真白と紡のはじまり
神社の静かな朝。
穏やかな眷属・真白と、元気な少年・紡ぎの出会いから、物語は始まります。
日常の小さな喜びや戸惑い、成長の瞬間を、一緒に見守っていただければ幸いです。
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柔らかな朝の光が差し込む中――
縁側に立つ真白は、昨日の夕暮れの神社での出来事を思い返していた。
初めて出会った紡ぎ。
人の姿になろうとしてうまくいかず、耳も尾も消せずに慌てふためいた様子を思い出し、思わず笑みを浮かべる。
(……さて、あの子はもう起きただろうか)
ふとそんな思いが胸をよぎる。
真白の視線が境内のほうへ向いたその頃――
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起床した紡ぎは、身支度を整えながら鏡で自分の姿を確認していた。
昨日の夕暮れの神社での出来事が、自然と脳裏に浮かぶ。
初めて神社に足を踏み入れ、戸惑いながらも一生懸命だった自分。
人の姿になっていると思い込んでいたが、耳も尾も消せずに慌てふためいていた。
そんな僕を、真白様はそっと見つめ、微笑んで迎え入れてくれた。
(……真白様はお優しい方だ……!)
勘違いを笑って受け止めてくれた真白様の穏やかさに、胸の奥がじんわり温かくなる。
――そして、心の中でそっと思う。
(僕も、真白様のようになれるのかな……)
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紡ぎは胸の高鳴りを抑えながら、本殿へと顔を出した。
「おはよう、紡ぎ」
「おはようございます、真白様!」
ぴしっと頭を下げるその姿に、真白は思わず微笑む。
まだ所作のひとつひとつに緊張が滲むが、その真っ直ぐさがどこか愛おしかった。
「現代ではね、『さん』を使うことが多いよ。
『様』は特別なときだけで大丈夫。これから慣れていこうね」
言葉を聞いた紡ぎが、ぱっと顔を上げる。
その目が一瞬にして明るくなるのを見て、真白は胸の奥が温かくなる。
(……なるほど、そういうことか!)
「はいっ!」
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紡ぎの元気な返事に、真白は微笑みながら頷く。
「今日は神社での日常から教えていこう。
まずはここでの過ごし方、掃除や簡単な手伝いからだ」
紡ぎは緊張しながらも頷く。
真白は静かに彼の背を見守り、心の中でそっと応援する。
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社務所の奥から、神主の姿をした先輩眷属・縁が現れた。
穏やかな笑みを浮かべ、紡ぎに声をかける。
「おはよう、紡ぎくん。
私は縁。神社の守護や結界を担当している眷属だ。よろしくね」
紡ぎは少し緊張しながら頭を下げ、自己紹介する。
「は、はじめまして!
僕は紡ぎです。まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします!」
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さらに、巫女の結羽が元気に駆け寄った。
「やっほー!
私は結羽。眷属と協働して悪鬼の殲滅を担当してる巫女だよ。
紡ぎくん、今日から一緒に頑張ろうね!」
紡ぎはつられて笑顔になる。
「結羽さん、よろしくお願いします!
ぼ、僕も頑張ります!」
真白は二人のやり取りを見つめながら、胸の奥にほんのりと温かいものを感じた。
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歩きながら、真白は御神木や鳥居の手入れの仕方を説明する。
「まずは掃き掃除からやってみようか」
紡ぎは初めて教わることに戸惑いながら、ほうきを手に取った。
力加減が分からず、ほこりを舞い上げてしまい――思わずくしゃみをする。
「えっと、どうすれば……」
小さな声で呟く紡ぎに、結羽が笑いながら近づく。
「ふふ、最初は誰でもこうなるよ!
ほら、私が見本を見せるね」
結羽が軽やかに掃き掃除をして見せると、紡ぎは目を丸くした。
「すごい……!」
その様子を見た真白も、微笑ましい気持ちになる。
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「ふふっ、大丈夫。焦らなくていいよ」
真白が手を添え、ほうきを正してあげる。
紡ぎは少しずつ力を調整し、慎重に掃除を続けた。
途中でほこりを舞い上げたり、ほうきを逆に持ったりしてしまうが、
結羽が「大丈夫大丈夫!」と明るく笑いながらサポートしてくれる。
紡ぎもつられて笑顔になり、和やかな空気が本殿に広がった。
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御神木の葉がそよぎ、縁側に差し込む朝の光。
その中で、紡ぎの初めての神社での生活が静かに始まる。
少しずつ覚え、少しずつ慣れていく――
真白はその背を見守りながら、心の奥で静かに想った。
(これからの日々が、きっと彼を強く、優しくしていく)
柔らかな光に包まれながら、
紡ぎと真白の物語が、静かに幕を開けた。
ご覧いただきありがとうございます。
この物語は、真白と紡ぎの“はじめての一日”を描いた小さな章です。
日常の中の小さな喜びや戸惑い、成長の瞬間を、穏やかに、そして丁寧に紡ぎました。
これからも二人は、少しずつ互いを知り、共に歩んでいきます。
この先の物語も、ぜひ楽しみにしていただければ幸いです。




