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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社便り】眷属と主神様が織りなす物語  作者: 稲荷寿司
【小さな守り星再び!】

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静かな偵察

本日もお読みいただき、ありがとうございます。

読んでいただける事が嬉しいです!

今回のお話も、

そっと見守っていただけたら嬉しいです。(*´∀`*)


---


夜が、まだ完全には明けきらない頃。


境内は薄い群青色の空気に包まれ、

東の空の端だけが、わずかに淡い色を帯び始めていた。


冷えた空気が、静かに肌を撫でる。

木々の葉は音もなく揺れ、

境内には、まだ朝と呼ぶには早すぎる静けさが満ちていた。


ユッキーは、ほとんど眠れないまま夜を越していた。


(あの子……大丈夫かしら……)


ご主人のことを思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

目を閉じても、心配ばかりが浮かんできて、

落ち着くことができなかった。


優羽の部屋についてからは、

おしゃべりや慌ただしい様子に少しだけ気が紛れたけれど、

それでも不安が消えることはなかった。


――その時。


かすかな物音が、境内の方から聞こえた。


(……?)


耳を澄ますと、

砂利を踏むような、静かな気配。


ユッキーは、そっと部屋を出て、

物音のした方へと向かった。


境内の中央。

そこに――一匹の白い狐がいた。


月明かりの残る薄闇の中、

柔らかな毛並みが、ほのかに光を帯びている。


(……あら?)


胸の奥が、少しだけざわめく。


(気配は……真白様、なのよね……?

 でも……あの狐さんは……)


(真白様の……使いの方、かしら……?)


そう思いながらも、

不思議と怖さは感じなかった。


ユッキーは、そっと近づいて、

小さな声で声をかける。


「お、おはようございます……。

 狐さん、はじめまして。

 私は……ユッキーと申します」


狐は、ゆっくりとこちらを向いた。


そして、穏やかな声で答えた。


「ユッキーさん。おはようございます」


その声に、ユッキーは目を丸くする。


「え……?」


「僕ですよ。真白です」


次の瞬間、

白い狐の姿が、柔らかな光に包まれた。


光がほどけるように消えると、

そこには、いつもの見慣れた眷属の姿が立っていた。


「ま、真白様……!?」


真白は、少し申し訳なさそうに微笑む。


「驚かせてしまいましたね。

 夜更けや夜明け前は、狐の姿に戻ることが多いのです」


そう言って、静かに続けた。


「やはり……元の姿の方が、落ち着くもので」


夜明け前の静かな境内に、

狐と眷属の気配が、溶け合うように残っていた。


---



「真白君、ユッキーちゃん。おはようございます。

 真白君が早いのは、いつものことだけど……

 ユッキーちゃんは、眠れなかったのかな?」


ユッキー

「あっ、はい……。

 なんだか、眠くなくて……」


真白

「ご主人の事が心配で、眠れなかったのでしょうね。

 ……しかたのないことです」


そこへ――


「大変ですー!!!

 ユッキーちゃんが! 起きたらユッキーちゃんがっ!」


「……って、あれ?

 ユッキーちゃん!!」


「起きたらいないから、ビックリしましたよ!」


「あっ、縁様! 真白様!

 おはようございます!!」


(相変わらず、朝の挨拶だけ大きいんだよね、この子)


真白

「優羽さん、おはようございます」


ユッキー

「お、おはようございます……優羽ちゃん。

 朝から、すごい元気なのね」


「紡君は、また寝坊か……。

 まぁ、いいでしょう」


ユッキー

(えっ!?)


「それじゃあ、改めて──おはようございます。


 今日は昨日話した通り、

 真白君と優羽さんには

 ユッキーさんのご主人の様子を確認してきてもらいます。


 主神様のお守りは、必ず身につけていってね」


ユッキー

「あのぅ……。

 真白様と優羽さんは眷属なのに、

 主神様のお守りが必要なんですか?」


真白

「はい。


 この神社の中では、

 縁様が強い結界を張ってくださっていますから問題   ありません。


 ですが、ここを離れると──

 何かあった時に、縁様の結界の力が及ばないのです」


優羽

「でもね!


 主神様のお守りを持っていれば、

 主神様の神気で包まれるから、

 縁様の結界と同じ効果があるんですよ!」


「だから、ユッキーちゃんも安心して。

 私の中にいてね!」


そして、優羽はぱっと表情を輝かせた。


「それから──

 私のことは“優羽”って呼んでほしいです!

 昨日、あんなに仲良くなったじゃないですか!」


ユッキーは目を丸くする。


「えっ……!?

 い、いきなり呼び捨てなんて……」


少し考えてから、恐る恐る言った。


「……じゃ、じゃあ……

 “優羽ちゃん”って呼んでもいいかしら?」


優羽

「もちろんです!!」


声が弾み、

優羽がぱっと笑顔になる。


「ユッキーちゃんのことは、

 私がちゃんと守るから!

 安心してね!」


ユッキーは小さく息を吸い、

こわばっていた胸が、少しだけゆるむのを感じた。


「ありがとう優羽ちゃん……こちらこそ、

 よろしくお願いします」


それを見て、真白が静かに頷く。


真白

「準備も整いましたね。

 まずはユッキーさんのお家へ向かいましょう。


 ご主人が、今日も仕事へ向かうのかどうか……

 それを確認するところからです。


 ユッキーさんは、優羽さんの中へ入ったら

 道案内をお願いします」


ユッキー

「は、はい……!」


優羽はにっこりと笑い、両腕をぱっと広げる。


優羽

「では、どうぞ!」


ユッキーは少しだけ緊張した様子で、

ぺこりと小さく頭を下げた。


ユッキー

「……し、失礼します……」


そう言って、そっと優羽の中へ入る。


一瞬、ふわりと温かな気配に包まれ、

ユッキーの存在は静かに優羽の内へと溶け込んだ。



---


やがて、一行は

ユッキーのご主人の家の前へと辿り着いた。


まだ朝の気配が残る住宅街は、

ひっそりと静まり返っている。


真白は周囲にそっと意識を巡らせ、

優羽もまた、目を閉じて気配を探った。


……だが。


異変は、ない。

穢れの気配も、感じ取れなかった。


優羽

「……今のところ、変わった感じはないですね」


真白

「ええ。負の気配も、穢れも……今は見当たりません」


それを聞いても、

ユッキーの胸の奥の不安は、消えなかった。


(……お願い……

 どうか、無事でいて……)


その時。


玄関の扉が、静かに開いた。


ユッキー

「……っ!」


視線の先に現れたのは、

見慣れた、ご主人の姿だった。


ユッキー

「出てきたわ……」


ご主人は、何事もない様子で、

そのまま家を出て、歩き始める。


ユッキー

「……あの子……

 会社に行くのね……」


その背中は、いつもと変わらない。

朝の空気の中へ、当たり前のように溶け込んでいく。


けれど――

その“いつも通り”が、

今のユッキーの胸を、強く締めつけた。


(お願い……

 どうか……今日だけは……)


呼び止めることもできない。

そばに寄り添うことさえ、叶わない。


小さな胸に溢れる想いを抱えたまま、

ユッキーは、ただ祈るようにその背中を見つめ続けた。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回はいよいよ偵察に入ります。

また続きを読んでいただけたら、とても励みになります。(。>﹏<。)


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