それは、願いの形をした歪み
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
(*´∀`)
本章から【神無月/合同会合編】一話が始まります。
小さな違和感が、少しずつ形を持ち始める――
そんなお話の始まりです。
ゆっくりと、お付き合いいただけましたら幸いです。
穏やかな日差しが傾き始め、境内も静かになった頃、
各神社の眷属たちに寄る情報のすり合わせが続いていた…
真白は視線を大和に向けると、少し考えるように言った。
「大和さんと火の童子様は、
先程ご祈祷に来てくれる方々の様子がおかしくなったと
おっしゃっていましたよね?」
「それは、どんな風におかしかったのでしょうか?」
火の童子と大和は顔を見合わせた後、
大和は、言い出しづらそうに視線を伏せ、
小さく息を整えてから口を開いた。
大和
「……それが……
人の不幸や、厄災を願うことばかりが、
書かれ始めたんです……」
火の童子
「それまではな、
火事がおきんようにとか、
健康で、平穏で、
災いなく過ごせますようにとか、
純粋な願いばかりやったのに……」
「最近になってな……
『守ってください』やのうて、
『壊してほしい』言葉が増えてきてん」
火の童子は、
見えない絵馬を思い浮かべるように目を細めた。
「字は綺麗やで。
せやけどな……
あれはもう、
助けを求めとる“願い”やなかった」
大和
「……具体的な言葉は、
ここでは控えますが……」
「誰かの不幸を願うものや、
怒りや恨みをぶつけるような文面が、
目立つようになってきました」
「お願いというより……
感情を吐き出しているようで……」
「由緒ある神社としては、
お恥ずかしい限りですが……」
縁は大和に優しく微笑みながら、
穏やかに口を開いた。
縁
「大和君、
それは由緒あるとかないとかの問題ではないよ」
「神様はどんな願いも叶えてくれるわけではないと、
知らない人の子がいるってだけだよ」
真白
「えぇ……
主神様が聞く願いには、
その願いの主にふさわしい事なのかどうかで、
選定されています」
澪斗
「その通りだよ。
だからこそ、
その土地を守護する主神様は、
“人の不幸”を願う者の願いは聞けないよ……」
火の童子
「結局、
人の不幸を願って叶った所で、
自分に返ってくるだけやからな……」
優羽は大和の肩に、
そっと手を置きながら言った。
優羽
「だから大和君も、
気にしちゃだめだよ!」
大和は、
どこかホッとした様子で一息ついた。
大和
「優羽さん……
皆様……
ありがとうございます……」
「僕が代替わりしたばかりなのに、
こんな事態になってしまったので……
負い目を感じてしまっている自分が居ました……」
「だけど、
今回悪鬼の影響であると確認できただけでも、
良かったです」
火の童子
「だから何度も言うたやろー
大和のせいやないって!」
腕を組んだまま、
火の童子はふわりと大和の目の前まで来ると、
大和の額を軽くデコピンし、
豪快に笑った。
「気にすんな言うとるやろ」
大和
「そうだけど、
僕は皆様みたいに眷属ではなく人間ですから、
微量な穢れは分かりませんでしたし……」
「火の童子は、
皆様もご存じの通り豪胆なところがあるじゃないですか。
だから、その……」
言葉を濁しながら、
大和はちらりと火の童子を見る。
その様子を見ていた縁が、
思わず口元を押さえて吹き出した。
縁
「ふふっ……
大和君、
確かに火の童子は豪胆だけどね」
くすくすと肩を揺らしながら、
穏やかに続ける。
「でも、
眷属としてはとてもすごい方だよ。
もっと信用してあげて……
ふふっ」
火の童子
「……大和……
このことは忘れんからな……
ほんで縁は笑いすぎや!」
大和
「……すいません……」
真白はそのやり取りを見ながら、
胸の奥で小さく息をついた。
火の童子
「まぁ、
そんなこんなで
様子見に行こかー言ってたところやねん」
大和
「そこへ縁様から連絡が来て、
真白様たちの元へ向かったら……」
澪斗
「悪鬼と交戦中だった理由ね……」
一通りの情報共有が終わった所で、
ふと、火の童子が優羽に視線を向けた。
「ほんで、優羽。
なんで、
あんな怪我させられるような隙を見せてもうたん?」
優羽は一瞬言葉に詰まり、
それから正直に口を開いた。
「……最初は、
笑成さんの気配しか感じられなかったんです」
「だから、
ユッキーちゃんを笑成さんの元に戻そうとして……
私から離れた、
その瞬間でした」
「悪鬼が、
笑成さんの中から……」
その光景が、
今も瞼の裏に焼きついている。
「その後は……
笑成さんを傷つけるわけにはいかなくて。
どうしても、
防戦一方になってしまいました」
あの場で守るべきものを選んだ。
それが正しい判断だったことも、
分かっている。
――それでも。
あの悪鬼の、
歪んだ笑みと滑稽な言葉を思い出すと、
胸の奥で、
静かに怒りが震え、
優羽は無意識に、
その掌を強く握りしめていた。
真白も、
静かに言葉を重ねる。
「僕でさえ、
悪鬼が出てくるまで気づけませんでした……」
そう言ってから、
真白はゆっくりと視線を巡らせた。
これまで幾度となく穢れと向き合ってきたが、
そのどれとも違う感覚が、
胸の奥に残っていた。
火の童子
「真白が気づけへんのやったら、
あたいら普通の眷属には、
もっと分からんわなぁ……」
真白
「直前まで、
穢れや悪鬼の気配が
消えていたこと自体が、
初めての経験でした……」
「……一体、
どうしてそんな事が出来たのか……」
澪斗
「龍神神社でも、
あの一帯での穢れの増幅は感知していたけど、
ここ最近より強く感じてはいましたね」
「だけど、
僕が気になるのは、
精霊を取り込もうとしたってことの方が、
気になるなぁ」
縁
「確かに、
本来精霊は悪鬼や穢れも祓える、
相対する存在なのに、
それを取り込んで強くなるとは……
にわかには信じられないけど……」
火の童子
「なんや、
訳わからんことばかりやし、
すっきりせんなぁー」
真白
「ただ、
今出来ることとしては、
もう一度あの商業施設を調べてみることくらいですかね……」
縁
「真白君の言う通り、
情報が足りなすぎる今、
あの建物の中で何が起きてるのか、
調べるしかないね」
大和
「でしょうね」
眷属たちの情報共有は、
空が夕焼けに染まりきるまで続いていた。
その中で語られた、未知の悪鬼の存在は、
境内に満ちる静けさとともに、
それぞれの心に、重く沈んでいった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は“願い”の形が、
少しだけ歪み始める場面を描きました。
この違和感が、これからどんな出来事へ繋がっていくのか――
見守っていただけたら嬉しいです!ヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。




