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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
【第一章】 ――参拝者編――

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あの子ときなこ棒を半分こした日から20年後 ― 後編編

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*





ランチのとき同僚に言われたひと言が、

どうしても胸のどこかに引っかかっていた。



——イマジナリーフレンドじゃないですか?――


恵

(……違う。絶対に“いた”んだ。

 一緒に笑って、きなこ棒半分こして……)



説明なんてできない。

でも胸の奥でざわざわする感覚は、

ずっと、ずっと消えずに残っていた。



だから休みの日実家へ帰省した時に、



恵はふと足が向くまま、

久しぶりに“あの神社”へ向かっていた。



鳥居をくぐった瞬間——



境内の空気がふっと揺れた。



その気配に、

優羽《ゆうは》の身体がぴくりと震える。



優羽《ゆうは》

(……え?)



鳥居の向こうに立つ女性を見た瞬間、

胸の奥が強く震えた。



驚き。


懐かしさ。


そして……言葉にならない喜び。



——あの子だ。




優羽《ゆうは》は一瞬で気づいた。



優羽

「恵ちゃん……だ。」



たとえ二十年の時が流れても、

心が先に答えを出した。



だけど恵の視線は、優羽《ゆうは》すり抜ける。



無理もない。

優羽《ゆうは》はほとんど姿が変わらない眷属。



人間である恵のほうがずっと大人になっていた。



当時よりは成長しているものの、

恵に比べればずっと "若く見える姿”——



それは、もう誰も優羽《ゆうは》を 

“あの頃の子”だとは結びつけられなかった。



恵は手を合わせてお参りをすませ、

境内をゆっくり見渡した。



その背を、

優羽《ゆうは》は胸を押さえながら見つめる。



優羽《ゆうは》

(……声をかけたい。でも……)



迷いが胸の奥に絡みつく。



そのとき。



真白

「優羽《ゆうは》さん」



そっと寄り添うように真白が立っていた。



真白

「……あの方。あなたがずっと待っていた

“お友達”なのではありませんか?」



一瞬で、優羽《ゆうは》の息が止まった。



優羽《ゆうは》

「……真白様、どうして……?」


真白

「わかりますよ、あなたの気配が……

あれほど揺れているのは、初めてです」



優羽《ゆうは》の胸にじんわりと温かさが広がっていく。



ちょうどそのとき——



恵

「あの……何か、

 御守りとか見てもいいですか?」



優羽《ゆうは》は、はっとして振り返る。



優羽《ゆうは》

「はい。社務所はこちらです。どうぞ」



声が自然に震えた。



けれど参拝者は気づかないまま、

優羽《ゆうは》の後ろを小さく歩く。



社務所へ案内して、

優羽《ゆうは》はほんの一瞬、

振り返りそうになるのを堪えながら下がった。



優羽《ゆうは》

(……また、会えた)




胸の奥に、そっと温かい光が灯る。



恵が御守を選び終えたころ、

ふと棚に貼られた小さな札が目に留まった。



『お抹茶サービス』



恵は少し遠慮がちに顔を上げた。



恵

「……あの、

 このお抹茶って……いただけたりしますか?」



その声に、

社務所で対応していた真白が柔らかく微笑んだ。



真白

「はい。もちろんでございます」



そして、気づかれないように

小さな声で優羽《ゆうは》に告げる。



真白

「優羽《ゆうは》さん。

 縁側までのご案内……お願いできますか?」



優羽《ゆうは》は驚きに目を瞬き、



優羽《ゆうは》

「……ありがとうございます!

 任せていただけて……嬉しいです」



小さく頭を下げ、

優羽《ゆうは》は参拝者のもとへ歩み寄り、



胸にしまいきれない感情をそっと押しながら言った。



優羽《ゆうは》

「お抹茶をご希望ですね。では、縁側へご案

 内いたしますね。こちらにどうぞ。足元、

 お気をつけください……」



恵は「ありがとう」と微笑み、

優羽《ゆうは》の後ろ姿を追うように縁側へ向かっていった。



その背中を見送りながら、

真白は静かにお抹茶の支度を始めた。



優羽《ゆうは》は心臓の音が聞こえてしまいそうなほど緊張しながら、縁側へ向かう道をゆっくり歩く。



優羽《ゆうは》

(……こんな日が、また来るなんて)



胸の奥が、少し痛くて、でも温かかった。



優羽《ゆうは》が参拝者を縁側に案内し終えたころ、

社務所では真白がお抹茶の準備を整えていた。



真白

「優羽《ゆうは》さん」



小声で呼びかけられ、優羽《ゆうは》は振り返る。


真白

「お抹茶の配膳と……

 少しの間お話のお相手をお願いしてもいいですか?」



その言葉は、優羽《ゆうは》の胸にそっと落ちて

小さな波紋のように広がった。



優羽《ゆうは》

「……はい!!行ってきます」



優羽《ゆうは》は抹茶ののったお盆を両手で大切に抱え、



鳥居の向こうから二十年ぶりに現れた、

“友達”のもとへゆっくりと歩いていった。



縁側に着くと、

恵は柔らかい陽に照らされながら待っていた。



優羽《ゆうは》

「お待たせいたしました、お抹茶ですどうぞ」



優羽《ゆうは》はそっと盆を置き、湯飲みを静かに差し出す。


恵

「ありがとうございます。……わぁ、いい香り」



恵は湯気を吸い込み、ほっとしたように目を細めた。



恵

「とても落ち着きますね……

 やっぱり、この神社……なんだか特別なんです」



そこから、恵は自然と話し始めた。



恵

「実は……

 今日ここに来たのには理由があるんです。

 昔、こちらの神社で……よく遊んでいたんです」



優羽《ゆうは》の胸が小さく鳴った。



恵は、

膝の上で手を組み空を見上げながら続けた。



恵

「小学生のころ……私、転校してきたばかりで、

 学校にも馴染めなくて……

 恥ずかしいのですが、友達がいなかったんです」




優羽《ゆうは》は静かに耳を傾ける。



恵

「でも……学校の帰りに、

 この神社でいつも座っている子がいて、

 景色を見ながら、ひとりでぽつんとしてて……

 あっ! "私と同じだな” って思ったんです」



その言葉を聞いた瞬間——



優羽《ゆうは》の胸の奥が、きゅうっと締めつけられた。



優羽《ゆうは》

(……そっか、恵ちゃんも……“ひとり”だったんだ)



置いていかれたんじゃない。



この子も、優羽《ゆうは》と同じように寂しかったのだとようやく気づいた。



恵

「それで……その子に声をかけてみようって……

 勇気を出して、“一緒に遊ぼう”って」



恵は微笑んだ。



恵

「その後は……本当に毎日楽しかったんです。

 鬼ごっこして、隠れんぼして、落ち葉で山つくって……

 手なんて真っ黒になりましたね」



優羽《ゆうは》の喉がつまった。



恵

「それに……きなこ棒。

 あれ、半分こして食べたんです、……

 あの時の味、今でも忘れられないんです」



その言葉が、



優羽《ゆうは》の胸の奥にそっと降りてきて——

静かに波紋を広げていった。



優羽《ゆうは》

(……わたしだって、忘れたことなんてないよ……)



懐かしさと、切なさと、

胸に灯る温かい光がやわらかく混ざり合う。



でも——



その想いを口にすることはなく。



優羽《ゆうは》はただ、落ち着いた微笑みを保ちながら

恵の言葉に静かに耳を傾け続けた。



恵

「でも……塾に通うことになってしまって。

 前みたいに、遊びに来られなくなって……

 気づいたら、その子と……会えなくなっていました」



静かな風が縁側を通り抜ける。



恵

「あんな毎日遊んで、大切だったのに……

 顔が思い出せないんです……

 そんなことって、あるんですかね?」



優羽《ゆうは》はそっと微笑んだ。



優羽《ゆうは》

「小さな頃の記憶は……

 時々、見た目の形だけが薄れてしまうのです。

 でも……過ごした時間や、嬉しかった気持ちは……

 きっと、心の中に残っていますよ」



恵はその言葉を胸に受け止め、息をついた。


恵

「……そう、ですよね。

 本当に……大切な思い出なんです」



そしてお腹をそっと撫でた。



優羽《ゆうは》は気づき、目を見開いた。



優羽《ゆうは》

「……あの、もしかして……」



恵は、そっとお腹に手を添えながら照れたように微笑んだ。



恵

「はい。もうすぐ母になります……」



優羽《ゆうは》の心臓が、ふわりと跳ねた。



恵は少し息を整え、

懐かしい記憶を掬い上げるように続ける。 



恵

「この子の名前、どんな名前にしようかって……

 ずっと考えていたんです。

 でも、今日あなたと話していたら……急に、

 思い出したんです。

 あの頃、一緒に遊んでくれたあの子――

 優羽《ゆうは》ちゃんのことを。」



優羽《ゆうは》の胸がじんわりと熱くなる。



恵

「優羽《ゆうは》ちゃんみたいに——

 優しくて、元気で、

 まっすぐ育ってほしいなって思いました。……

 だから、今……決めました」



恵はお腹をそっと撫でながら微笑んだ。



恵

「生まれてくる、

 この子の名前……優羽《ゆうは》」



少し照れたように、でも嬉しそうに続ける。



恵

「――優羽《ゆうは》にします。」



優羽《ゆうは》の呼吸が、止まった。



二十年前。



境内で一緒に笑っていた、



あの頃の名前が――



今、未来へ受け継がれた。

 


世界が一瞬だけ止まったように感じた。



優羽《ゆうは》

「……とても素敵な……お名前ですね」



言葉を絞り出すのが精一杯だった。



恵は穏やかに微笑む。



恵

「学校で馴染めなかった私に、

 毎日遊んでくれた……あの子のおかげで、

 “ひとりじゃない”って思えたんです。

 ……だから。大切な友達の名前なんです」



優羽《ゆうは》は涙をこらえるように微笑んだ。



そこで真白から預かった、 



恵が選んだ安産祈願の御守をそっと差し出した。



優羽《ゆうは》

「どうか……

 お子さまが健やかに生まれますように。

 心を込めて、お祈りいたします」



恵は胸の前で御守を抱きしめた。



恵

「……ありがとうございます。

 本当に……ありがとうございます」

 


立ち上がり、深くお辞儀をし、

鳥居の向こうへ歩き出す。



優羽《ゆうは》はその背中を、



二十年前と同じように、静かに見送った。

 


風がそっと吹き抜け、



落ち葉がひとつ、やわらかく舞い上がる。



——まるで昔みたいに。

 


恵の背が鳥居の向こうへ消えていく。



優羽《ゆうは》はそっと胸に手を当てた。



優羽《ゆうは》

(……覚えていてくれて、ありがとう)



二十年前のあの子が、



大人になった今でも——

 


自分との日々を大切に思い出してくれた。



その事実が、優羽《ゆうは》の胸の奥に静かに灯りをともす。

 


優羽《ゆうは》はそっと目を閉じ、

温かく祈りを結ぶ。



優羽《ゆうは》

(どうか……

 あなたと、生まれてくる子が

 健やかで、幸せでありますように)



夕暮れの風がそっと吹き抜け、



その祈りを柔らかく運んでいった。

 


目を開けた優羽《ゆうは》の瞳には



微笑みが静かに浮かんでいた。



優羽《ゆうは》

(……また、会えてよかった)



その笑顔は、



三十年前に恵が大好きだった



“あの頃の笑顔”



とまっすぐにつながっていた。




恵を見送ったあと、

優羽《ゆうは》]]が社務所へ戻ってきた。



その表情はどこか晴れやかで、

胸の奥に灯った光をまだ大切に抱いているようだった。



縁《えにし》が、箒を持ちながらふっと微笑む。



縁《えにし》

「……よかったね、優羽《ゆうは》くん」



真白も穏やかな声で続ける。



真白

「大切なお友達と、もう一度会えましたね」



優羽《ゆうは》

胸に残る温かさを噛み締めながら小さく笑った。



優羽《ゆうは》

「はい……。でも……なんで、あの子……

 わたしの顔、思い出せなかったんだろう……?」




その問いに、

[[縁《えにし》は少しだけ表情を曇らせたが、


すぐに優しく説明する声に変えた。


縁《えにし》

「……それはね、優羽《ゆうは》くん。

 私たち眷属は、

 人間とは成長の仕方がまったく違います。 

 もし人の子が“同じ顔のままの

"眷属"を覚えてしまえば……

いずれ不自然さに気づいてしまうでしょう?」



優羽《ゆうは》は、はっと息を飲む。

縁《えにし》は静かに続けた。



縁《えにし》

「だからね……

 子どもの頃に深く親しくなった相手ほど……

 まやかしの術が働くんだよね……

 僕達 "眷属" を守るために」


優羽《ゆうは》はそっとまばたきし、

ほんの少し寂しげにうつむいた。



優羽《ゆうは》

「……そっか……

それでも覚えててくれたのは……嬉しかったな」



真白が柔らかな声で、



真白

「術が必要になるほど——

 優羽《ゆうは》さんとその子には、

 強い絆があったということですよ」


その言葉に、優羽《ゆうは》の表情がふっと明るくなる。



だがそのとき、

縁《えにし》がなぜか遠い目をして、ため息まじりに呟いた。



縁《えにし》

「……しかし……僕のことは……存在すら覚えてなかったね……」



優羽《ゆうは》と真白がきょとんとした顔で見つめる。



縁《えにし》はどこかショックを引きずった声で続けた。



縁《えにし》

「私も……けっこう遊んであげたはずなんだけど……

 “おじさんが鬼ね” と言われてさ……

 いまだに……胸に刺さってるのに……」



優羽《ゆうは》が思い出したように、

ぷるぷると肩を震わせ始めた。


優羽《ゆうは》

「た、たしかにっ縁《えにし》様……

 いきなり“おじさんが鬼ね!”って

 ……言われてましたね……!」


真白も珍しく吹き出した。



真白

「ふふっ!縁《えにし》様が

 お、おじさん……ですか……?」



優羽《ゆうは》は慌ててフォローしながらも笑いが止まらない。



優羽《ゆうは》

「で、でも……!縁《えにし》様とのかくれんぼが、

 わたし、現世にいていちばん、

 忘れられない出来事でした!

 楽しかったですよ……ほんとに……!」



縁《えにし》は天を仰ぎ、小さく呟く。



縁《えにし》

「……心に……深い傷が……」



優羽《ゆうは》と真白は顔を合わせ、くすくすと笑った。



そこへ、たまたま通りかかった紡が

目をぱちくりさせて立ち止まる。



紡

「えっ……縁《えにし》様を

 “おじさん”呼ばわりする人なんて、

 どんな猛者なんですか……!?」



縁《えにし》はまた深いため息をつき、



縁《えにし》

「……私は“おじさん”だったそうですよ」



優羽《ゆうは》と真白は顔を見合わせて、

くすくすと笑い出す。



その笑い声は、

二十年前のあの日と同じように

境内へ静かに広がっていった。



優羽《ゆうは》はそっと空を見上げる。



優羽《ゆうは》

(……あの子も、今ここに居たらきっと笑ってるだろうな)



夕暮れの光の中で、

優羽《ゆうは》はやわらかく微笑んだ。





最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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