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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
【小さな守り星再び!】

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43/50

再会と答え合わせ

皆さま、本日もお読みいただき本当にありがとうございます。


少しでも面白く読んでいただけたら嬉しいです!

(*´∀`*)



真白たちは、商業施設の裏手にある従業員出入口の前で足を止めていた。


表の賑わいが嘘のように、

建物の裏側は静まり返っている。


ときおり、遠くから車の走る音が聞こえるだけ。

風が吹くたび、落ち葉が足元をかすめて転がった。


優羽の内に宿るユッキーは、

落ち着かない様子で、何度も出入口の扉を見つめていた。


(……あの子……大丈夫かしら……

 さっき、あんなふうに倒れちゃって……)


ユッキーは胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


優羽の内側に伝わるその不安に、

真白は表情をやわらげ、穏やかな声で応えた。


「大丈夫ですよ、ユッキーさん」


真白は、扉の向こうを静かに見据えながら続ける。


「穢れを増幅させていた石は、

 もう腕から外れています。

 それだけでも、今はかなり楽になっているはずです」


(……ほんと……?)


「ええ。

 それに――」


真白は、ふっと視線を和らげた。


「今度は、僕たちがそばにいます。

 一人で抱え込まなくていいのですよ」


その言葉に、

ユッキーの胸のざわめきが、ほんの少しだけ和らいだ。


(……ありがとう……真白様……

 それに……優羽ちゃん……)


すると、優羽がぱっと明るい声で続ける。


「お礼だなんて。

 ユッキーちゃんが守護精霊なんですから、

 私たちは、ほんの少しお手伝いしてるだけですよ」


その言葉に、

ユッキーの胸の奥が、じんわりと温かくなる。


真白は小さく微笑み、穏やかにうなずいた。


「……そういうことです」


そのとき――


ガチャリ、と控えめな音がして、

従業員出入口の扉が、内側から開いた。


思わず、全員がそちらへ視線を向ける。


ゆっくりと姿を現したのは――


少し疲れた様子で、外へ出てきたご主人だった。


顔色はまだ悪いが、

先ほどよりも、どこか落ち着いた表情をしている。


ユッキーの心臓が、

どくん、と大きく跳ねた。


(……あの子……)


思わず、呼びかけそうになるのを必死に堪える。


ご主人は、周囲を見渡し、

真白と優羽の姿を見つけると、

ほっとしたように、わずかに肩の力を抜いた。


「……お待たせしました」


その声は、まだ少し掠れていたが、

確かに“いつもの”ご主人のものだった。


ユッキーは、ほっとしたように息をついた。


優羽はうかがうように言う。


「無理はしないでくださいね。

 歩けそうですか?」


「はい……少し、ふらつきますけど、

 改めてよろしくお願いします、白石 笑成えなです」


そう言って笑成は、

気遣わせまいと、そっと笑みを作った。


その仕草を見て、

ユッキーの胸が、きゅっと締めつけられる。


(……あの子……無理してる……)


真白は周囲の様子を確かめるように視線を巡らせ、静かに告げた。


「ここは、人目につきやすいですね。

 少し歩いたところに、小さな公園がありました」


「公園……?」


真白は少しだけ言葉を選ぶようにして、穏やかに続けた。


「……すぐにお家へ戻る前に、

 少しだけ、お話ししたいことがあります」


笑成は一瞬、きょとんとしたように瞬きをする。


「……え?」


真白は、笑成を気遣うように、やさしく問いかけた。


「今……

 ご自身の中に、“違和感”はありませんか?」


笑成は無意識のうちに、自分の胸元へと手を当てた。


「……正直に言うと……

 さっきよりは、楽になった気はします」


少し言い淀み、視線を伏せる。


「でも……

 まだ、変な感じがして……」


真白は、その言葉を受け止めるように小さくうなずいた。


「……実は、今日は

 ユッキーちゃんにお願いされて、

 あなたに会いに来ました」


その穏やかな声に、

笑成の表情から、わずかな緊張が抜けていく。


「えっ……ユッキーですか……?」


ユッキーは優羽の内側で、その様子を見守っていた。


(お願いよ……

 真白様たちの話を、聞いてちょうだい……)


笑成はしばらく黙り込み、

足元を見つめたまま、浅く息を吐く。


そして、小さくうなずいた。


「……ユッキーからのお願いなら、聞きたいです」


こうして三人は、

落ち着いて話ができそうな近くの、小さな公園へと、

静かに歩き出した。


公園は、

遊具も少なく、ひっそりとした静かな場所だった。


ベンチが二つ。

木陰に落ちる影が、ゆっくりと揺れている。


笑成はベンチに腰を下ろすと、

深く息を吐いた。


「……今日は、本当に色々とありがとうございました」


少し間を置いて、視線を落とす。


「……それで、

 ユッキーからのお願い、って……

 どういうことなんですか」


迷うように、言葉を探してから続けた。


「……ユッキーは……

 まだ、そばにいてくれてたんですか?」


真白は、笑成を気遣いながら穏やかな声で答えた。


「ええ。

 あの日、神社でユッキーちゃんの想いをあなたにお伝えしましたよね」


笑成は、小さくうなずく。


「その日からずっと……

 ユッキーちゃんは、あなたの中で見守っていました」


「ですが――」


真白は一度、言葉を選ぶように間を置いた。


「昨日、あなたの中から弾き出されてしまって戻れなくなってしまったようです。

 それで……僕たちのもとへ、助けを求めて来ました」


笑成は、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。


「……そう、だったんですね……」


真白は続けた。


「あなたの元気のない様子を、

 ユッキーさんはとても心配していました」


「お仕事へ行くと、元気がなくなる。

 でも、ご自宅へ戻ってくると――」


そこで、ほんのわずかに表情を和らげる。


「ユッキーさんが励ますと、

 少し元気を取り戻していた、と」


笑成は、はっとしたように顔を上げた。


「……言われてみれば……」


視線を遠くにやりながら、ぽつりとこぼす。


「家に帰ると……

 不思議と、疲れが抜けてた気がします」


真白は、静かに問いかけた。


「……失礼ですが。

 今のお仕事は、辛いですか?」


笑成は、少しの間黙り込んだあと、

小さく息を吐いた。


「……前は、やりがいもあって……

 楽しかったんです」


けれど、と言葉を継ぎ、声がかすれる。


「今の店長が異動してきてから……

 お店の雰囲気が、変わってしまって……」


「売上が取れないと、すぐ叱責されますし……

 お客様の求めていない商品を、

 “強化商品”って言って、それしか勧められなくなって……」


拳を握りしめ、唇を噛む。


「自分の思うように、

 お客様と向き合えなくなってしまって……」


最後は、ほとんど囁くように。


「……今は、正直……辛いです」


笑成の頬に、涙が一筋伝った。


「……私が、こんなに情けないから……

 ユッキーも、成仏できなかったんでしょうか……」


その瞬間。


優羽の胸の奥から、

強い想いが溢れ出した。


「そんな事ありません!!」


優羽は、思わず笑成のそばに膝をつき、

笑成の手にそっと手を重ねる。


「あなたは、ずっと頑張ってたじゃないですか!」


「何度も怒られながらも、

 投げ出さないで!……って」


「ユッキーちゃんが、そう言ってますよ」


その言葉に、笑成の肩が小さく震えた。


「……ユッキー……

 いるんですね……」


声を詰まらせながら、続ける。


「ごめんね……

 私が、弱いせいで……」


真白は、困ったように、けれど優しく微笑んだ。


「いえ。

 ユッキーさんは“成仏できない”のではありません」


「むしろ――」


穏やかに、言葉を紡ぐ。


「あなたを守りたいと強く願った結果、

 守り星のような存在になったのでしょう」


笑成は、思わず目を見開いた。


「……ユッキーが……

 私の、守り星……?」


真白は、やわらかな微笑みを浮かべてうなずく。


「はい。

 とてもご主人思いで……頼もしい守り星だと、

 僕は思いますよ。

 ね、優羽さん」


「はい」


優羽も、そっと笑ってうなずいた。


「私も、そう思います。

 ユッキーちゃん、とても一生懸命で……

 あなたをとても大切に想っていますね」


その言葉に、笑成の胸がきゅっと締めつけられる。


「……優羽さんも、

 ユッキーが見えるんですか?」


「はい。

 私、昔から少しだけ……

 不思議なものが見えたり、感じたりするんです」


「そうなんですね……」


笑成は、少しだけ視線を落とし、

それから小さく微笑んだ。


「……うらやましいな。

 私も……

 ユッキーに、もう一度会いたいです……」


真白は、その想いを静かに受け止めた。


そして――

少しだけ慎重に言葉を選ぶようにして、続ける。


「……そのお気持ちは、ユッキーちゃんにもきちんと伝わっています。

 ユッキーちゃんも、笑成さんの元に戻りたいと話していました。


 ただ、そのためにも……

 ひとつだけ、教えていただけますか」


真白は、穏やかに言葉を続けた。


「昨日、ユッキーさんは一度、

 あなたの中から弾き出されてしまい、

 そのあと……

 どうしても、元に戻れなくなってしまったそうです」


笑成は、はっと息を詰める。


「いつもと違う、と感じることはありませんでしたか?」


「あるいは……

 昨日、いつもとは違う行動をしたなど、

 何か心当たりはありませんか?」


真白は、相手を気遣うように問いかけた。


笑成は視線を落とし、しばらく考え込むように黙った。


指先が無意識に絡まり、

やがて――はっとしたように顔を上げる。


「……あ」


「昨日……」

少し戸惑いながら、言葉を選ぶ。


「天然石のブレスレットを……

 外すのを、忘れてました」


真白と優羽の表情が、同時に引き締まった。


「いつもは、家に帰ったら外すんです。

 ……あれをつけてると、どうも苦しくなる気がして」


「でも昨日は……

 一日中そのままで……」


「寝る前に、ようやく気づいて外しました。

 ……それくらいしか、思い当たらなくて」


真白と優羽は、視線を交わした。


「……やはり」


真白が静かに言う。


「もしかしたら……

 そのブレスレットが原因だったのかもしれませんね」


優羽も、そっと頷いて続けた。


「ユッキーちゃんも……

 あのブレスレット、すごく嫌だって言ってます」


真白は、笑成へと視線を戻す。


「今後は、ご自宅では付けないほうが良いかもしれません」


「今は……付けていませんよね?」


笑成は、自分の手首を見て、うなずいた。


「はい。

 ……さっき、切れてしまったので」


その言葉に、真白の表情がわずかに和らぐ。


「それなら……」


真白は、穏やかな眼差しのまま、静かに続けた。


「もし原因がそのブレスレットであれば、

 ユッキーちゃんも、あなたの中に戻れる可能性があります」


「……一度、試してみましょうか」


優羽も、そっと背中を押すように言う。


「そうですね。

 今なら……できると思います」


その瞬間――


優羽の内側で、

小さな、強い想いが動いた。


(優羽ちゃんありがとう!)


胸の奥が、ふわりと温かくなる。


(……今……?)


優羽は小さく息を呑み、

笑成のほうへ一歩近づいた。


真白も、その変化に気づく。


「……ユッキーちゃん」


見えないけれど、

確かに“そこにいる”気配。


ユッキーは、優羽の内側からそっと離れ、

笑成の胸元へと向かって――


小さな光となって、

静かに、静かに、移ろうとしていた。


(……良かった……

 また……あなたの中に、戻れそう……)


胸の奥が、ふわりと温かくなる。


(……また、そばで守れる……)


そう思った瞬間だった。


――


《……やっと、手に入れた……》


ユッキーの小さな光が、びくりと震えた。


(……え……?)


次の瞬間――


優羽の叫びが、鋭く空気を裂いた。

同時に、真白も叫び踏み出す。


真白・優羽「ユッキーちゃん!!!!」



最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


次話もお付き合いいただけたら幸いです。

(。>﹏<。)

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