奪う者、守る者
皆さま、本日もお読みいただき本当にありがとうございます。
少しでも面白く読んでいただけたら嬉しいです!
(*´∀`*)
低く、粘つく声。
耳ではなく、魂の奥に直接触れてくるような囁き。
《逃がすものか……
やっと見つけた“精霊”を……》
見えない何かが、
ユッキーを包み込み、捕らえようとする。
逃げ場を塞ぐように。
黒い気配が、執拗にユッキーへとまとわりついた。
(ち、違う……!
これは……笑成じゃない……!)
魂の奥に、冷たい何かが触れる。
次の瞬間――
「ユッキーちゃん!!!!」
優羽と真白、
二人の声が同時に響いた。
その叫びに、ユッキーははっきりと悟る。
――これは、
“戻ろうとしている”のではない。
“取り込まれようとしている”のだと。
小さな光が、必死に抗うように震えた。
(やだ……!
あたしは……
あの子のところへ……!)
だが、黒い気配は容赦なく絡みつく。
人の形をしたそれの向こうで、
笑成の顔が――歪んだ笑みを浮かべた。
「ユッキー……」
低く、甘い声。
「やっと会えたね」
その目は、笑成のものではなかった。
狂気を孕んだ瞳が、
ユッキーだけを見据えている。
「ずっと……欲しかった」
黒いモヤが、腕のように伸び、
ユッキーを掴み取ろうとする。
「――やめなさい!!」
その瞬間、
優羽が叫びながら前に出た。
主神様の御守から、白い光が――
強烈な輝きを放ち、
ユッキーの小さな光を包み込んだ。
「ユッキーちゃん、ごめんなさい!
少し乱暴ですが――!」
白い光が、一直線に真白へと向かう。
「――っ!」
真白は即座に腕を伸ばし、
ユッキーを受け止めようと走り寄る。
だが同時に――
笑成の身体から、
黒い影が弾けるように飛び出した。
「逃がすか……!」
悪鬼もまたユッキーの光を手に入れようと、
小さな光に向かって突進した。
その刹那――
「――行かせないッ!!」
ドンッ!!
鈍い音が響く。
優羽の拳が、悪鬼の体を叩き伏せた――
悪鬼は地面に叩きつけられ、
うめき声をあげた。
その隙に、
ユッキーは真白の中へと逃げ込んだ。
(真白様……!!)
「ユッキーさん。
今は、僕の中にいてください。
――ここからは、僕が守ります」
だが、安堵は一瞬だった。
優羽の一撃が相当効いたのか、
「クソ……!
コイツら、人間じゃないな……!!」
悪鬼は忌々しげに吐き捨てると、
形勢が悪いと悟ったように、その身を翻した。
黒い影が揺らぎ――
次の瞬間、
それは再び、笑成の身体へと
染み込むように、溶け込んでいった。
「……っ!」
笑成の身体が、大きくのけぞった。
喉の奥から、獣のようなうなり声が漏れる。
「が……ぁ……」
背筋が不自然に反り、
全身がびくり、と痙攣する。
黒い気配が、内側から這い回るように
広がっていくのが――
はっきりと、分かった。
「邪魔を……するなァッ!!」
次の瞬間、
笑成は獣のように吠え、地面を蹴った。
「しまっ――」
優羽が叫ぶより早く、
拳が振り抜かれる。
防御の体勢を取ったはずの優羽の身体が、
強烈な衝撃とともに宙を舞った。
「――っ!!」
鈍い音を立てて地面に叩きつけられ、
優羽はそのまま転がる。
呼吸が乱れ、
苦悶の表情を浮かべたまま、動けない。
「優羽さん!!」
「優羽ちゃん!!」
真白とユッキーの声が、重なった。
だが、優羽は苦しそうなうめき声を上げて
立ち上がれないでいた。
真白の視線が、一瞬だけ揺れた。
「だめです!ユッキーさん、
僕から離れないでください!!」
(でも……!
優羽ちゃんが……!)
「今、出ても……戦力になりません!!
むしろ、優羽さんが守るべきものが
増えてしまう!!」
「それに、悪鬼の狙いはあなたです!
僕とここにいれば、
注意は必ずこちらに向きます!!」
そう言い終えるより早く――
笑成が、いつの間にか――
真白の目の前に立っていた。
伸ばされる手。
笑成の手から放たれた黒いモヤが、
再びユッキーを絡め取ろうとする。
「させません!!」
真白は御守を掲げ、
即座に結界を展開した。
白い光の壁が、
二人を包み込む。
「……なんだ、この結界は……」
ドンッ!
ドンッ!
「壊して……やる……!!」
見えない壁を、
笑成が、獣のように何度も殴りつける。
真白の声が、切迫する。
「ユッキーさん!!
笑成さんに声をかけ続けてください!!」
「精霊と共に過ごしていた身なら、
意識を取り戻せるかもしれません!!」
――その最中。
真白の視界の端に、
倒れたまま動かない優羽の姿が映った。
「優羽さん!!
……優羽さん!!」
返事はない。
真白の胸に、焦りが広がる。
ユッキーは、喉を震わせるように叫んだ。
「お願いよ……笑成!!
戻ってきて!!」
ドンッ!!
見えない壁が、激しく揺れる。
「優羽ちゃんと真白様を
傷つけないで!!」
ドンッ!!
ドンッ!!
白い光に、細かな亀裂が走った。
「あなたは強くて、
優しい子でしょ!!」
拳が叩きつけられるたび、
結界が悲鳴を上げる。
「あたしは……
ずっと見てきたんだから!!」
ひび割れる結界。
白い光に、無数の亀裂が走った。
結界が、限界を迎える。
「……っ!!
次で、砕けます!!」
「ユッキーさん、
絶対に……」
――ガシャァン!!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
次話もお付き合いいただけたら幸いです。
(。>﹏<。)




