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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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133/159

大祓い編プロローグ ― 年の瀬の豊穣神社にて

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

−−−




禁忌の眷属の起こした事件から――


およそ一ヶ月が経とうとしていた。



豊穣神社では、

年の瀬を迎える準備で慌ただしい日々が続いていた。


冬の冷たい空気の中、

竹箒が石畳を擦る音だけが、

静かな境内に響いていた。


つむぎ

「……は、はっ……はくちゅんっ!!」



本殿の軒下から、可愛らしくも派手なクシャミが聞こえてきた。


煤払いの真っ最中である紡が、

顔を真っ黒にして鼻を押さえている。


その隣では、

同じく鼻の頭にススをつけた優羽ゆうはが、

大きな溜息をつきながら竹箒を杖のように突いていた。


「げほっ……!」


優羽

「ちょ、紡!勢いよくやりすぎ!」


「す、すみません!……げほっ!」


優羽

「うわ、ちょっと待って!煙みたいになってる!」


「うぅ……優羽さん、大丈夫ですか? もう、どこを叩いても埃が出てくる……これじゃ煤払いどころか、埃乱舞ですよぉ……」


優羽

「ふふ、でも、ここを綺麗にしないと主神様が気持ちよく年を越せないからねー。ほら、あともう少しだから、頑張ろ!紡!」


紡が袖で顔を拭うと、

煤が伸びて余計に顔が汚れ、


それを見た優羽が「あはは、鼻真っ黒!」と笑い声を上げる。



境内のあちこちでは、


年末恒例の大掃除――

煤払いが行われている。



二人は顔を見合わせ、思わずくすっと笑う。



やがて本殿の煤払いが一段落すると、


優羽は境内の裏手へ回り、

掃き掃除を始めた。



竹箒を動かしていると、

ふと、ある場所で手が止まる。



本殿の裏、

木々の影に隠れるような小さな空間。



優羽

「……あ」



そこは――



かつて、あの子と隠れた場所だった。



優羽の脳裏に、

あの日の光景がよみがえる。



小さな手に引かれながら、

木の陰へ連れて行かれたこと。




――ここ、絶対見つからないよ!――




あの時の声が、

耳の奥でかすかに響いた気がした。



優羽は、

そっとその場所を見つめる。



そして、ふっと小さく笑った。



優羽

「ふふっ……懐かしいな……」



ほんの一瞬、

感傷に浸るような静かな時間。


自分に言い聞かせるようにパンと頬を叩き、


優羽

「さっ!掃除掃除!」


優羽は再び箒を動かし始めた。



冬の境内に、

また竹箒の音が戻った。




――その頃



社務所では、

真白ましろえにしが、静かな手つきでお正月用の授与品の準備に取り掛かっていた。



机の上には、

ずらりと並んだ授与品。



白羽と朱羽が交互についた鮮やかな破魔矢、

金糸で刺繍されたお守り、

そして清浄な気が宿るお札など、


それらを一つ一つ丁寧に、

豊穣神社の印が入った真っ白な紙袋へと納めていく。


紙袋が重ならないよう整え、

形が崩れないよう向きを揃えながら、


二人は黙々と作業を続けていた。



「はぁ……葵くんの件から、

 もう一ヶ月かぁ。早いもんだね。」



縁が破魔矢の束を整理しながら、ふと呟いた。



真白も、

手元の袋詰めをしながら小さく頷いた。



真白

「本当です。つい昨日のことのように思い出

 せますが……現世の時の流れは、我々の想

 像以上に早いですね」



真白が丁寧な所作でお守りを袋に詰める。



「天界には季節行事なんてないからねぇ。

 真白くん、そっちは足りそう?」


真白

「はい。こちらは十分です、あとは熊手で終

 了ですね。……紡さんと優羽さんも、無事 

 に煤払いができていれば良いのですが」


真白が少し心配そうに境内の奥へ視線を向けると、縁は苦笑しながら肩をすくめた。



「いやぁ、でもね。あの二人に任せられる仕

事は、煤払いしかなかったんだよ、正直、

焔神社や龍神のみんなが羨ましいよ。あっ 

ちの眷属はもっと落ち着いてるじゃない?」



真白

「確かに……。この袋詰めは意外と、繊細な力加減が必要ですし、紡と優羽さんでは、袋が何枚あっても足りない事態になりそうですね……」


真白の脳裏には、袋を破いて慌てふためく二人の姿が容易に想像できたのだろう。

彼は少しだけ困ったように眉を下げ、


けれどすぐに穏やかな表情に戻った。



真白

「ですが……日常の働きはともかく、いざとなった時は本当に頼りになりますから」


「そうなんだけどさぁ……やっぱり隣の芝生はなんとやらじゃない?」



その言葉に、

真白はくすっと笑った。



真白

「僕の分は終わりました。縁様、お手伝いしますよ」


「ありがとう。でも僕ももう終わるからさ、そろそろ皆で休憩にしようか?」


縁が優しく微笑む。

冬の午後の陽射しが、

彼の柔らかな表情を黄金色に縁取っていた。


真白

「では、僕がお茶の準備をしてきますね」


真白は静かに立ち上がり、

社務所の奥へと消えていった。





―――鳥居前




紡が竹箒で

最後の掃き掃除をしていた。



しゃっ……しゃっ……



冬の風が、

鳥居をくぐって吹き抜ける。



「今年はいろんなことがありましたねぇ……」



独り言のようにつぶやく。



「春頃にこの豊穣神社に来て、真白様や縁様、優羽さんにいろいろ教えてもらって……」


「琥珀糖の作り方とか、浄化の気の使い方とか……真白様に、たくさん教えていただきましたし」



箒を動かしながら、

空を見上げる。



「縁様には、

たくさん怒られましたけど……」



少しだけ笑う。



「そういえば、ユッキーさんが助けを求めて、僕のおでこに激突したこともあったっけ……ふふっ、全部大切な思い出ですね」



そんなことを思いながら――


箒を再び動かし始めた、その時だった。



ごんっ!!



「っ!?」



何かが、

紡のおでこに激突した。



紡はおでこを押さえ、

涙目になる。



「えっ!?何!?」



顔を上げると――



そこには、

気まずそうな顔のユッキーが漂っていた。



ユッキー

「ご、ごめんなさい紡さま!久しぶりに真白様に会えると思ったら、ついスピード出ちゃって!」



その後ろから、

笑成えなが走ってくる。



笑成

「ユッキー!?だから気をつけてって

言ったのに!」



紡は、

ぽかんと二人を見たあと――



突然笑い出した。



「ふっははは!」



ユッキーと笑成が固まる。



笑成

「……え?」


ユッキー

「紡さま……?」


笑成

「ま、まさか当たりどころ悪かったんじゃ……」



紡は涙を拭いながら慌てて手を振る。



「違います!違います!ちょうど今、

前にユッキーさんが僕のおでこにぶつかった時のこと思い出してたんです!」



二人は

ほっと息をついた。



ユッキー

「なんだ……びっくりしました……」


ユッキーは、小さな手で

紡のおでこを優しく撫でる。



ユッキー

「ごめんなさい紡さま、赤くなっちゃいましたね……」


「だ、大丈夫です!僕も頑丈ですから!」



そこへ――


優羽

「紡ー! 休憩だってーーって、きゃー! ユッキーちゃん久しぶり!!」


優羽は獲物を見つけた肉食獣のような素早さでユッキーを両手で包み込み、


優羽

「可愛い~!」


と頬ずりしながら奥へと連れ去っていった。


ユッキー

「えっ、ちょっ……!」



残された紡と笑成は、

ぽかんと立ち尽くした。



紡はおでこを押さえながら笑う。



「笑成さん、僕たちも行きましょうか」



笑成

「……はい!」



二人は社務所へ向かった。




社務所の中では、湯気の立つお茶の香りが満ちていた。



えにし

「今回もよくやったね、ユッキーちゃん!」


なぜか上機嫌な縁が、真っ先にユッキーを褒め称える。



ユッキーと紡が

同時に声を上げる。


ユッキー・紡

「「えっ?」」




そんな二人を横目に、

真白は笑いながら、笑成へ声をかけた。



真白

「最近の調子はいかがですか?」



笑成は頷く。


笑成

「ええ、とっても好調です。ユッキーがいてくれるおかげかな」



ユッキー

「やだー! 照れるじゃないの笑成ったら!」


ユッキーが手足をパタパタさせて宙を舞い、

社務所に穏やかな笑い声が広がる。


やがて話題は、

自然と年末の忙しさの話へ移っていった。


「そういえば笑成くんの店も、

年末は忙しいんじゃない?」


笑成は湯呑みを持ったまま、

少し困ったように笑う。


笑成

「そうですね。この時期は天然石を求めて来る人が、ぐっと増えるんです」


紡が首を傾げる。


「天然石って、やっぱりお正月とか関係あるんですか?」


笑成

「ありますよ!一年の運気を整えたいとか、

新しい年を良い流れで迎えたいとか」


笑成

「そういう理由で石を買いに来る方が

とても多いんです」


優羽が少し感心したように言う。


優羽

「へぇ……そんなに、年始は気持ちを切り替えたいものなんですか?」


笑成

「うーん、人間の中には占いや縁起を気にす 

る人も多いからですかね。

浄化用の水晶とか、お守り代わりの石とか、この時期は特によく出ます。」


それを聞いていた縁が笑いながら言う。


「なるほどねぇ、神社と同じで、人が何かに願いを託したくなる時期なんだね」


真白も静かに頷いた。


真白

「そうですね、人の子は昔から年が変わる節目は、心も整えたくなるのでしょう」


紡がぱっと顔を上げる。


「じゃあ!笑成さんのお店も今、すごく忙しいんですね!」


笑成は苦笑する。


笑成

「ええ、クリスマスが終わると一気にお正月モードになるので、今はかなり慌ただしいです」


縁が机の授与品を見て肩をすくめた。


「うちも似たようなものだよ。ほら、初詣の準備でまだまだ忙しくなるし」


紡が元気よく頷く。


「僕も頑張ります!」


縁が少し苦笑いをうかべながら、


「紡くんの場合は頑張りすぎないくらいが丁度いいかな」


「えっ……」


優羽がくすっと笑う。


優羽

「確かに、この前の琥珀糖みたいになったら

大変だものね」


「そ、それは……!」


その場に小さな笑いが広がった。



笑成

「今度お店にも遊びに来てください、

面白い石、たくさんありますから」


「本当ですか!?僕、見てみたいです!」


優羽

「私も」


「じゃあ今度、みんなで行こうか」


和やかな空気の中、

しばらく談笑が続いた。


やがて笑成が時計を見て立ち上がる。


笑成

「そろそろ帰らないと。楽しくて、つい時間を忘れちゃいます」


ユッキーも、笑成の元へふわりと近寄る。


ユッキー

「皆さん!今日はありがとうございました! とても楽しかったです!」


真白は静かに頭を下げる。


真白

「こちらこそ、お忙しい中ありがとうございます」


「またいつでも遊びに来てね」


「また来てください!」


優羽

「またゆっくりお茶しましょう」


それから、

笑成たちは「良いお年を」言葉を交わして、神社を後にした。


鳥居を抜け、薄暗くなった参道を歩く笑成の後姿。



その背中を――


影に混じるようにして、一本の古びた樹の陰から、見つめる男が一人姿を現した。



男の顔は闇に溶けて見えない。



闇に溶けるような影。その口元だけが、三日月のように吊り上がる。



にやり――



不気味な笑みを残し、男の姿が掻き消える。残されたのは、ただ寒々しい冬の風の音だけ。


豊穣神社に訪れる、新年――


それが、

真白たちの願う穏やかな夜明けになるのか。


それとも――



最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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