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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
【豊穣の舞に遺された想い】

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【終章】・残された者の慟哭

本日もお読みいただきありがとうございますm(__)m


今回は、病が治ったあとの

稲人のお話になります。


少し切ない展開にはなりますが、

最後までお付き合いいただけましたら幸いです。






幼なじみの若者衆は、本殿の部屋に入るなり、稲人の元へ駆け寄った。


「……い、稲人……! 目、覚めたのか……!」


その声は震えていた。

涙と安堵が、ないまぜになった顔で——


「……っ……心配させやがって…… ほんとうに……よかった……」


幼なじみは、そう言って、稲人の肩を強く叩いた。


「……なんで、俺……ここに……?」


稲人は、かすれた声で問う。


「……本殿、だよな……?」


そして、違和感に、はっとする。


「……それより……俺の体……」


熱に焼かれ、水疱に覆われ、動かすことすら苦痛だったはずの身体が——


「……軽い……」


幼なじみは、少し戸惑うようにしてから、語り始めた。


「……看病の手が足りなくてさ。神主様と巫女様の判断で……病人は、皆ここに運び込まれたんだ」


「……俺だけじゃ、なかった……?」


「ああ。おまえが一番ひどくて、一番長く眠ってただけだ」


稲人は息を呑む。


「……じゃあ……みんな……?」


「……もう、目が覚めて、家に帰ってる。元気になってさ」


その言葉を聞いて、稲人の胸が、ふわりと、あたたかくなった。


「……そうか……」


そして、ふっと、笑顔になる。


「……さすが……巫女様だな……」


幼なじみは、目を伏せたまま、何も言わない。


「……俺も……早く、元気に戻らなきゃな。……また、巫女様をお支えしないといけないし……」


その言葉に、幼なじみの喉が、小さく、鳴った。


「……とりあえず…… なにも、食ってないだろ。白湯、飲め……」


顔を背けるようにして、そう言う。


「……あ、ああ……」


稲人は頷いた。


「……すぐ、持ってくる……」


そう言って、幼なじみは部屋を出る。


引き戸が閉まったあと——


廊下で、彼は、肩を震わせた。


「……俺には…………巫女様が……亡くなったなんて…………言えない……」


ひっそりと、涙が落ちる。


すると——


「……稲人様は、目を覚まされましたか?」


静かな声が、背後から聞こえた。


振り返ると、そこに、繋が立っていた。


幼なじみは、小さく、頷く。


「……姉様のことは、私が話します」


繋は、胸に抱えた文を、ぎゅっと握りしめていた。


そして、静かに、部屋へと向かう。


引き戸が、そっと、開く。


「……稲人様」


稲人は、繋の姿を見て、微笑んだ。


「……繋様……! 村のみんなも……巫女様達のおかげで……助かったんですね……」


「……いえ」


繋は、ゆっくりと首を振る。


「……これは、ひとえに…… 姉様の、祈祷のおかげです」


「……やっぱり……」


稲人は、誇らしげに、笑った。


「……巫女様は……やっぱり、凄い……」


そして、少し、照れたように。


「……よかった…… 巫女様が……病にかかってなくて……」


「……この後…… お礼に、伺わせてください」


繋の指先が、震えた。


「……それは……」


その声は、かすかに震えていた。


「……それは……できません……」


「……え……?」


胸の奥に、嫌な予感が、這い寄る。


「……まさか…… 巫女様が……病に……?」


稲人は、息を詰める。


「……もし…… 最後に……俺のところに……来てくれたなら…… その時に……俺が……」


「……いいえ」


繋は、きっぱりと、否定した。


「……病では……ありません」


「……じゃあ……」


その続きを、稲人は、言葉にできなかった。


繋は、目を伏せ——

震える呼吸のまま、告げた。


「……姉様は……」


「……命を…… この村のために……捧げました」


「……どういうこと……ですか……?」


稲人の声は、自分でも驚くほど、かすれて、震えていた。


「……姉様は……」


繋は、唇を噛みしめて、


「……村の皆を救うために……」

「……人柱の祈祷で……命を捧げました……」


「……うそ……だろ……」


稲人の視界が、歪む。


村の皆を救うために。人柱の祈祷で。

――命を捧げた。


「……なに……を……言って……」


声が、うまく出なかった。


……うそ、だ。


稲人の視界が、ぐにゃりと歪む。


だって――


皆、助かっただろ。


俺も、生きてるのに。


どこも、痛くない。


あとだって。


震える指で、何度も、自分の腕をなぞる。


消えて。


ちゃんと、治って。


……それなのに。


どうして……!!


声が、裏返った。


巫女様が。


巫女様が、死ぬ。


……そんな。


そんな、ことが――


息が、浅く、速くなる。


胸が、ばくばくと暴れ出す。


やめろ。


そんな、嘘。


聞きたく、ない。


両手で、耳を塞ぐ。


そんな事、言うな。


お願いだから――


鼓動が、耳鳴りのように、頭の奥で暴れ出した。



---


立ち上がろうとして、よろける。


……どこだ。巫女様は……どこに……。


「落ち着いてください……!」


繋が、支えようとする。


だが、稲人は、その手を、強く、振り払った。


「巫女様——!!」


本殿を、探し回る。


——いない。


どこにも、いない。


……そんな……

そんなはず……ない……。


ふらふらと、廊下を進んで——


巫女舎の前で、立ち尽くした。


……ここにも……いない……。


その背後から、


「稲人様」


繋が、追いつく。


「……姉様の元へ……ご案内します……。」


「…なんだ…… やっぱり……居るんじゃないですか…」


そう、呟きながら——

稲人は、繋についていく。


そして——


辿り着いた先にあったのは。


冷たい、墓標だった。



---


(……うそ、だ……。)


膝が、崩れ落ちた。


「……うそだ……!!」


両手で、土を掻きながら——


俺は……あの方を………

あの方の、笑顔を……

守るって……!


「——うわああああああ!!!!」


泣き叫ぶ。


子どものように。


何度も、地を叩く。


「…嫌だっ!…帰ってきてくれ…… お願いだから……。」


声は、空に、溶けていった。



---


どれほどの時間が、過ぎたのか。


涙も、声も、枯れ果てた頃。


稲人は、ふらりと、立ち上がった。


……もう……

生きて……いる意味なんて……ない……。


その足で、歩き出そうとする。


だが——


「待ってください……!」


繋が、前に立ちはだかった。


そして——


震える手で、

一通の文を、差し出した。


「……姉様が…… あなたに、遺されたものです……」



ここまで読んでくださって、

本当にありがとうございます!


こうして読んでいただけることが、

何よりの励みであり、

執筆を続ける力になっています。


これからも、

「真白シリーズ」を

温かく見守っていただけましたら嬉しいです。

(*´∀`*)

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