褒めて、食べさせて、なんとかする話
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
(*´∀`)最後までお付き合いいただけたら嬉しです!
火の童子は、窓の外で荒れ狂う雨脚を一瞥し、
次いで澪斗の足元から立ち上る重たい気配に顔をしかめた。
「……まずい!!」
声を張り上げ、真白の肩をぐっと掴む。
火の童子
「真白!
澪斗の事、なんとか落ち着かせい!
このままやと、ここらへん一帯、
災害級の浸水になるで!」
真白は一瞬きょとんとした表情で澪斗を見る。
真白
「えっ……
ですが澪斗さんは、
落ち着いていらっしゃるように見えますが……」
その様子を見て、縁は思わず頭を抱えた。
穏やかな表情を保とうとしつつも、声には焦りが滲む。
縁
「違うよ! 真白君!
ショックで固まっちゃったの!!説明している時間
はないよ!
とにかく今は、澪斗君を落ち着かせるのが最優
先!」
「澪斗君の目の前に行って、
澪斗君のこと、全力で褒めて!!
なんでもいいから、
安心する言葉を投げて!!」
真白は一拍置き、真剣な顔で首を傾げる。
真白
「えっ……
どうして僕が澪斗さんを褒めれば
落ち着くのでしょう?
ほんとうに効果があるのか心配なので、
この琥珀糖の飴を……」
そう言いながら、懐を探り始めた瞬間――
火の童子のこめかみが、ぴくりと跳ねた。
雷鳴が重なるたび、
その苛立ちは、熱を帯びた空気となって滲み出ていく。
火の童子
「なにを悠長に
飴なんぞ探しとんねん!!」
雷鳴に負けじと声を張り上げ、
火の童子は真白の背を叩く勢いで怒鳴る。
「えぇから、
縁に言われたとおりせぇー!!!!」
烈火のごとくまくしたてるその迫力と同時に、
火の童子の手が、真白の背をぐいと押した。
真白は半ば反射的に、一歩前へ出る。
「えっ、あ……!?」
真白は慌てて振り返りかけ、
背後から突き刺さる火の童子の視線に、びくりと肩を揺らした。
火の童子
「雷が洒落にならん音になっとる!
真白、はよせぇ!!」
神殿の外で、
雷鳴がひときわ大きく轟いた。
びりり、と
床下まで揺れる。
(……えっと……これは……行くしか、ないですね)
澪斗の前に立ち、
困ったように、けれど誠実に視線を合わせる。
真白
「澪斗さん……。
僕は……澪斗さんは、とても素晴らしい眷属だと思っています。
癒やし手としても、とても頼りになりますし……
その……安心します」
澪斗
「えっ……本当ですか……?」
しばらく、言葉の意味を確かめるように黙り込んでいた澪斗は、
やがて、ふっと肩の力を抜いた。
「……あ」
息が、ゆっくりと吐き出される。
口元が、ほんの少しだけ緩み、
困ったような、それでいて嬉しさを隠しきれない笑みが浮かんだ。
「……ありがとうございます」
小さく、けれどはっきりと。
胸の奥に溜まっていたものが、
静かに溶けていくのを感じながら、
澪斗はもう一度、真白を見つめた。
「そう言ってもらえると……
なんだか、すごく……嬉しいです」
その言葉に重なるように、
澪斗の胸元にまとわりついていた黒い気配が、
ゆらりと揺れた。
濃く澱んでいた影は、
まるで居場所を失ったかのように輪郭を崩し、
細い霧となって、ゆっくりと空へ溶けていく。
それに呼応するように、
先ほどまで荒れていた空の気配が、
わずかに和らいだ。
重なり合っていた雷鳴は遠のき、
境内を渡る風も、次第にその荒さを失っていく。
雷雲の隙間から、
淡い光が差し込み始めていた。
すると、
火の童子が、この機を逃すなとばかりに、
真白の耳元へ顔を寄せた。
火の童子
「いまや! 真白!!
得意の琥珀糖、
口に放り込めぇ!!」
真白
「えっ!?
放り込むのですか!?」
目を丸くしたまま、
慌てて懐を探る真白。
その様子を見て、
縁が声を弾ませた。
縁
「真白君、
澪斗君に食べさせてあげて!」
真白は一瞬、完全に思考が止まった。
視線が泳ぎ、
懐に入れた琥珀糖の感触を、無意識に確かめる。
(え、えっと……
食べさせる、ですか……?)
火の童子の「早うせぇ」と言わんばかりの視線が、
背中に突き刺さる。
(……考える時間は、なさそうです)
真白
「え、えっと……。
澪斗さん、口を……」
火の童子
「ほれ、澪斗あーんや!
あーん! 口開けぇや!」
縁
「そうそう、あーんして!」
澪斗
「え、……?」
そう言いながらも、
気づけば、
火の童子と縁に言われるがまま、
澪斗は口を開いていた。
その様子を確かめてから、
真白は意を決したように、
琥珀糖をつまんだ手を、
ゆっくりと澪斗の口元まで運んだ。
ころり、と。
琥珀糖が、
澪斗の口の中へ運ばれる。
澪斗
(……っ!?)
甘さが広がるより先に、
胸の奥が、ぱっと明るく弾けた。
(真白様の手から……
食べさせてもらえるなんて……!!!)
思わず頬が緩み、
澪斗の表情は、
見る見るうちに上機嫌になる。
その瞬間――
境内を覆っていた雲が、すっと引いた。
重苦しかった空は晴れ渡り、
やわらかな陽の光が、
木々の間から差し込む。
風は穏やかに、
澄んだ空気が、
境内を満たしていった。
少し離れた場所で、
その光景を見ていた大和は――
(……羨ましすぎる!!)
心の中で、
全力でそう叫んでいた。
余談だが……
澪斗がすっかり落ち着きを取り戻し、
境内と空が、
完全に元の穏やかさを取り戻した、その後――
火の童子と縁から、
優羽がこってりと説教を受けることになるのだが……
それは、また別のお話。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今のところ毎日更新しておりますので、
次回も、真白たちにお付き合いいただけましたら幸いです。
(*´ω`*)




