗
「そうですね……
龍神神社の眷属は、
治療を司る者ばかりで……」
「調査のときは
焔神社か、
豊穣神社の方達と
ご一緒させていただければと思います。」
真白
「えぇ、
僕もそれがいいと思います。」
縁
「それじゃ
それぞれの社で
留守居役が確保できたら
調査開始しましょう」
火の童子
「それがええね、」
大和
「大分長い時間話し込んでしまいました。
そろそろ帰らないと…」
火の童子
「そうやな、
蒼が心配やしな…」
真白は何も言わず、
ただ穏やかな眼差しで、
皆を包み込むように見渡していた。
――この場にいる誰もが、
それぞれの役目を背負っていることを、
知っているかのように。
−−−
長い話し合いが終わり、
それぞれの社へと
眷属たちが帰っていった後――
境内には、
日が落ちたあとの静けさが戻っていた。
縁と真白は、
主神様のもとへ
留守居役の助けを願い出るため、
御神木の前に並び立つ。
静かに手を合わせると、
御神木の根元に、
淡く光る陣が浮かび上がった。
陣の中心から、
ゆっくりと光が立ち上がり、
やがて一枚の扉の形を成す。
それは扉でありながら、
この世のものとは思えないほど、
神聖な光に満ちていた。
真白がそっと手を伸ばすと、
その指先に応えるように、
扉は静かに開かれていく。
縁
「真白君は、
天界に戻るのは久しぶりだね」
その声音には、
年長者としての気遣いと、
どこか懐かしむような
温かさが滲んでいた。
真白は珍しく、
少し浮き立つような表情で
縁を見上げる。
真白
「はい。
主神様に直接お会いできるのも
久しぶりです」
一拍置いて、
胸の奥から
こぼれるように続けた。
「……とても、嬉しいです」
縁は、
くすりと笑いながら言った。
縁
「主神様もね、
真白君に会いたがっていましたよ」
真白
「……本当ですか?」
思わず、
声が少し弾む。
縁
「ええ。
とても、
楽しみにしておられました」
その言葉に、
真白は抑えきれないように微笑んだ。
心からの喜びが、
そのまま表情に現れていた。
真白
「紡のおかげです。
紡が一生懸命に成長してくれているおかげで、
僕も天界へと戻れるようになりました……
本当に、ありがたいです」
その声音には、
弟子を思う優しさと、
どこか誇らしさが滲んでいた。
縁
「そうだね……
真白くんの能力は、
真白くんにしか出来なかったからね」
縁はそう言って、
静かに前を向く。
「それじゃあ――行こうか」
その一言を合図に、
御神木の根元に浮かぶ陣の光が、
ひときわ強く輝いた。
淡い光が足元から立ち上がり、
二人の影を
ゆっくりと包み込んでいく。
夜の境内が、
一瞬だけ、
白く照らされ――
次の瞬間、
真白の視界は、
柔らかな光に満たされた。
風の音も、
夜の匂いも消え、
ただ静かで、
懐かしい気配だけが残る。
(……帰ってきた)
そう感じたのは、
場所を見たからではない。
魂が、
この空気を覚えていたからだった。
そして――
柔らかで、
あたたかく、
どこか懐かしい声に呼ばれた。
女神様
「真白。
久しぶりですね……こちらへ」
その声を聞いた瞬間、
真白の胸が、
きゅっと締めつけられる。
懐かしさと、
安堵と、
言葉にできない想いが
一気に溢れて――
真白は、
振り返ると同時に、
女神様のもとへ駆け寄っていた。
真白
「主神様!
お久しぶりです!」
その声は、
いつもの穏やかな調子よりも、
少しだけ高く、
弾んでいる。
女神様は、
そんな真白の姿を見て、
とても優しく微笑んだ。
女神様
「ええ……。
元気そうで、
なによりです」
そっと手を伸ばし、
真白の頭に触れる。
そのぬくもりは、
昔と何一つ変わらず、
真白の心の奥まで
染み渡っていった。
真白は、
ただそれだけを、
胸の中で
静かに噛みしめる。
少し離れたところで、
その様子を見守っていた縁が、
くすりと笑った。
縁
「ふふっ……
真白くんが、
こんなふうにはしゃぐなんてね」
その声音には、
からかいよりも、
どこか嬉しそうな響きがあった。
女神様は、
久しぶりに会う真白の成長を確かめるように、
その白い毛並みを
ゆっくりと撫でながら、
落ち着いた声で話し始めた。
女神様
「今回の件――
天界より、
ずっと見守っていました」
その声音は穏やかで、
しかし確かな重みを帯びている。
「真白も、優羽も……
無事でいてくれて、
よかったです」
一瞬、
言葉を選ぶように、
女神様は視線を伏せた。
女神様
「……優羽は、
傷ついてしまいましたが」
真白
「……はい」
短く、
けれどはっきりと頷く。
女神様の手のぬくもりを感じながら、
真白は胸の奥に、
小さな痛みと
安堵が入り混じるのを覚えた。
真白
「ですが、
澪斗さんのおかげですぐに治療していただけ、
大事にならずに済みました。」
女神様
「後で龍神にも
お礼を言っておきましょう。
それに――」
撫でる手が、
そっと止まる。
「優羽が倒れた後も」
「あの小さな精霊と優羽を守ろうと、
よく頑張りましたね」
女神様は、
真白の目をまっすぐに見つめ、
静かに微笑んだ。
「立派になりましたね」
真白は、
その言葉に小さく息を吸い、
胸の奥でそっと噛みしめる。
天界の柔らかな光が、
白い毛並みに静かに降り積もり、
その背を、
優しく包み込んでいた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお付き合いいただければ嬉しいです(。>﹏<。)




