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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
【豊穣の舞に遺された想い】

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27/50

【終章】・白き願いの帰還

いつもお読みいただきありがとうございます。

(*´∀`*)


今日は、

静かな気持ちで書いたお話です。


大きな出来事よりも、

心の動きや、言葉にならない想いを

そっとすくい取るような回になっています。


よろしければ、

ゆっくりとした気持ちで

物語の中に入っていただけたら嬉しいです。



「——真白」


名を与えられた瞬間。


その瞳に、確かな“意志”が宿った。

命の奥で、揺らめいていた光が——

目を、覚ました。


次の瞬間。


真白の身体の奥底から、白い光が——

一気に、溢れ出した。


光は、とどまることなく、

その小さな身体を突き抜け——

村へと、走り抜けていく。


それは、

痛みを祓うように。

悲しみを祓うように。

絶望を祓うように——

やさしく、けれど確かに。


奇跡は、その光と同時に——


病に伏していた者の熱が引き、

荒れていた呼吸は、安らかな寝息に変わっていった。


黒く滲んでいた病の痕は、

雪解けのように、跡形もなく消えていった。


はじめに訪れたのは、

あまりにも静かな時間だった。


誰もが、それを“夢”だと思った。


けれど——

誰かの、震える声が、

静けさの中へ、そっと落ちる。


あちこちで灯りが揺れ、

囁きが、息づきはじめた。


「……熱が、ない……」

「身体が……動く……」

「……痛くない……」

「……助かった……」


その声は、

安堵と、興奮をはらみながら、

村に、静かに、広がっていく。


やがて村は、

泣き声と、歓喜と、驚きで、満ちていった。


抱き合う者。

天を仰ぐ者。

地にひざまずく者。


誰もが、

同じひとつの場所を、心に思い浮かべていた。


——巫女様。


この奇跡を、誰が成したのか。

答えなど、誰も口にしなくても、わかっていた。


あれほどまでに、

村人が歓喜に包まれているというのに——


社殿の奥、祠の中だけは、

まるで時間に取り残されたように、

息をひそめていた。


そこに、ふたりの人影があった。


ひとりは、

祠の前に、まっすぐに立ち尽くしている。


神主は、祠の奥へと倒れ込むように進み、

動かぬ巫女の身体を——

強く、強く、抱きしめた。


「……すまない……」

声が、震える。


「わたしが……

 わたしが、代わるべきだった……」


巫女の肩に、顔をうずめ、

嗚咽をこらえることなく、

神主は、泣き崩れた。


「……許してくれ……

 わたしを……」


震える肩。くぐもる声。

ただ、後悔だけが、そこにあった。


その背中にはどうしようもない、

“想い”だけが、残されていた。


その姿を、繋は、ただ、見つめていた。


祠の奥に横たわる大好きな姉を抱きしめて

泣き崩れる背中が、

ひとつの現実として、胸に落ちてくる。


繋は、小さく息を吸って——

そして、静かに、口を開いた。


「……神主様……」


わずかな、間。

もう一度、言葉を探すようにして——


「……いいえ……」


次いで、ひどく震えた声で、続けた。


「……父上……」


その名が呼ばれた瞬間。

神主の肩が、びくりと、跳ねた。


唇が、

声にならない何かを探すように、震える。


繋は、一歩、近づいて——

ただ、その背中に向かって、言葉を続ける。


「……姉様は……最後に、こう、言っていました」


「――“父上にも、伝えてほしいのです”」


その言葉に、神主の呼吸が、止まる。


「“私は……最後まで、この村と……”」


繋は、ゆっくりと言葉を選びながら、続けた。


「“皆を、守りたいと、願っていました”」


肩が、小さく震える。


「“父上の娘で、いられたことを”」


繋の声が、わずかに、揺れた。


「“……誇りに思っています”」


その瞬間。


神主の胸から、嗚咽が、漏れた。

声にならない声が、

祠の静寂を、壊していく。


「……あぁ……あぁ……」


娘の亡骸を、

失うまいとするように——

その腕に、力がこもる。


「……ありがとう……

 ……私の、

 ……私の、

 立派な娘……」


その額に——

ぽつりと、涙が、落ちた。


白い光に満ちた、

祠の奥に重なり合う“神の領域”。


同じ場所に在るはずなのに、

まるで見えない帳に隔てられたように、

女神様たちの姿は、

神主と繋には、感じ取ることさえできなかった。


けれど——

神域の中からは、

悲しみに沈む、ふたりの姿が

はっきりと、見えていた。


動かぬ身体を前に、膝をついた神主。

その肩に、そっと寄り添う繋の、小さな影。


声を上げることもなく、

ただ、重なる沈黙だけが、

祠の奥に、滲んでいく。


そのすぐ傍で——

やわらかな光が、静かに揺れていた。


巫女の魂だった。


女神様は、その光景を、ただ、見つめていた。


やがて、

巫女の魂へと、そっと視線を移し、

穏やかな声で、静かに、語りかける。


「……良きご家族に、愛されていたのですね」


巫女の魂の光が、

ふっと、やわらかく、揺れた。


それは、否定でも、迷いでもない。


――ただ、

そこに“想いが在る”ことを示す、

静かな、確かな、応えだった。


女神様は、その揺らめきを見つめ、

しばし、言葉を選ぶようにしてから、そっと、訊ねた。


「……想い人には」


「……なにか、遺していく言葉は、ありますか?」


祠の中の光が、ほんの一瞬——

ゆらりと、揺れた。


それは迷いではなく、

胸の奥にしまわれていた想いが、

そっと、ほどけるような、震えだった。


巫女の魂の光は、

とても穏やかで、

あたたかく、

満ち足りたように、揺れていた。


女神様は、その変化に気づき、

ふっと、やさしく微笑む。


「……そうでしたか」


「愛しい方には——

 ちゃんと、会えたのですね」


巫女の魂は、小さく。

けれど、確かに——

“うなずくように”光を揺らした。


それは、ことばではなく。


けれど、

いちばん静かで、

いちばん深い——

「答え」だった。


女神様は、それ以上、なにも言わず、

ただ、やさしく、その魂を、見守った。


「……では」


「そろそろ、天へ、帰りましょう」


「あなたも——

 本当によく、役目を果たしました」


女神様の腕の中で、

真白は、静かな寝息を立てていた。


白い毛並みは、やわらかな光に包まれ、

小さな胸が、かすかに、上下している。


巫女の魂は、最後に、そっと——

繫へ、目を向けた。


そこには、

涙と、

祈りの名残と、

生きて続いていく、

確かな未来が、あった。


そのとき。


神域の奥で、

かすかな声が——

風のように、重なった。


「……繋……」


「……これからの未来を……

 どうか……お願い……」


祠の中。


繋は、顔を上げた。

まるで、いま、すぐそばで

呼ばれたかのように——


「……もちろんです」


震える声で、

それでも、しっかりと——

繋は、応えた。


「安心して――

 眠ってください……姉様」


白い光が、

いっそう、やわらかく——

祠の奥に、満ちていった。


女神様は、静かに、歩き出す。


その腕の中には、

小さな眷属と、ひとつの、魂。


それは、別れではなく。


はじまりより、

ずっと、あたたかい——


“帰還” だった。

---

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

(*´∀`*)

この時間を一緒に過ごしていただけたこと、

とても嬉しく思っています。


お話の中に、

少しでも心に残る場面がありましたら幸いです。


また次のお話で、

お会いできたら嬉しいです。


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