【真白特製の琥珀糖】
本日もお読みいただきありがとうございます。(*´∀`*)
今回は、巫女編を経て少し日常へと戻るお話です。
真白・紡・優羽の三人が見せる、ちょっとにぎやかで、
でもどこか温かなひとときをお楽しみいただければ嬉しいです。
そして——
真白特製の“琥珀糖”が、思わぬ形で活躍する一幕も……?
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
「というわけで――真白君は眷属として誕生したのち、
天界で長い修行を重ね、この神社へとやって来たわけですよ。」
縁はどこか懐かしむように目を細める。
「真白君があんなにも人に寄り添えて、
底抜けに優しい理由……それはきっと、生まれの影響でしょうね。」
主神様が突然“人の魂”と“子狐”を連れて
天界に戻ってきたあの日のことは、今でも忘れません。
「眷属はそう頻繁に生まれるものではありませんからね。
私も久しぶりに“新しい命”を見ましたが……
生まれたばかりの真白君は、とても可愛らしかったですよ。」
そんな思い出に浸っていると、
ちょうど業務を終えた真白君が、こちらへ歩いて来た。
「縁様。
……僕の“子狐の頃”の話は、もうお辞めください。」
縁は肩をすくめ、困ったように笑って返します。
「だって真白君の昔の話、紡君と優羽君が聞きたいって言うからですよ?」
真白はぴたりと動きを止め、
ゆっくりと紡と優羽に視線を向けました。
そして——目を丸くする。
「……え? なんでお二人ともそんなに泣いてるんですか……」
そこには、滝のように涙を流す紡と、
ぐしぐしと目をこする優羽の姿がありました。
紡は鼻をすすりながら叫ぶように言います。
「だって……!
その秋穂様と稲人様の二人が……可哀想で……っ!」
優羽も涙声で続きます。
「……お話、ずっと切なくて……っ……」
真白は静かに頷き、言葉を添えた。
「確かに流行り病によって、あのお二方は哀しい運命を辿ってしまいました。
ですが——主神様の計らいで、秋穂様は想い人が天上へ昇るまで神域に留まることを許されました。
そして……天寿を全うした想い人と、再び会うことも叶ったのですよ。」
その言葉に、
紡と優羽はさらに「うぅ〜〜……」と涙をこぼし、
真白は完全に困惑した顔で固まっていると——
優羽が、涙をぽろぽろ落としながら訴える。
「で、でも……!
せっかく天上でまた会えたのに……
すぐに転生しちゃうから……
結局、ほんの少しの間しか一緒にいられなかったんじゃないんですか……?!」
声が震え、涙が止まらない。
真白はそんな二人の様子に小さく息をつく。
(……この二人は、眷属なのに本当に人に近い心を持っているのですね)
どこか感心したように目を細めたあと、
穏やかな声で答えた。
「あぁ、それでしたら大丈夫ですよ。
主神様の計らいで——
平穏な来世で夫婦として生を受けられるよう、
二人一緒に転生させていただけましたから。」
その一言に、
紡「うわぁぁん! よがっだぁぁぁ!!」
優羽「よがっだぁああ!! 主神様ありがとうございますぅぅぅ!!」
と、さらに大号泣する二人。
真白はますます困った顔になり、
縁は「ふふ……」と肩を震わせていた。
「と、とにかく……!
紡も優羽さんも、まずは落ち着いてください!」
真白は完全にオロオロしながら、
泣きじゃくる紡と優羽の前で右往左往する。
(そもそもなんでこの2人はこんなに泣いてるんですか…)
そんな真白の混乱をよそに——
紡「うわぁぁぁん……秋穂様ぁ……!」
優羽「ひぐっ……稲人様ぁぁ……!!」
涙が止まらず、むしろ勢いを増していく。
(ど、どうしたら……!)
真白は焦りのあまり、
懐からそっと小さな包みを取り出した。
「し、仕方ありません……これをどうぞ!」
差し出されたのは——
真白特製の“浄化の琥珀糖”。
紡と優羽は泣きながらも、
反射的にぱくりと口へ放り込む。
もぐ……もぐ……。
次第に涙がぴたりと止まり、
ほんのり白い光がふわりと二人を包んだ。
紡「……あれ……落ち着いてきました……」
優羽「なんか……胸が軽くなって……」
真白は胸をなでおろし、ほっと息をつく。
「よ、よかった……。
琥珀糖、多めに作っておいて……。
“情動の暴走”を鎮める成分が入っていますからね……」
その隣で、縁は肩を揺らしながら微笑んだ。
「ふふっ……真白くんがあんなに焦るなんて、珍しいですねぇ」
真白「っ……縁様、今はからかわないでください……!」
---
琥珀糖の光が消える頃には、
紡と優羽の呼吸もすっかり落ち着いていた。
二人はそろって真白の前に立ち、
申し訳なさそうに頭を下げる。
紡「……真白さま、すみませんでした……
取り乱して……」
優羽「わ、わたしも……っ。
なんか……感情が溢れちゃって……」
真白はやわらかく首を振った。
「いえ、お二人の気持ちはよく分かりますから。
秋穂様と稲人様のお話は……どうしても胸に響きますよね。」
二人はほっと息をつく。
そこへ縁が手をぱん、と軽く叩いた。
「さて。
皆が落ち着いたところで……本題に入りましょうか。」
紡と優羽は姿勢を正し、
真白も小さく頷く。
縁は穏やかに続けた。
「来月は神無月。
近隣の神社との合同会合があります。
今年は私と真白くんが出向く予定です。」
紡の耳がぴくっと動いた。
「真白さまも……ですか?」
真白は少し照れた様子で答える。
「はい。
今年は私も同行するよう主神様から仰せつかりました。
それと……」
縁がくすっと笑う。
「紡くんの成長もあってね。
真白くんから“1日程度なら任せても大丈夫”という報告も受けています。」
真白「縁様……言い方が少し……」
紡はぱちぱち瞬きをし、顔を明るくした。
「ほ、本当ですか!?
僕……真白さまの補佐がちゃんとできるようになってるんでしょうか……!」
真白は優しく頷いた。
「ええ。
紡はよく頑張っていますから。
留守番を安心して任せられますよ。」
優羽も嬉しそうに胸に手を当てる。
「じゃあ……私と紡でお留守番ですね!」
縁は二人の頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「そういうことです。
私と真白君が留守の間、神社のこと、よろしく頼みますよ、紡くん、優羽くん。」
二人は同時に、力強く頷いた。
紡・優羽「はい!!」
縁はそこで、ふっと表情を引きしめ、
「ただし――紡くん。
備品の取り扱いには注意してくださいね?」
その言葉に、紡はびくっ!と肩を跳ねさせる。
「ひ、はいっ……! 気をつけます……!!」
優羽は横で「また何かやったの?」と小声で囁き、
紡は「な、何も……ない……はず……」とさらにオロオロ。
そんな二人の姿を見て、真白はそっと微笑んだ。
(……本当に、二人とも立派になりましたね)
神無月に向けた準備と、
新たな日常へ続く扉が——
静かに、確かに、開かれようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(*´∀`*)
今回は、真白の優しさと、
紡&優羽の素直さがあふれるにぎやかな回となりました。
琥珀糖がここまで大活躍するとは……真白自身も想定外だったかもしれませんね。
この後は、神無月に向けた合同会合編へと進んでいきます。
少しだけ非日常に足を踏み入れる、
新たな展開を楽しんでいただければ幸いです。
引き続き、真白たちをどうぞよろしくお願いいたします。
稲荷寿司




