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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】眷属と主神様が織りなす物語  作者: 稲荷寿司
【実は狐の眷属です!真白と紡の神社便り】

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【断れない性格】

優しすぎて、心がすり減っていく女性。


そんな彼女の前に現れたのは――白狐の眷属・真白。


静かな神社で、ひとつの心がそっと癒やされていく。



---


朝の光がやわらかく境内を照らしていた。


掃き清められた石畳には、木々の影が風に合わせて揺れ、

この場所だけ時間がゆっくり流れているようだった。


参拝を終えた女性は、深く息をつきながら歩いていた。

近ごろずっと張り詰めていた心が、少しだけ和らぐ気がした。


ふと、社務所の横に貼られた小さな張り紙が目に留まる。


「抹茶、お出しします。お気軽にどうぞ。」


文字の並びにどこか品があり、見ているだけで落ち着くようだった。


(抹茶……飲んでいこうかな)


そう思った瞬間、視界の端に白衣が揺れた。


そこに立っていたのは——

境内の光に溶けるような、穏やかな雰囲気を纏った青年・真白だった。

箒を手に、静かに景色を見守っている。


女性はにこっと愛想よく笑い、明るい声で尋ねた。


「すみません、この抹茶って……?」


真白は箒をそっと立てかけ、女性の問いに静かに微笑み返した。


「抹茶の張り紙をご覧になったのですね。

 よろしければ、お淹れいたします。

 どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。」


その声は、不思議と胸の奥の緊張をそっと溶かしていくように柔らかかった。

女性は静かに息を整え、自然と頷いていた。


「では、ご案内いたしますね」


女性は真白に導かれ、

あたたかな陽の光が差し込む縁側へと腰を下ろした。


「素敵なお庭ですね……」


「そうおっしゃっていただけると、手入れしている者たちも喜びます。」


真白は静かに微笑むと、軽く会釈した。


「では、お抹茶をご用意してまいりますので……こちらで少々お待ちください。」


真白がそっと離れていく。


一人になった女性は、縁側から広がる庭を眺めながら、

胸の奥のざわつきが少しずつ落ち着いていくのを感じていた。



---


しばらくして、真白が抹茶をお盆に乗せて戻って来た。


抹茶の香りが、ふわりとあたたかく立ちのぼる。


真白は女性のそばにそっと膝をつき、

お盆を静かに縁側へ置いた。


「どうぞ。熱いのでお気をつけください。」


そう言ったあと、真白はふと女性の表情に目を留めた。


「……少し、お疲れのように見えます。

 ここでは肩の力を抜いて、ゆっくりなさってください。」


その優しい言葉に、女性の肩の力がふっと抜ける。


湯呑を両手で包み込むと、自然と胸の奥がほぐれていくようで——

ぽつりと声が漏れた。


「あの……ちょっと聞いてもいいですか?

 断らなきゃいけない時って、どうしてます?

 わたし、つい相手のこと考えすぎちゃって……言えなくなるんです」


「はい?」


「行きたくない誘いも、“はい”って言ってしまって……。

 あっ、でも行きたくないって言っても、嫌いとかじゃないんです。

 例えば予定を詰めすぎた日とか、今日は家でゆっくりしようって決めてた日に

 誘われたりした時とか……」


言葉がこぼれ始めると、自然に続いていく。


「それに……気が進まない食事会や飲み会も、ホントは断りたいんですけど……。

 “場の空気”っていうんですか?

 私が断ったせいで盛り下がっちゃったら嫌だなーとか考えちゃって……

 つい、“行きます”って言っちゃうし……」


言葉は、堰を切ったように溢れ出た。


「しかも! この間なんて……。

 気乗りしない飲み会に参加したら、隣の席の人にセクハラされて……。

 “場の空気壊したら悪いかな”って思って、笑って流しちゃって……」


真白はただ静かに頷きながら聞き続けていた。


その“肯定”に安心したのか、女性の目が潤む。


「ほんとうは、“何すんの!”って言ってやりたかったのに……。

 でも、自分が我慢すれば場の空気も壊れないよなって思ったら……

 言えなくなっちゃって……」


真白はそっと口を開いた。


「……でも、それは“あなたの優しさ”でもあるのではないでしょうか。」


女性は一瞬、瞬きをした。


「優しさ……?」


真白は、言葉を選ぶようにやわらかく続けた。


「皆の楽しい雰囲気を壊したくない。

 誘ってくれた人の気持ちに応えたい。

 その場にいる人たちが嫌な思いをしないように——と、

 あなたはいつも周りを気遣っておられるのでしょう?」


女性は息を飲んだ。

“気遣っている”と初めて誰かに言われたような表情だった。


「……はい……」


真白はほのかに微笑む。


「ただ、優しさというのは、ときに“自分”を傷つけてしまうことがありますからね。」


その瞬間、女性の胸の奥がほろりと揺れ、

涙がひと粒こぼれ落ちた。


真白のそばから漂う白い光がふわりとその涙を包み、

そっと消えていく。


紡ぎが、少し離れた場所から目を見開いてつぶやく。


(……真白さま、また自然に浄化してる……)



---


「断れない性格が悪いのは分かってるんです……でも」


真白は湯呑をそっと押しやりながら、言葉を添える。


「“断る勇気”は、急には持てません。

 でも——“自分の気持ちを大切にする練習”なら、今日からでもできます。」


女性はゆっくりと顔を上げた。

揺れる瞳に、戸惑いと期待が入り混じる。


「……練習、ですか?」


真白は静かに頷き、柔らかな声で続けた。


「はい。

 いきなり“断る”というのは、誰でも難しいものです。

 でも——まずは気づくことからで良いのです。」


真白は自分の膝の上でそっと指を組み、

穏やかに言葉を続けた。


「“あ……いま、疲れてるな”

 “今日は、休みたいな”

 そうやって自分の気持ちを一度確認するだけで、十分なんですよ。」


女性のまつげがかすかに揺れた。


真白は続ける。


「あなたは、いつも周りの人を優先してきた。

 だから、自分の気持ちを後回しにする癖がついてしまったのかもしれません。

 まずは、“自分がどう感じているか”を確かめてみる……

 それは立派な一歩です。」


女性は胸の奥に小さな灯りがともるような表情になった。


「……それなら……私にも、できるかもしれない…」


真白は静かに微笑む。


「ええ。無理をせずに、少しずつで大丈夫ですよ。

 それでも、難しくてできなかったら……また、お抹茶を飲みに来てください。

 そのときは、またゆっくりお話を聞かせてくださいね。」


「ありがとうございます……。

 聴いていただいただけでも、すごくスッキリしてきました。」


女性は照れくさそうに、でも安心したように微笑んだ。


「……練習、頑張ってみます。

 それでもやっぱりだめだったら……また、お抹茶いただきに来ますね。」


言い終えると同時に、抹茶を飲み干した。


ふぅ……と深く息をつく。


「よかった。」


真白はほっとしたように微笑む。


「あなたが少しでも楽になったのなら……それだけで十分ですよ。」


女性は空になった湯呑を置きながら、ぱっと表情を明るくした。


「そうだ! 帰りにお守りもいただいて帰りたいです!」


真白は穏やかに頷き、社務所へと案内した。



---


女性が手に取ったのは、淡い緑の小さなお守りだった。


「これにします。」


真白は両手で包むようにして渡した。


その瞬間——

女性の胸にじんわりあたたかい光が広がった。


(……安心感……? なんだろう……この気持ち……)


真白はそっと言葉を添える。


「この御守りには、あなたの心を守る力を込めました。

 無理せず、自分を大切になさってください。」


女性はぱっと笑顔を見せた。


「ありがとうございます! 本当に軽くなりました!」


足取りも先ほどよりずっと柔らかく、

境内を後にしていく——

まるで重たい荷物をひとつ置いていったかのように。



---


女性が鳥居をくぐり、姿が見えなくなると、

境内には再び穏やかな静けさが戻った。


風が木々の葉を揺らし、陽の光が柔らかく差し込む。


少し離れた場所から見守っていた紡ぎが、

そっと真白のもとへ歩み寄る。


「真白さま……先ほどの抹茶、あれ、ただのお茶じゃないですよね?」


真白は微笑み、茶器を静かに片付けながら答える。


「ええ。ほんの少しだけ、神気を込めています。

 抹茶の香りや湯気に、人の心を整える力を宿せるんです。」


紡ぎは目を丸くし、小さく息を呑む。


「だから、参拝者さんの表情があんなにやわらかくなっていったんですね……」


「心を癒す力は、言葉だけでは届かないこともあります。

 けれど——香りや光、そしてお茶の温もりが、静かに心を解いてくれるのです。」


真白は空を仰いだ。

朝の光が葉の隙間から差し込み、白衣を淡く照らす。


紡ぎはその横顔を見つめ、静かに呟いた。


「真白さまの優しさって……本当に、光みたいです。」


真白は少しだけ微笑み、


「光はね、誰の中にもあるものですよ。

 私は、それを少しだけ映すだけです。」


風がそよぎ、鈴の音がかすかに鳴った。


紡ぎはその音に目を細め、静かに頷いた。



---




最後までお読みいただき、ありがとうございます。

(*´∀`*)

少しでも心に穏やかな光を感じていただけたなら幸いです。


これからも、真白たちの物語を読んでいただけましたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
心が疲れている人には読んでもらいたいです。真白さんの癒やしが伝わってくる作品でした。
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