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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
【豊穣の舞に遺された想い】

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【終章】 最終話・誓う者と支える友

いつもお読みいただきありがとうございます。

(*´∀`*)

今回は、秋穂の文を読んだ稲人が、

大切な人の願いと向き合い、

新たな一歩を踏み出すまでの物語となります。


少し胸の痛む場面もありますが、

どうか稲人たちの選んだ未来を

そっと見守っていただければ幸いです。




---


秋穂の墓前に、

稲人は膝をついていた。


涙で濡れた手元には、

読み終えたばかりの文が、まだそっと握られている。


「……秋穂様……

 ……ずるい……

 ずるいですよ……」


絞り出すような声がこぼれた。


胸の奥が、痛みに焼けただれるようで、

呼吸さえ、うまくできない。


「……こんな言葉を残して……

 どうして……

 俺を置いていって………本当に……ずるい……」


胸の奥から、絞り出すように声が漏れた。


「……そんな“お願い”を残して……

 俺が……秋穂様のお願いを断れないって……

 知ってて……言ったんでしょう……?」


「……本当に……ずるすぎますよ……秋穂様……」


崩れ落ちた肩が、嗚咽のたびに小さく震える。


「……本当に……ずるい……」


深い静寂の中、

稲人の悲痛な声だけが、

しばらくのあいだ、墓前に落ち続けた。


やがて。


涙が流れ尽くし、

呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻し始めたころ。


背後から、砂利を踏む、静かな二つの足音が近づいてきた。


「……稲人様」


そっと呼びかけたのは、繋だった。

その隣には、幼なじみが、気遣うように控えて立っている。


二人とも、稲人の返答を急かすことなく、

ただ静かに立ち尽くしていた。


稲人は、ゆっくりと顔を上げ、

腫れた目をぬぐいながら、ふたりの方へ振り返った。


しばらく言葉が出ず、喉が震える。

けれど、息をひとつのみ込んで——


「……もう、大丈夫です。」


その声は弱く、かすれていた。

それでも、その奥には揺るがない決意があった。


「……秋穂様の……最後の願いです。

 必ず……叶えてみせます。」


拳が静かに握られる。


「どれほど……つらくても……

 苦しくても……」


「……あの方が望んだ未来を……俺が、背負います。」


風が揺れ、墓前の草がさわりと鳴った。

涙はまだ完全には乾かない。


胸の痛みも、まるで居場所を失わずにそこに残っていた。


その傍らで、

繋と幼なじみは、稲人の背をそっと見守っていた。


それでも——

稲人のまなざしは、ゆっくりと前へ向いていた。


そっと手を伸ばし、

新しく据えられたばかりの墓標の石を——

まるで、そこに秋穂がいるかのように、

やさしく撫でた。


ひやりとした石肌。

その冷たさが、秋穂がもう触れられない世界へ行ってしまったことを

静かに伝えてくるようだった。


「……秋穂様……

 あなたの“お願い”……必ず、叶えてみせます。

 どれほど辛くても……どれほど苦しくても……

 俺は、生きて……繋様を、村を……支えていきます。」


触れていた手が、かすかに震える。


そして墓標へ添えていた手を、

名残惜しそうに、そっと離した。


その指先に残る石の冷たさが、

まるで秋穂の最後の気配のようで——

少しだけ胸がきゅっと締めつけられる。


そんな稲人の背後で——

繋と幼なじみは、静かに息をつき、

ようやく少し落ち着きを取り戻した彼の姿に、

安堵の色を浮かべていた。


そのとき。


繋が、胸元からそっと何かを取り出した。

両手で大切に包むようにして、稲人へ歩み寄る。


「……稲人様」


その声音は、寂しさと、誇りと、慈しみが入り混じっていた。


「これを……お返しします」


差し出されたのは——

秋穂が最後まで手放さなかった、あの秋桜の栞だった。


「姉様は……祈祷の最中も、

 ずっとこれを胸に抱いておりました。

 きっと……稲人様に持っていてほしいと……

 そう思うのです」


稲人は息を呑む。


震える指で、そっと栞を受け取ると、

指先に触れた紙の感触が——

秋穂のぬくもりの“名残”のように思えて、胸がまた締めつけられた。


「……秋穂様……」


震えながらも、その声は確かに前へ進もうとしていた。


「……ありがとうございます。

 この栞は……俺が生きていく証として、預からせてください。


 そして──

 天寿を迎え、秋穂様のもとへ行けたその時。

 胸を張って……この栞を、改めてお渡しいたします。

 “約束の証”として。」


繋は涙をこらえながら、そっと頷いた。


幼なじみが、気遣うように一歩だけ近づき、


「……稲人。

 さっき言っていた“巫女様の最後のお願い”って……

 いったい……何だったんだ?」


稲人は、墓標からそっと目を離し、

袖で涙の跡をぬぐいながら、静かに答えた。


「……俺が……

 “毎日、健康で生きること”。」


幼なじみは、目を瞬いた。


稲人は続けた。


「“毎日、笑って過ごすこと”。

 “長く、長く……生きていくこと”。」


繋は胸に手を当て、小さく息を呑む。


「……そして……」


稲人は墓標へ視線を戻し、

まるで秋穂がそこに立っているかのように、やさしく言葉を紡いだ。


「皆に見送られるほどに、

 天寿を全うしてほしい……と。」


幼なじみが、切なさを含んだ表情で俯く。


稲人の声は、震えながらも芯があった。


「その時まで……

 村のこと……繋様のこと……

 俺がどう支えて生きたか——

 それを“書き記して”持ってきてほしいと……

 そう……仰っていた。」


繋の瞳に、こらえきれない涙が光った。


「……姉様……」


稲人はそっと拳を握りしめ、


「――だから、俺は生きる。

 笑って、生きて……

 あの方の願いを、全部……叶えてみせる。」


そう告げた声は、静かで、けれど何より強かった。


その力強さに、幼なじみがゆっくりと息をつき、

ふっと笑みを浮かべた。


「……だったらよ、稲人。

 俺も、おまえを支えなくちゃな!」


その声は明るく、どこか照れくさそうだった。


「一人で全部背負い込んだら、大変だろ。

 俺だって……繋様や村の皆のために、頑張ってるんだからな!」


胸を張るその姿に、繋も思わず微笑んだ。


「……はい。

 姉様の代わりに、この身を尽くして……

 稲人様や、村の皆をお支えしてまいります。」


稲人は二人の顔を見渡し、

涙の跡がまだ残る頬で、静かに笑みを浮かべた。


「……そうか。

 それなら——」


秋穂の墓標へそっと視線を戻し、

まるでそこに彼女が微笑んでいるかのように、やさしく言う。


「……それなら、皆で長生きしよう。

 いつか秋穂様のもとへ行ったとき……

 胸を張って“こんな日々を生きました”って……

 たくさん想い出を、知らせに行けるようにな。」


風がそよぎ、

三人の決意を包み込むように草が揺れた。



---


三人が墓前を離れるころには、

空の色はいつの間にか、沈む夕日の朱へと変わっていた。


稲人は胸元の栞をそっと握りしめる。


(……必ず、生き抜いてみせます。

 あなたが願った未来を——)


その背を、繋と幼なじみが静かに並んで歩く。


こうして三人は、

それぞれの胸に“秋穂の願い”を抱えながら、

ゆっくりと村へ戻っていった——。





ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


稲人、繋、そして幼なじみ……

三人が秋穂の想いを受け取って立ち上がる大切な章でした。

皆さまの応援のおかげで、ここまで紡いでこられました。


次話はいよいよエピローグ となります。

どうか最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。


これからも応援してくださる皆さまに、心より感謝を込めて。

ありがとうございました。(*´∀`*)

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