表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
【小さな守り星再び!】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/50

キラキラの中の澱み

今回もお読みいただき、ありがとうございます。

読んでいただける事がとても嬉しです!

(*´∀`*)


少し離れた場所で、三人は足を止めた。


まだ施設のガラス扉は固く閉ざされており、

中に入れる気配はない。


真白は空を見上げ、

時間を測るように静かに言った。


「……オープンまで、まだ少し時間がありますね。

 中に入った後の動きを、ここで整理しておきましょう」


優羽が小さくうなずく。


「そうですね。

 慌てて入るより、そのほうが安全です」


真白はユッキーへ視線を向けた。


「ユッキーさん。

 ご主人は、この施設の中で、

 どのようなお仕事をされていましたか?」


「えっとね……」


ユッキーは少し考えるように首をかしげ、

ぽわっとした表情で答えた。


「キラキラした物が、いっぱいあったわ」


「……キラキラ、ですか?」


真白が聞き返すと、

ユッキーはうんうんと大きくうなずいた。


「そう!

 キラキラしてて、ぴかぴかしてて……

 あの子、いろんな人とおしゃべりしながら、

 そのキラキラした物を、首につけてあげたり、

 腕につけてあげたりしてたの!」


優羽がはっとしたように声を上げる。


「それって……

 アクセサリー屋さん、でしょうか?」


「なるほど……」


真白は少し考えるように、

顎に手を添えた。


「アクセサリー専門店の可能性もありますし、

 雑貨屋という線も考えられますね」


そう言ってから、

真白はユッキーへと視線を戻した。


「ただ……悪鬼と穢れの気配が強く、

 こちらから正確な場所を特定するのは

 難しいかもしれません」


そして、ユッキーを安心させるように、

穏やかに続ける。


「その場合は、ユッキーさん。

 中に入ったら、ご主人が働いていた場所まで、

 案内をお願いできますか?」


ユッキーはぱっと表情を明るくした。


「もちろんよ!

 案内なら、あたしに任せてちょうだい!」


その声には、先ほどまでの不安はなく、

代わりに小さな自信が宿っていた。


真白は思わず微笑む。


「……頼もしいですね」


その時――


入口の脇に立っていた警備員が、

時間を確認するように腕時計へ目を落とした。


小さくうなずくと、

ゆっくりとガラス扉へ手を伸ばす。


ガチャリ、と控えめな音。


内側の鍵が外され、

警備員の手によって扉が押し開かれた。


それを合図に、

待っていた人々が一斉に動き出す。



透明なガラス扉が静かに開かれ、

商業施設の中の空気が、

外へと流れ出してきた。


優羽が小さく息を吸う。


「……開きましたね」


真白も静かにうなずいた。


ユッキーは小さな拳をぎゅっと握りしめ、

建物を睨みつけるように前を向いた。


「待ってなさい……黒い奴!

 今度こそ、絶対に負けないんだから!」


「大丈夫。ユッキーちゃん。

 私の中にいる限り、ちゃんと守るから」


優羽の内に宿る神気が、

やわらかく揺れた。


その言葉と同時に、

ユッキーの胸に、

静かなぬくもりが広がっていった。


(ありがとう、優羽ちゃん!)


そして――


ゆっくりと扉が開き、

人々が施設の中へと吸い込まれていく。


その流れに紛れるように、

ユッキー、真白、優羽の三人もまた――


静かに、

しかし確かな決意を胸に、

商業施設の中へと足を踏み入れた。


――その瞬間だった。


真白と優羽は、

思わず足を止める。


人のざわめきは確かにあった。


けれど――

その喧騒の奥で、

別の“気配”が、

確かに息を潜めていた。


あちこちに漂う、

重く濁った気配。


目に見えない霧のように、

そこかしこに“穢れ”が滲み出している。


(……多いですね)


真白は内心でそう呟いた。


優羽もまた、

無意識に背筋を伸ばす。


「……こんなにも……」


小さく漏れた声に、

真白は周囲を見渡しながら頷く。


「……ええ。

 やはり、これでは――」


静かに続ける。


「この中から、

 ユッキーさんのご主人がいた場所を

 こちらから特定するのは

 難しそうですね」


その言葉に、

優羽の胸の奥で、

ユッキーがはっと息を呑んだ。


(だ、大丈夫よ……!

 あたし、分かるわ……!)


優羽の内側から、

ユッキーの声が、

少しだけ弾む。


(入り口の近くに、

 動く階段があるの。

 そこを上がってすぐ……

 キラキラしたお店よ!)


優羽はその声に、

そっと頷きながら前を向いた。


「真白様。

 ユッキーちゃんが、

 場所が分かるそうです」


真白は小さく息を整え、

優羽へと目を向けた。


「……案内を、

 お願いできますか?」


「はい」


優羽は小さく答え、

ユッキーの案内に耳を澄ませながら、

歩き出した。


真白もその少し後ろにつき、

三人は人の流れに紛れて進んでいく。


(……こっちよ。

 そう……そのまま……)


進むにつれ、

空気はさらに重さを増していく。


優羽は眉をひそめ、

小さく呟いた。


「……どうして、

 こんなにも穢れの気配が

 多いのでしょう……」


真白は歩みを止めず、

低く答える。


「人が集まり、

 感情が行き交う場所ですからね。

 そこに悪鬼が潜んでいれば、

 穢れが増幅されるのも

 不思議ではありません」


そして、

声を落として続けた。


「優羽さん、ユッキーさん。

 おそらく悪鬼も、

 こちらの神気には

 気づいているはずです」


優羽の表情が引き締まる。


「もし、何か異変を感じたら――

 一度、神社へ戻りましょう。

 無理に進むのは危険です」


「……ええ」


優羽は静かに頷いた。


「悪鬼の力量が分からない今は、

 慎重に動いたほうが

 良さそうですね」


その会話を聞きながら、

ユッキーは優羽の胸の奥で、

きゅっと小さな拳を握りしめる。


(……大丈夫。

 あの子のいた場所……

 もうすぐ、そこよ……)


キラキラと光を反射する店が向こうに、

確かに見え始めていた。


(あそこよ……!

 あの子が、いるわ……!)


優羽の内側で、

ユッキーの意識が強く震えた。


視線の先――

ガラスケースに囲まれた一角に、

ユッキーのご主人の姿があった。


そこは、

天然石を扱う店だった。


大小さまざまな石が並び、

照明を受けて

きらきらと光を反射している。


けれど――

ユッキーの胸に広がるのは、

苦しさに近い、

嫌な感覚だった。


(……違う……

 キラキラしてるのに……

 苦しい……)


優羽の中で、

ユッキーは思わず身をすくめた。


真白と優羽は視線を交わし、

言葉を交わさぬまま、

店内へと足を踏み入れる。


――その瞬間。


真白の眉が、

わずかにひそめられた。


(……やはり)


店内に満ちているのは、

濃く、重く、

澱んだ穢れ。


人の感情が染み込み、

積み重なり、

逃げ場を失ったような気配。


だが――


(それだけではない……)


真白は、

ご主人のほうへと

静かに視線を向けた。


ユッキーのご主人から感じ取れるのは、

疲弊と、

心の摩耗による穢れの気配のみで、

悪鬼そのものの気配ではない。


(……それなのに、

 ユッキーさんは弾かれ、

 戻れなくなった……)


違和感が、

胸の奥で静かに広がる。


その時だった。


「……あれ?」


店内にいたご主人が、

ふと顔を上げた。


視線が真白と優羽を捉え、

次の瞬間、

はっと目を見開く。


「……お客様?

 もしかして……

 以前、神社で……?」


真白は小さく会釈した。


「はい。

 当神社にご参拝に

 来られてましたよね。

 こちらで働いて

 いらっしゃったのですね」


ご主人の表情が、

わずかに緩む。


「やっぱり……!

 あの時は、

 本当にありがとうございました」


そう言いながらも――

その声には、

以前のような明るさはなかった。


優羽は、

胸の奥がざわつくのを感じる。


(……穢れが、強い……

 でも……おかしい……)


その時――


ご主人の視線が、

ふと店内に並ぶ

色とりどりの天然石へと移った。


柔らかな灯りを受けて、

石たちは静かに輝いている。


「本日は……

 ご自分用でしょうか?

 それとも、

 プレゼント用ですか?」


にこやかな、

けれど

どこか力の抜けた声。


真白は一瞬だけ

優羽へ視線を送り、

穏やかに答えた。


「妹の誕生日でして。

 その贈り物を

 探しているのです」


優羽は少し驚いたように

目を瞬かせるが、

すぐに話を合わせる。


ご主人は、

ぱっと表情を和らげた。


「それは、

 おめでとうございます」


そう言って、

石の並ぶ棚へと手を伸ばす。


「お好きな石は、

 ございますか?」


優羽は少し困ったように笑った。


「実は……

 天然石には

 あまり詳しくなくて。

 でも、

 どれも綺麗ですね」


その言葉に、

ご主人は

ゆっくりとうなずく。


「でしたら――

 直感で選んでいただくのも、

 悪くありませんよ」


石たちを見渡しながら、

続ける。


「お誕生日の贈り物でしたら、

 ブレスレットにするのが

 おすすめです。

 身につけやすくて、

 気持ちも込めやすいですから」


――その時だった。


「いらっしゃいませ」


背後から、

低く、

粘つくような声がした。


空気が、

ぴたりと変わる。


真白と優羽は、

同時に背筋を強張らせた。


ゆっくりと振り返ると、

そこに立っていたのは――


濃い悪意の気配をまとった、

人物だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


明日も更新いたしますので、次回もお付き合いいただけたら幸いです。(*´∀`*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ