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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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静かな神社に増えていく“黒い願い”の絵馬

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*


――



豊穣神社の朝は、澄んだ冬の空気から始まる。


吐く息は白く、

鳥居の向こうから差し込む朝日が、

石畳を淡く黄金色に染めていた。


しゃっ……しゃっ……


境内には、竹箒の音が静かに響いている。


つむぎが、いつものように参道を掃いていた。


「うーん……」


竹箒を止めて、紡は鳥居の外を見た。


朝の参拝客が来る時間だ。


いつもなら、

近所の人たちや通勤前の会社員、

犬の散歩の途中の人などが、

ぽつぽつと鳥居をくぐってくる頃だった。


だが――


今日は、人影がない。


「……あれ?」


紡は首を傾げる。


その時、後ろから優羽ゆうはの声が飛んできた。


優羽

「紡ー! そこ終わったー?」


振り返ると、

優羽が両手にバケツを持ちながら、

こちらへ歩いてきていた。


「あ、優羽さん!」


優羽はバケツを石畳に置くと、

境内を見回した。


優羽

「今日は冷えるねー」


「そうですね」


優羽

「でも、この空気好きなんだよね。

冬の神社って、なんか澄んでる感じがして」


紡はうんうんと頷いた。


「分かります。なんだか、世界が静かですよね」


優羽は笑いながら、


優羽

「紡、そういうこと言うとちょっと詩人っぽいよ?」


「えっ!? そ、そうですか?」


二人はくすっと笑う。


その時だった。


社務所の方から、

えにしの声が聞こえてきた。


「二人ともー」


縁が社務所の縁側から手を振っている。


「ちょっといい?」


紡と優羽は顔を見合わせて、

縁の方へ歩いていった。



「年末に設置する大祓い用の、茅の輪のこと 

 なんだけど……てっ…あれ?」


縁は境内を見渡しながら、

少し首を傾げている。



「どうしました?」


縁は顎に手を当てた。


「今日、人少なくない?」


紡と優羽は、

同時に境内を見回した。


確かに――


誰もいない。


いつもなら、

今頃は数人の参拝客がいる時間だった。


優羽

「……あれ?」



「いつもなら、もう何人か来てるよね?」


「……確かにそうですね……言われてみれば、誰もいませんね」


優羽

「寒いからかな? ほら、こたつから出たくない時期だし」


優羽が明るく振る舞うが、縁の眉は寄ったままだ。


「寒さのせいねぇ……でもさ優羽くん、最近賽銭箱の中身も妙に少ない気がしない?」


「えっ?」


紡が目を丸くする。


「例年なら、年末に向けて駆け込みで参拝客が増える時期でしょ?でも今年は……増え方が不自然なんだよ。昨日なんて、一昨日の半分もなかった」


縁の言葉に、

紡の背筋を冷たいものが通り過ぎた。


風が吹き、

石畳の上を落ち葉が一枚、

乾いた音を立てて転がっていく。


カラカラ、カラカラ……。


その音が、異様に大きく境内に響き渡る。


その時だった。

ようやく一人、

鳥居をくぐって女性の参拝客が現れた。


「あ!来ましたよ」



紡はほっと息をつき、鳥居の方へ視線を向けた。


女性は無表情のまま軽く会釈をし、本殿の前へと進んだ。


だが、その歩き方には妙な違和感があった。


まるで自分の意思ではなく、

何かに導かれているかのようだった。


――ガラガラ、ガラ……。


鈴の音が重く響き、ぱん、ぱん、と乾いた柏手が打たれた。


参拝を終えた女性は、

こちらを一度も見ることなく、

静かに境内を後にしていった。



「…………」


縁はその背中をじっと見送っていたが、

やがて視線を "ある場所" へと移した。


「ねぇ、あそこ」


縁が指差したのは、本殿の横にある絵馬掛けだった。


紡と優羽は顔を見合わせ、

引き寄せられるようにそこへ歩いていった。


優羽

「うわっ……すごい数」


優羽が息を呑む。


参拝客が少ないという話とは裏腹に、

そこには溢れんばかりの絵馬が重なり合っていた。


昨日までは、まだ木枠の地肌が見えていたはずなのに。


「参拝客は少ないのに、絵馬だけが増えているって……おかしくないですか?」


縁が手を伸ばし、一番手前にあった絵馬を軽くめくった。

 

「どれどれ……」


 

そこに書かれていた願い事を見て、


縁の眉が、

わずかに動いた。



《あの人の奥さんが消えますように》


 

「……」


優羽

「どうしました?」


縁は少し黙ったあと、


「いや……」


絵馬を戻す。


「なんでもない」


「?」


優羽

「?」


三人は顔を見合わせた。


境内には、

冬の風だけが静かに吹いている。


カラカラ……


絵馬が一枚、

小さく揺れた。


――人は少ない。


――なのに、絵馬は増えている。


豊穣神社の静かな境内に、


ほんのわずかな違和感が、

静かに積み重なり始めていた。



――その日の夕方――



「ごめんね〜真白くん、ちょっと見てもらいたい物があってね、これなんだけど」



真白

「いえ、縁様が僕に相談なんて珍しいですね、これは……すごい数ですね」



真白が息を呑む。


参拝客が少ないという話は縁から聞いていた。


だがその話とは裏腹に、

そこには溢れんばかりの絵馬が重なり合っていた。



「参拝客は少ないのに、絵馬だけが増えているんだよ……どう思う?」


真白が手を伸ばし、一番手前にあった絵馬を軽くめくった。

 


『あの人が、一生不幸でいますように』



真白が顔を強張らせる。

隣の絵馬をめくる。


『失敗しろ。失敗しろ。失敗しろ。この世から消えてしまえ』


さらにその奥。


『あいつのプロジェクトが失敗しますように』


そこにあるのは、豊穣の神に捧げる『感謝』でも『希望』でもなかった。


他者の不幸を願い、

自分の欲望を満たそうとする、

どろりとした負の感情。


真白

「……これ、全部……」


真白が震える手で次々と絵馬をめくる。


驚くべきことに、

そのどれもが似たような "呪い" に近い願い事で埋め尽くされていた。


カラン……カラン……。


風が吹き、絵馬同士がぶつかり合う。

それはまるで、数え切れないほどの人々の『嫉妬』や『怨嗟』が、小さな木の板を通して囁き合っているかのようだった。


真白

「縁様、しかも……この絵馬……豊穣神社の物ではないですよね……」


「うん……そうなんだよね……」


縁の瞳から、いつもの余裕が消えていた。

彼は絵馬掛けをじっと見つめ、何かを測るように目を細める。



「人は来ない。けれど、願いだけがここに『捨てられて』いる。……まるで、誰かが意図的にこの神社の『気』を濁らせようとしているみたいだ」


その時。


境内の隅、

一番太い木の影の中から。


クスクス、と。


小さな笑い声がした。


真白が弾かれたように振り返るが、

そこには揺れる木の影があるだけだった。


夕暮れの光は、いつの間にか厚い雲に覆われ始めている。


澄んでいたはずの空気は、

今や湿り気を帯び、


肌にまとわりつくような不快な冷たさへと変容していた。


「……嫌な予感がするね」


縁がぽつりと零した言葉。


それが――


これから始まる

“大祓い”の


真の意味への幕開けだった。




最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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