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【実は狐の眷属です!真白と紡ぎの神社日誌】  作者: 稲荷寿司
「実は狐の眷属です!真白と紡の神社日誌」

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13/50

【影と光と真白と紡】

お読みいただきありがとうございます。

今回は、少し不思議で少し怖い出来事から始まるお話です。ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。

(*´∀`*)

数年前 —


最近、急に“人の形をした黒いモヤ”がはっきり見えるようになった。

以前は視界の端で揺れる影のようなもので、

「あれは悪いものなんだろうな」程度の認識だった。


──でも、今は違う。


あの黒い影は、

頭・肩・腕・足の輪郭までわかる“人型”をしている。

近づいてくる“気配”まで感じ取れるほどだ。


(どうして急に、こんな…


最初に“完全な人型”を見たのは、仕事帰りの夜だった。


閉店後、店の電気を落としてレジ締めを終え、

真っ暗になった館内を従業員入口へ向かった時だった。


非常灯だけがぼんやりと床を照らす通路。

コツ……コツ……と足音だけが響く。


その時。


(……あれ?

あそこに誰か立ってる……?)


従業員が残っていると思った。

肩の高さも、立ち方も“人”にしか見えなかった。


しかし、目が慣れた瞬間──

輪郭が黒いモヤでできていることに気づいた。


ゾワッと背が冷えた。


次の瞬間。


バッ!!!!!!


黒い影が、人ではありえない速さで

こちらに飛んできた。


「っ……!!」


息が詰まり、体が固まる。

触れられる距離まで迫った──その瞬間。


バサァッ!!


黒いモヤは砕け散り、

霧のように空気へ溶けて消えた。


心臓だけが、いつまでも

ドクッ……ドクッ……!!

と耳の奥で鳴り続けていた。


従業員口を出て、震える指でスマホを開く。

“黒い人影 襲ってくる”と検索すると──


“シャドーマン”

という単語が表示された。


(シャドーマン……?

……名前ついてるんだ……)


解説には、


・黒い人影のように見える霊的存在

・突然現れ、気配だけで襲うように近づいてくる


そんな言葉が並んでいた。


(……やっぱり……見間違いとかじゃなかった……)


名前がついたことで恐怖が現実に変わり、

胸がぎゅっと縮こまる。


−−


(あのシャドーマン、突然現れるから本当に怖い……

どうにかならないかな……)


悩みが積もりすぎて、

気づけば職場の人にぽつりと言った。


「なんか悪いものとか寄ってきてる気がして……」


すると同僚が軽い調子で言った。


「そう言えば、昨日SNSで流れてきたんだけど、日本の三大縁切り神社ってあるんだってよ。

悪い縁とか念とか切れるらしいよ〜」


冗談半分のアドバイスだったのに、

妙に心に引っかかった。


調べてみると、遠いけれど行けない距離ではなかった。

口コミには


“気持ちが楽になった”

“悪いものが消えた気がする”


そんな言葉が並んでいる。


(……行ってみよう)


その決心は、導かれたように自然だった。


次の休日に榛名は神社へ向かった。



---


神社に入った瞬間、空気が変わった。


(……軽い……?)


鳥居をくぐった途端、

背中に貼りついていた重さがふっと抜けた。


その代わりに、

まるで空気そのものが浄化されているような

“澄んだ気配に満ちた空気” が全身を包む。


冷たさはなく、

むしろ肺の奥へ透明な光が流れ込んでくるようで、

自然と深く息を吸ってしまう。


砂利を踏む音が静かに響き、

木々の香りが心をほどいていく。


(初めて来たのに……なんでこんなに安心するんだろ……)


本殿へ近づくほど、

その“澄んだ気配”はさらに濃くなった。


賽銭を入れ、鈴を鳴らし、手を合わせた瞬間──


胸の奥がふわりと揺れた。


淡い光が触れたような、優しい力が広がる。


(……胸の奥がふわっと軽くなった……

心も身体もスッキリして……

神さまが、悪いものをそっと祓ってくれた気がした……)


静かに目を開けると、

身体が軽くなったような感覚が残っていた。


(……来てよかった……)


気がつけば社務所の前に立っていた。


「こちら、縁切りの御守になります」


声に顔を上げると、

白い衣の青年──真白が穏やかに立っていた。


「じゃあ、縁切りの御守りひとつ、お願いします」


榛名が御守を受け取った瞬間、

胸の奥に温かな安心が広がった。


「よろしければ、お茶もいかがですか。

少しお疲れのように見えましたので」


真白にそう言われ、榛名は自然に頷いていた。



---


縁側に座り、

抹茶を口にすると、

胸の奥のこわばりがゆっくりほどけていった。


気づけば榛名は、

黒い影のことをすべて話していた。


真白は黙って聞き、

榛名が言い終わるまで決して口を挟まなかった。


そして──

柔らかい声で、そっと言った。


「それは……とても怖い思いをされましたね。」


その一言だけで、

張りつめていた心の糸がゆっくり緩んでいく。


真白は静かに続けた。


「大丈夫ですよ。

榛名さんは“とても強く守られている”方です。」


榛名は驚きに目を瞬かせた。


「……守られている?

それって……守護霊みたいなもの、なんですか?」


真白は頷く。


「はい。それに近いものですね。

強い“守りの存在”が常にそばにいらっしゃいます。」


胸の奥がふっと軽くなる。


真白は、御守を軽く押し返すように

榛名の手の上へそっと添えた。


「ただ……まれに、もう少し強い影に出会うことがあります。

その時は、この御守に向かって

『消えてください』と強く願ってください。」


榛名は息を呑む。


「……消えてって願うだけでいいんですか?」


真白は微笑んだ。


「はい。

榛名さんは強く守られている分、

その願いがまっすぐ届きます。

影は触れる前に砕けて消えますよ。」


胸元の御守をぎゅっと握ると、

その言葉の温度が掌まで伝わった。


(……そうか……守られてたんだ……

だから……安心していいんだ……)


静かに息をつく榛名に、

真白はそっと頷いた。


この日から自然と、

この神社に足が向くようになっていった。



---


現在 —


鳥居をくぐると、胸の奥がふわりとほどけた。


「真白さんこんにちは。

今年も替えのお札と、御守お願いします」


真白は優しい笑みを浮かべる。


「その後のご様子はいかがですか?」


榛名は胸元の御守をそっと握り、

安心したように微笑んだ。


「おかげさまで、とても良いですよ。

“消えてください”って願うと影も飛散します!」


「それは、本当に良かったです」


その時、静かな足音が近づく。


「失礼いたします。お抹茶、できました」


お盆を丁寧に持ち、静かに一礼する若い青年──紡ぎが姿を見せた。

所作は落ち着いていて、柔らかな気配が漂っている。


真白が榛名に向き直る。


「榛名さん。

こちらはつむぎといいます。

最近、一緒に働き始めた新人なんですよ」


紡ぎは丁寧に頭を下げた。


「榛名さん、はじめまして。

紡と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


榛名は自然と優しく笑った。


「新人さんなんですね。

お仕事、大変なことも多いと思いますが……

どうか無理なさらず、頑張ってくださいね」


紡ぎは少し驚いたように瞬きをし、

すぐに控えめな笑みを返す。


「ありがとうございます。

そう言っていただけると、励みになります」


真白が榛名の前に抹茶を置いた。


一口飲むと、ふわりと肩が軽くなっていく。


「……美味しい……癒されます……」


言葉にした途端、

自分でも気づいていなかった疲れがふっと抜けた。


紡ぎの頬がわずかにゆるみ、

嬉しさが静かに滲んだ。


「お役に立てたなら……良かったです」


榛名は軽く会釈し、縁側をあとにした。


榛名が縁側から立ち上がると、

境内を抜ける風が、まるで見送るように頬を撫でた。


(……なんだろう。

ここに来ると、本当に……心が軽くなる)


歩き出した背中は、

木々の光を受けてふわりと明るく見えた。


来た時よりもずっと、ずっと軽かった──。



---


榛名を見送ったあと、

紡ぎは静かに真白の横に立った。


「真白様……

榛名さんって、どうして黒い邪気に狙われるんですか?」


真白はしばし考えた後、

落ち着いた声で言葉を紡いだ。


「榛名さんは“白い光の性質”を持っています。

生まれつき澄んだ気質で……

私たち眷属と、どこか近い性質を持つのです」


「えっ……人間なのに?」


紡ぎの金色の瞳がかすかに揺れた。


「ええ。

あれほど素直で清らかな光を持つ人間は、そう多くありません。

守護している存在がとても強いのでしょう」


真白は境内の方へ視線を向ける。


「黒い邪気は“光”を求めて寄ってきます。

榛名さんに近づいた弱い邪気は、

光に触れた瞬間──自ら砕けていたのです」


紡ぎは小さく息をのんだ。


「……じゃあ、強い邪気も来たり……?」


「ええ。

だからこそ御守を持つこと、

そして“強く消えて”と願うことをお伝えしたのです」


紡ぎは真白の横顔を見つめながら呟いた。


「榛名さん……本当にすごい人なんですね」


「ええ。

そこにいるだけで、周囲の“気”を浄化してしまうほどですよ」


紡ぎは胸の奥が温かくなるのを感じながらも、

どこか不安げに視線を落とした。


「……僕も、いつか……

榛名さんみたいに誰かの力になれるでしょうか」


真白はそっと紡ぎの肩に触れた。


「紡ぎ。

あなたはもう、人を癒していますよ」


紡ぎが驚いた表情で顔を上げる。


「え……?」


「さきほど榛名さん、抹茶を飲んだ瞬間……

肩の力がふっと抜けていましたね。

あれはあなたの光が、自然に抹茶へと乗ったからです」


紡ぎの胸が、じんわりと熱くなる。


真白は言葉をさらにやわらかく重ねた。


「榛名さんは強い光を持つ人間。

けれど、自分の意思で扱うことはできません。

だから定期的に神社へ来て、主神様の神気で整える必要があります」


「……じゃあ僕は?」


「あなたは“眷属”です。

光そのものを扱う存在。

自分の意思で、人の気を整えたり癒したりできるのですよ」


真白の声が、境内の風にとけていく。


「恐れなくていいのです。

焦らず、丁寧に……

あなたの光は、これからもっと強く、やさしく育っていきます」


紡ぎはゆっくりと頷いた。

その瞳に宿る光は、さっきよりも少しだけ強い。


境内を抜ける風が、紡ぎの髪をやさしく揺らした。


紡ぎは胸に手を当て、真っ直ぐな声で言う。


「……僕、もっとがんばります。

もっとたくさんの人を癒せるように」


真白は穏やかに微笑んだ。


「ええ。紡ぎならきっとできますよ。

あなたの光は、これからも確かに育っていきます」


その言葉に、紡ぎは嬉しそうに大きくうなずいた。


──が。


真白が次に口を開いた瞬間、

紡ぎの動きがぴたりと止まる。


「……ですが、まずは紡ぎ。

備品を壊さないように、ですね」


「……え?」


紡ぎの顔が一瞬きょとんと固まる。


真白はやわらかく苦笑しながら続けた。


「ほうきと湯呑み……今月だけで三つ。

縁様に、かなりしっかり叱られていましたよね?」


「……っ!!」


その瞬間、

紡ぎの顔色が “青ざめていく” のが分かった。


(……思い出した……縁様のあの目……あの声……!)


肩ががくんと落ち、

耳どころか尻尾もしあればまでしおれて見える。


「……あ、あの……が、がんばります……

ふ、不注意……気をつけます……っ」


真白は堪えきれず、やわらかい笑いを漏らした。


「ええ。そこから少しずつで構いませんよ、紡ぎ」


紡ぎはまだ青ざめたまま、

こくこくと必死にうなずいていた。


その様子があまりに素直で、

真白はそっと紡ぎの頭を撫でた。


風が静かに境内を通り抜け、

紡ぎのたじろいだ声と真白のやさしい笑いを運んでいった。



---



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

影の恐ろしさと、神社で得られる安心──

その対比を通して、少しでも“光の物語”を感じていただけたなら幸いです。


真白と紡ぎのやり取りも、

これからもゆっくり描いていけたらと思っています。

(*´ω`*)


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― 新着の感想 ―
紡ぎくんの失敗はまだありますが、成長も感じられて楽しみです。榛名さんのシャドーマンの正体も、榛名さんを安心させる説明が優しくてよかったです。
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